J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年01月号

ワークスペースから見る未来  まだ見ぬ世界を創造する 「働き方3.0」とは

未来に向け、従来とは一線を画した発想を生み出していける環境として、人材や働き方、そして働く場は、どのように進化していくべきなのか。
イノベーションを生み出す機会や空間の研究と実践を進める、イトーキオフィス総合研究所所長の谷口政秀氏に聞いた。


谷口政秀(たにぐち まさひで)氏 イトーキ オフィス総合研究所 所長
1982 年イトーキ入社。マーケティング部門、空間設計部門、商品開発部門、netstyl社起業を経て現職。国内外の先進的な働き方、働く場について、広く調査・研究を進める。現在はイノベーティブな働き方や空間、ソーシャルイノベーションについて、講演、ワークショップなどを通じて啓蒙・普及活動を行う。主な著書に『デザイン思考ファシリテーションガイドブック』(イトーキオフィス総合研究所、一般社団法人デザイン思考研究所)がある。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=吉田 庄太郎

楽しく働きビジネスにつなげる

―2030年ほどの未来を考える際、社会はどうなっていくことが予想され、それに伴い日本企業はどのような姿を描くべきでしょうか。

谷口

これからの社会を語るキーワードに、「経験経済」「マーケティング3.0」「シェアリングエコノミー(共有型経済)」などがあります。これらには、「場や経験、共感、共創、協働の機会のデザイン」という共通点があります。つまり企業には、生活者にどのような体験をもたらし、どのような社会を実現させたいのかということを起点に、モノやサービスを編み出すことが求められます。これは現在主流の、高度な“機能”を生活者に届けるという目線でのモノづくりを、はるかに越えたものです。

―そうしたモノやサービスを生むには、企業がどういう場になればいいのでしょう。

谷口

一言でいえば「社会をよくするプラットフォーム」。そのイメージは、現在のたまプラーザ(横浜市)の取り組みに近いものです。たまプラーザは昭和40年(1965年)ごろから都心に勤める人のベッドタウンとして開発が進みました。団地の老朽化などによる町の再開発、そして定年を迎えた多くの住民の“第二の人生”を考える時期に差し掛かり、市と鉄道会社の協力を得ながら、住民主体の町づくりを始めています。

―どのようなものなのですか。

谷口

まず、町の中心にあるカフェに、住民のプロフィールや特技を貼り出します。例えば私なら「アウトドア教室できます」といった具合です。すると「子どもに釣りを教えられなくて困っている」などとお父さんから相談されるんです。そうして希望者が集まったところで、教室を開きます。すると参加した人同士で知り合い、地域とのつながりが生まれます。少額ですが、レッスン料もいただきます。そもそも、自分では大したことないだろうと思っていた能力を周囲に共有できる。そうしたゆるい関係の連鎖で地域経済圏をつくっていこうという試みです。

―面白いですね。ポイントは。

谷口

3つあります。まず、人の多様性です。私のようなアウトドア好きなおじさんもいれば、かつて体操番組に出演していた体育大学出身のママさんインストラクターなど、年齢もキャリアもさまざまな人が集まっています。

2つめは、コミュニティーに拘束力がないことです。普段は皆さん別のところで活動しながら、自分の能力を地域という場に提供しています。

3つめは、趣味や特技の活かし方を、気軽に試行錯誤できる点です。例えば、ご一緒している方の中にアジア地域への旅行と料理が趣味の男性がおり、食堂を開くほどでもないけれど料理の腕を試す場がほしいと考えていました。そこで、エスニック料理が好きな人に向けて料理会を開いたり、私のアウトドア教室でBBQを担当してもらったりと、さまざまな形を試しているんですね。

―場と場がつながっている。

谷口

何より、自分の生活に根ざしたところで自己有用感を得られるとなれば、それは楽しいでしょう。この、“暮らし”と“仕事”と“成長”がひとつなぎになっているというのが実は重要です。

90 年代以降、企業は“利益の最大化”を重視する経営へシフトしていきました。このことで、かつて終身雇用と引き換えに社員たちに提供していた、社宅などの“住む場所”、社員旅行や運動会、たまにお節介な上司が縁談を持ちかけるといった“人としてのつながりの機会”は、コストと見なされるようになります。

するとワーカーも、会社で働くことの価値を、仕事の場、お金を稼ぐ場としてしか見いださなくなる。ましてや今は、低成長の時代です。結果を残せず、成長実感が薄いわけですから、働く“楽しさ”を得られずにいる。現状、日本全体を覆う閉塞感は、従来の働き方が時代にフィットしていないということの現れではないでしょうか。言うなれば、乾いた雑巾を絞りに絞って、やっと滴を落としているような状態です。

しかしこれからは、「楽しく働き、かつビジネスにつなげる」というのがとても大切なキーワードになると思います。楽しいチャレンジの先に、新たな価値創造のヒントが隠れている、というイメージです。

企業はプラットフォームに

―たまプラーザの例は素晴らしいですが、もし企業が実現するとなると、抜本的な改革が必要そうです。

谷口

そうですね。私が考えるこれからのワークスタイルを「働き方3.0」として紹介します(図)。

まず企業は、既に述べた通り、たまプラーザのようにさまざまな人材が集い、共創、協働するプラットフォームになるのではないかと思います。生活者に向けて新たな価値を創造、提案するために、社内に限らず社外からも、もっと広く人を集めてプロジェクトチームをつくるようなイメージです。世代や所属の枠を越えて集まったメンバーは、それぞれ異なる価値観や専門性を持ち、複数のプラットフォームで活躍しています。そして企業は、社員を組織の中に囲い込んだり自社のカラーに染めたりはしません。それぞれの個性を認め、大学、自治体も含めた他のプラットフォームへどんどん“越境”させる。そして、越境先で得られた経験や知見を自社のプロジェクトに持ち込むことで、新たな価値創造につなげていきます。

―仕事の進め方も変わりますね。

谷口

これまで効率的だと思われてきた、縦割り構造の組織体系や指示命令が中心の成果の追求、島型のオフィス配置、また調査などの数字を頼りに、会議室に閉じこもり、企画を練り上げる―といったやり方は全て変わるでしょうね。

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