J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年02月号

OPINION3 上司と経営層を巻き込め! 実務で活きる教育の鍵は 研修前後のデザインにあり

研修の本来の目的は、社員のパフォーマンス向上にあるはずだ。
では、研修とパフォーマンスの“ 整合性”を高めるために、どのような学習の設計が必要なのか。
2016 年11月22日に開催された「ATD2016 JAPAN SUMMIT」の基調講演者で、研修の効果測定研究で知られるロバート・ブリンカホフ氏が解説する※。
※当日の講演内容と独自取材により構成。


Robert O. Brinkerhoff(ロバート・O・ブリンカホフ)氏
Brinkerhoff Evaluation Institute 社長
ウエスタン・ミシガン大学 名誉教授

Learning & Development(人材開発)、特に研修の効果測定、有効性に関し、45年以上にわたり研究を続ける。これまで数百の企業・組織においてコンサルティングを手掛ける。アメリカ、サウジアラビア、オーストラリア、タイ、ヨーロッパ、南アフリカ、ロシアなど世界各地で活躍。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

研修は戦略か、福利厚生か

企業では、さまざまな研修やトレーニングが行われている。新しい業務のための訓練、パフォーマンスの改善、キャリア開発を目的としたものや、トラブル・ハプニングに見舞われた際の対応などである。

これらは何のために行うのだろう。答えは簡単である。自社のビジネスを成功に導くためだ。自社の戦略を遂行するための行動を促し、会社全体の業務パフォーマンスを引き上げることが教育訓練の目的である。

しかし、実際はどうだろう。あるテクノロジー企業の事例を紹介したい。その企業はリーダー層300 人に対し、年間4 万ドルをかけて1年間のグローバルリーダー研修を実施した。高額の費用を投資し、グローバルビジネスのさらなる発展を図ったのである。

ところが、衝撃の事実が発覚する。受講者全員にアンケートを行い、研修で学んだ内容を仕事に活かしたかどうか尋ねたところ、大半の受講生が「活かさなかった」、「特に活用しなかった」と答えたのである。

つまり多くの社員にとって、研修の多くは“Benefit(福利厚生)”の一環に過ぎないということだ。確かに、教育によってキャリアアップ、スキルアップが図れれば、会社に対する参加者のエンゲージメントは上がるかもしれない。しかし、それだけで終わってはいけない。最初に述べたように、研修の本来の意義は事業戦略のサポートにある。経営者は福利厚生ではなく、研修の触媒的な機能に対して投資をしていることを忘れてはならない。

Unrealized Valueの発掘

ところが、「研修と事業戦略が合致し、成果と結びついている」と実感できている企業の割合はそれほど高くない。私が35 年にわたり、コンサルティングや講演時に調査したところ、約20%という結果が得られた(図1)。ただし、研修によって結果に違いがあり、テクニカルスキルの研修では、「成果に結びついている」の割合はもう少し高いが、マネジメント研修の場合はより低い。

実際、研修後の受講者の行動を見ると必ずしも成果に結びついていないことが分かる。研修で得た知見やスキルを「一時期は仕事に取り入れた」、あるいは「一部、試してみたが途中で挫折した」という人は多い。全く活かせないという人もいる。仕事に活かし、パフォーマンスが向上したタイプはむしろ少数派である。私が知る経営者たちは、受講者の8割以上が行動変容を起こし、パフォーマンスが向上することを望んでいるが、現実は期待通りではない。

費用対効果の面から見ても、この状況はいただけない。だが、言い換えれば、成果に結びついていない部分にこそ、Unrealized Value(実現していない価値)が存在しているといえる。L &D(Learning and Development:人材開発)部門は、図1の少なくとも80%以上を、ブルーに変えていく必要がある。

研修の事前・事後が鍵

では、研修のUnrealizedな価値をどうやってRealizedなものに変えればよいのか。誤解されがちだが、プログラムをテコ入れしさえすればよいわけではない。

図2をご覧いただきたい。過去、さまざまな企業で行われた研修を分析し、ビジネスインパクトが出なかったものに関し、その理由をまとめたものだ。失敗の要因は大きく分けて、研修前の要因、研修そのものの要因、研修後の要因の3つがある。

中でも影響が大きかった要因は、研修後の要因だ。研修で学んだことを実践するように、上司が部下に働きかけないことである。これと関連が深い理由として、「受講者の上司が、自分たちのゴールや戦略に対する研修の位置づけを研修前に理解していなかった」ことが挙げられる。

いずれも研修の前後に生じる原因であり、プログラムの内容に関することではない。研修の効果が上がらない原因の95%ほどは、研修前後の行動にあり、研修そのものに関する原因は、5%ほどに過ぎないというのが、私のこれまでの調査や経験値から分かったことである。

以上の結果は、いくら優良な研修プログラムを取り入れたとしても、それを受け入れる土壌が整っていなければ効果は上がらないことを示している。つまり、研修で得たスキルを実践できるよう、上司が支援しない限り、思うような成果は期待できないということだ。

部下が受けた研修の価値を上司が認めていなければ、実践に取り入れるのは難しいだろう。もちろん、新たなメソッドを組織に取り入れるのは勇気のいることだ。うまくいかなかった場合のリスクも考えなければならない。だからこそ、企業は上司をフォローする仕組みをつくらねばならない。

ただし、社員の行動変容を妨げている要因は、上司のみにあるのではない。現場全体、さらに企業そのものにも問題が見られる。例えば、伝統的に受け継がれているコーチングの仕方や業務のやり方、優先順位のつけ方などだ。

研修を活きた学びにするには、マネジメントの在り方そのものを見つめ直す必要があるといえよう。

整合性の高い研修の設計とは

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