J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

寺田佳子のまなまな 第13回 日本橋「いづもや」三代目店主 岩本公宏さんに聞く 「老舗」の挑戦

今回のお相手は、日本橋「いづもや」の店主・岩本公宏さん。
老舗鰻店の三代目として生まれ、大学卒業後は修業を積み、やがて「デパ地下への新規出店」という大きなチャンスを手にします。
鰻の魅力と自分の感覚を信じ、新たな挑戦を続けてきた岩本さん。
歴史と伝統のある老舗ならではの“学び方”に迫ります。

岩本公宏(いわもとたかひろ)氏
日本大学法学部政治経済学科卒業。横浜にある老舗うなぎ屋での2年間の修業を経て、2001 年に「いづもや」入店。2003年4月に日本橋三越本店への「いづもや」出店に伴い、店長として着任。
現在は江戸通り沿いにある本店で腕を振るう。
「いづもや」は1946年、東京・日本橋に創業。さっぱりとした味わいが多くの人に親しまれている。

寺田佳子(てらだよしこ)氏
ジェイ・キャスト常務執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラーニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、熊本大学大学院教授システム学専攻講師、日本大学生産工学部非常勤講師、ATD(タレント開発協会)会員。著書に『学ぶ気・やる気を育てる技術』(JMAM)など。https://www.facebook.com/InstructionalDesignConsulting

“スポーツ”と“鰻”の共通点

今回のまなまなは、東京・日本橋の老舗鰻店が舞台。創業70 年を迎える鰻割烹「いづもや」の三代目がお相手だ。鰻と聞いただけで、鼻をくすぐるあの香ばしい匂いと、五臓六腑に染みわたる滋味を思い出し、思わず頬が緩んでしまう。その味を守る老舗の三代目ともなれば、伝統を受け継ぐことへの迷いや逡巡があったに違いないと思うのだが、「家業を継ぐことに疑問を抱いたことはなかったですね」と、真っ白な割烹着と同じくらいきっぱり爽やかに微笑む岩本さん。

聞けば、幼稚園の時から父に連れられて築地の買い出しについて行くのが楽しみで、「市場は魚がたくさんいて、私には水族館よりずっと面白い場所。それに、築地の朝ご飯がおいしくて、それもまた楽しみだったんです(笑)」

こうして幼い時から魚を見る目を育み、おいしいものを見分ける舌を養ったのだから、これは一種の英才教育に違いない。やがて小学6年生になる頃には、「いっぱしに白衣を着て、お使いをしていました」

麻雀で勝つと鰻を注文する、なんてバブル期ならではの豪勢な習慣(!)もあって、雀荘に鰻重を届ける経験もしたという。

中学時代には東京都駅伝大会で優勝した。高校、大学でもゴルフ、サッカー、テニスをはじめさまざまなスポーツに挑戦しつつ、朝は築地へ行き、昼は店で働き、夜は大学で授業を受けるという生活を4年間続けた。調理師免許も在学中に取った。その中でしっかり身につけたのは、体力と「努力すれば必ず報われる」という信念だった。

やがて卒論も書き上げ、大学卒業を間近に控える頃、「スポーツも鰻の仕事も同じ。練習を積むほどうまくなる。家業を継ぐには、いい鰻屋で修業しなければ」と思い立つ。

ここぞという時を逃がさない

そこで向かったのが、横浜は関内にある明治5年創業の老舗鰻店、「割烹蒲焼わかな」だった。

「大学時代、バイト代を貯めては評判の鰻屋を食べ歩いたんです。『わかな』に行った時、修業するならここしかないと思いました」

鰻はおいしいし、店も大きい。お客様も多くて品数も出る。こういう店なら、いろんな仕事ができ、短期間に多くのことを学べるに違いない。自分の目と舌を駆使した調査の結果、挑戦すべきと判断したのだ。

というわけで、突然店を訪ね、「ここで勉強させてください」と直談判した。

ええっ! それが鰻屋さんの「就活」スタイルなんですか?

「普通はまず親同士が話をして、『うちの倅せがれを預かってもらえませんか』『お預かりしましょう』というのが順序。そういうのを知らなかったので、結果的にルールを無視してしまったんです」

鰻の世界は狭い。「『いづもや』の息子さんが、『わかな』に行くらしい」という噂はすぐ父の耳に入り、「ちょっと待て、オレは聞いていないぞ! ちゃんと説明しろ!!」と、こっぴどく叱られた。

へぇ! 「これは」と思ったら躊躇せずに行動するタイプなんですね。

「戦略はしっかり練るんですが、ここぞという時を逃して後悔はしたくない、やるからには思い切って挑戦したい、っていう性分なんです」

自分の目と舌を信じる

ひと悶着はあったけれど、結局、両親と一緒に先方へご挨拶に行き、無事修業を始めることとなった。

ところで、修業って、どんなことをしたんですか?

「一言で言えば、『我慢』の価値を知る、ってことでしょうか」

主な仕事は洗い物と出前。地道な作業にも心を込めることを学ぶ一方で、なかなかさせてもらえない鰻の仕事への情熱はますます強くなったという。しかし“我慢”は、チャンスが巡ってきた時に飛躍するための、大きなバネになる。

2001 年4月、修業先から「いづもや」に戻ると、水を得た鰻、いや魚のように活動を開始。日本橋という街と、そこに生きる料理人たちから学ぶために、「日本橋三み四よ四し会」に入り、さらに全国の名だたる料亭が名を連ねる「芽め生ばえ会」にも加盟した。駆け出しの身には分不相応だと思う場面もあったが、憧れの老舗に近づきたい一心で、先輩たちから貪欲に吸収した。

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