J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2017年02月号

OPINION2 成果が出ないのは、性格や能力のせいではない! “個人攻撃の罠”に陥らずに 望ましい行動を引き出すアプローチ

組織のパフォーマンスを上げるためには、上司のリーダーシップが欠かせない。
しかし、リーダーの性格や能力にばかり注目していても限界がある。
部下のパフォーマンスを高めるうえでも、個人の属性に原因を求めると改善が難しい。
ではどうするか。行動分析学を専門とする法政大学の島宗理教授に、“望ましい行動”を生み出すフレームワークと取り組み方を聞いた。


島宗 理(しまむね さとる)氏
法政大学 文学部 心理学科 教授

千葉大学文学部行動科学科を卒業、慶應義塾大学社会学研究科を修了後、ウエスタンミシガン大学心理学部博士課程入学、同大学Ph.D.取得。鳴門教育大学助教授を経て、2006 年より法政大学文学部心理学科教授。主に行動分析学やインストラクショナルデザインに関する研究を行う。著書に『部下を育てる!強いチームをつくる!リーダーのための行動分析学入門』(日本実業出版社)、『使える行動分析学』(筑摩書房)など。

[取材・文]=崎原 誠 [写真]=編集部

変えるべきは部下の“行動”

「リーダーの役割」は、行動分析学の視点から以下のように定義することができる。

リーダーの役割は、部下から

①「業績を生み出すのに重要な行動」の

②「自主的な実行」を

③「引き出し、維持すること」

多くのリーダー論、リーダーシップ論は、性格、能力、態度などリーダーの属人的な特性に着目する。だが、リーダーが弱気であったり内気であったりしても、企業にとって重要な成果を上げるために部下から必要な行動を引き出していれば、リーダーとしての役割を果たしているといえる。リーダーになることができるかどうかは、リーダー自身の性格や能力ではなく、部下の“行動”を変えられるかどうかにかかっているのである。

例えばここに、部下に対してなかなか話しかけられないリーダーがいるとしよう。我々は通常、「この人は、引っ込み思案だから部下に話しかけられない」などと、行動の原因を性格のせいにする。しかし、行動分析学の視点で捉えると、「話しかける」という行動をしようとしない人を「引っ込み思案」と呼んでいるだけであって、引っ込み思案だから話しかけられないわけではない。

この捉え方が分かりづらければ、もっと実用主義的に考えてもいい。望ましい行動をしていないからといって、自社の人材を総取り換えできるわけではない。つまり、性格のせいにしてしまうと、解決のしようがないのだ。それならば、「あの人はこういう性格だから」という“個人攻撃の罠”から脱却し、今いる人材をどう活かすかを考えたほうがよい。

また、実際のリーダーにはプレイングマネジャーが多いが、本人が頑張って成果を出しても、その人1人分の成果にしかならない。加えて、個人の特性に頼っていては、その人がいなくなった時に困る。「周りの人の力を使っていかに大きな成果を出すか」という視点で、個人の性格や能力に依存せずに、業績を生み出す仕組みを持つ必要がある。

望ましい行動を増やす仕組み

部下の望ましい行動を引き出すうえで、まずしなければならないのが、「業績を生み出すのに重要な行動」を見つけることだ。仮に現場が盛り上がっていて、皆が一生懸命働いていても、十分な成果が出ていないとしたら、それは“無駄なこと”になってしまう。したがって、業績に結びつく「増やしたい行動」「減らしたい行動」を明らかにして、その行動を促す必要があるのだ。この「増やしたい行動」「減らしたい行動」を「標的行動」という。

標的行動は簡単に見つかるとは限らない。だが、高い成果を上げている人の行動を観察したり、現場の人たちで議論して、望ましいと思う行動を絞り込み、実際にやってみるなど、取り組みながら精度を上げていくことはできる。その行動が業績につながれば継続し、つながらなければ見直して改善を続ける。モノづくりの現場では当たり前に行われている、実行→分析→測定→改善の仕組み化が、実はリーダーにとっても要となる方法論なのだ。

行動分析学では、標的行動に関して、次の公式を用いるのが一般的だ。

V(業績)=A(先行事象)×B(標的行動)×C(後続事

部下に話しかけるのが苦手なリーダーに対して、標的行動を「部下に話しかけること」と定めた場合、ただ「話しかけろ」と命じても効果は薄い。「部下に話しかける」という行動には、どういう時にどういう状況で話しかけるのか(=先行事象)、話しかけるとどういう反応や出来事があるのか(=後続事象)が影響する。これをABC分析という(図1)。この行動と状況の関係性を「随伴性」といい、ABCの関係を専門用語で「三項随伴性」という。行動分析をする際には、行動のみを見るのではなく、行動公式のA、B、Cを1つのユニットと捉え、これらのつながりを分析する必要がある。

そして、ABC分析を踏まえ、先行事象や後続事象を見直すことで、望ましい行動が増えると予想されるきっかけを加えたり、行動が増えない要因を取り除いていく。これを「介入」という。

部下の標的行動の増加につながるのであれば、どんな介入でも行うべきかというと、そうとは限らない。例えば、「伝えられたことを正確に実行する」という標的行動を引き出したい場合、「言った通りにしないと上司がものすごく怒る」という後続事象があると、標的行動は増えるだろう。しかし、それでは楽しくないので、行動の質が高まりづらい。

冒頭に挙げたリーダーシップの定義で、「自主的な実行」を引き出すと定めているのも、そのためだ。叱ることが必ずしもいけないわけではないが、行動の決め手となる“制御変数”がリーダーの顔色になってしまうと、最終目的である組織の成果とズレが生じるおそれがある。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,233文字

/

全文:4,465文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!