J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

「研修に向き合う姿勢とパフォーマンス改善に関する調査」より 研修をパフォーマンスにつなげるために 必要なものとは

どうすれば、社員が研修で学んだことを現場の仕事で活かせるのか―。
これは、多くの企業の人材育成担当者が抱える悩みである。
今回は、そのヒントを見いだすべく、ビジネスパーソンを対象に調査を行った。
彼らの学習スタイルや学びの姿勢に注目することで、研修で学んだことをパフォーマンスにつなげられる人材の特性を明らかにしていく。


宍戸拓人(ししど たくと)氏(寄稿)
武蔵野大学 経済学部 経営学科 講師

武蔵野大学経済学部経営学科講師。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了[博士(商学)]後、一橋大学商学部特任講師、武蔵野大学政治経済学部経営学科講師を経て現職。
専門は経営学、組織行動論。組織におけるコンフリクト研究をテーマに多数の国際学会発表を行うと同時に、国内外の研究成果にも詳しい。
taku_shi@musashino-u.ac.jp

1 はじめに

■大切なのは、職場での応用

社員のパフォーマンスを正しく評価し、その評価に基づき適切な報酬を与える。このような業績評価のプロセスは、パフォーマンス・マネジメントを実施するうえで非常に重要な要素の1つである。しかし、多くの研究者が指摘するように、「パフォーマンス・マネジメント(Performance Management)=業績評価(Performance Appraisal)」と考えてしまうことには大きな問題がある。なぜならば、パフォーマンス・マネジメントの目的は、業績評価自体にあるのではなく、業績評価を通して社員のパフォーマンスを改善させることにあるからだ。

求められるのは、業績評価に基づき、「なぜ、期待されたパフォーマンスを達成できなかったのか」「さらなるパフォーマンス改善のためには、何が必要なのか」といった問題を検討・解決することである。その意味では、パフォーマンス・マネジメントとは、社員の過去のパフォーマンスと将来のパフォーマンスとを結びつけるマネジメントということができるかもしれない。

したがって、パフォーマンス・マネジメントにおいては、「業績評価」に加えて、「人材開発」という要素が重要な役割を果たすこととなる。すなわち、パフォーマンスを達成するうえで必要となる能力・スキルと、社員の現在の能力・スキルとの間に存在するギャップを埋めることも、パフォーマンス・マネジメントの一部なのである。

しかし、必要となる能力やスキルを社員が獲得することは、パフォーマンスの改善にとって必要条件ではあっても、十分条件ではないという点には注意しなければならない。なぜならば、能力やスキル自体がパフォーマンスを生み出すのではなく、能力やスキルの活用や応用がパフォーマンスを生み出すからである。

したがって、パフォーマンス・マネジメントを効果的に実施するうえでは、能力・スキルの獲得をサポートするだけではなく、職場での応用をサポートすることも求められる。特に、この応用の問題は、On-JT(OJT)を通して獲得した能力やスキルよりも、Off -JTを通して獲得した能力やスキルにおいて、より深刻なものとなるであろう。実際に働く中で身につけた能力やスキルに比べて、現場から離れたセミナーや研修で身につけた能力・スキルは、具体的な仕事に結びつけることが難しく、多くの社員が「宝の持ち腐れ」としてしまうことが多いためである。

本稿では、パフォーマンス・マネジメントの実施において重要な役割を果たす「人材開発」の要素に関して、特に「研修を通して獲得した能力やスキルを、社員が職場で応用するようになるためには、何が必要なのか」という問題を検討する。

以下では、より正確な結論を導くことができるよう、直観や経験に基づく議論ではなく、定量調査の結果に基づく議論を行っていく。約500 名のビジネスパーソンを対象に行ったサーベイ調査の分析結果から、「研修の内容を応用し、パフォーマンスの改善につなげられているビジネスパーソンと、つなげられていないビジネスパーソンでは、何が異なるのか」という問題を明らかにしていく。

2-1【経験学習スタイル】 研修中に得た経験からどう学ぶか?

リーダーシップやコミュニケーションといった能力・スキルは、一方向的な講義を受けるだけでは身につかない。研修であればロールプレイなどに参加することで、実際に体験・経験することを通して学ぶ必要がある。したがって、研修の参加を学習の機会として活用するためには、自身が得た経験を知識へと変える「経験学習」を行うことが求められるのである。

経験学習のモデルを構築したKolbは、経験に向き合い、それを知識に変える際に人が用いるスタイルには、複数の異なる種類が存在すると主張した。したがって本稿では、「研修をパフォーマンスの改善へとつなげられるビジネスパーソンは、どのような経験学習のスタイルを持っているのか」という問題を検討する。分析を通して、経験学習のスタイルは「熟考型スタイル」「試行体験型スタイル」「観察型スタイル」※の3種類に区別できることが確認された。

※探索的因子分析を行った結果、これら3つの因子が抽出された。

■経験学習の3つのスタイル

このうち、「熟考型スタイル」とは、自身の経験を論理的に抽象化・概念化することを好むスタイルである。例えば、研修でロールプレイに参加した後に、「これは、前に勉強した○○○という理論と関係がある」という反応をする傾向のある人は、「熟考型スタイル」を強く持つタイプだといえるだろう。

「試行体験型スタイル」とは、実際に体験し、そこで得た具体的な感情や印象に基づき学ぶことを好むスタイルである。「ロールプレイを行う中で、自分は強く心を揺さぶられた」という反応をする傾向のある人は、「試行体験型スタイル」を強く持つタイプだといえるだろう。

そして、「観察型スタイル」とは、自身の経験に対して一定の距離をとりながら観察・反省することを好むスタイルである。「自分は○○○という行動をとったからロールプレイで失敗した。逆に彼は○○○という行動をとったから上手くできた」というような反応をする傾向のある人は、「観察型スタイル」を強く持つタイプだといえるだろう。※※

※※「熟考型」は、Kolbの展開した経験学習スタイルのモデルにおける「抽象的概念化(AbstractConceptualization)」に、「試行体験型」は「具体的経験(Concrete Experience)」と「能動的実験(ActiveExperimentation)」の組み合わさった「同化型(Accommodator)」に、「観察型」は「反省的観察(Refl ective Observation)」に対応する。

■パフォーマンス改善を促すのは

分析を通して、「試行体験型スタイル」と「観察型スタイル」が、パフォーマンス改善を促す経験学習スタイルであることが明らかとなった(図1)。さらに、追加の分析を行ったところ、両者が好ましいスタイルである理由は相互に異なることも確認された※。

「試行体験型スタイル」を持つビジネスパーソンは、研修の内容に高い満足を感じる傾向が強い。そのような満足を感じる故に、研修で習った能力やスキルを一生懸命応用し、パフォーマンスの改善につなげることができる。それに対して、「観察型スタイル」のビジネスパーソンは、研修の内容に対して高い満足を感じるとは限らないが、その一歩引いた観察眼を利用することで、学習した能力やスキルを上手く応用し、パフォーマンスを改善することができる。

以上の2つのスタイルとは異なり、「熟考型スタイル」がパフォーマンス改善につながることは確認できなかった。研修で得た経験を抽象化・理論化することは、知識を整理するうえでは重要な役割を担うかもしれないが、それ自体が応用の促進に有効だとはいえないようである。

これらの結果から何がいえるか。例えば2人のビジネスパーソンが、同一の研修に参加し、そこで似たような経験を蓄積できたとしよう。それでもなお彼(女)等が互いに異なる経験学習スタイルを持つ場合、研修後のパフォーマンス改善の程度に差が生じることが想定される。したがって、研修の実施を確実にパフォーマンス改善に結びつけるためには、参加者がどのような経験学習スタイルを持っているのかという点を事前に把握する必要がある、ということである。

そのうえで、もし「試行体験型スタイル」や「観察型スタイル」を持たない参加者がいた場合、擬似的にそれらのスタイルを持つようにサポートすることが効果的だろう。例えば、研修において強く印象に残った体験や感動した体験に目を向けさせることを通して、参加者の満足度を高めるという方法や、研修で得た経験を振り返り、一歩引いた立場から観察させるという方法などが有効だと考えられる。

※ Baron & Kenny (1986)の媒介分析を行った。

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