J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年09月号

外国人材の心をワシづかみ! 日本発のマネジメント 第4回 せっかく採用した外国人社員を離職に追い込んではいないか?

世界の人材争奪戦において世界に遅れをとる日本。
打開策は現地の人々のより深い理解、そして日本企業ならではの育成、伝統にある―。
異文化マネジメントに精通する筆者が、ASEANを中心としたグローバル人材にまつわる問題の解決法を解説します。

河谷隆司( かわたに たかし)氏
ダイバーシティ・マネジメント研究所 代表取締役

ダイバーシティ・マネジメント研究所代表取締役。
異文化マネジメントコンサルタント。マレーシア16 年半在住。
マレーシア戦略国際問題研究所研究員等を経て現職。
著書に『 WinningTogether at Japanese Companies』他多数。
ネットテレビ番組Japan Spiritキャスター。www.diversityasia.com

Antikwar/Shutterstock.com

娘の誕生日か懇親会か?

インドから来たシラジ君は大変優秀なコンピューター・エンジニアです。日本のIT開発会社に勤めて半年ほど経ったある日のこと、先輩の岩田さんから声をかけられました。

「シラジ君、明日の19時から赤坂の鳥平でキックオフミーティングだよ!」「岩田さん、どうしても出席しなければなりませんか? 明日はプライベートな用事があるんですが」「来たほうがいいよ。仕事の一部だからね」「仕事の一部ならどうして就業時間内にしないのですか?」「分かったよ! 来られない理由があるなら来なくていいよ!」

こう言われたシラジ君は茫然とします。実は、その日の夜、娘の誕生日パーティーがあったのです。

結局、シラジ君は「郷に入れば郷に従え」と自らに言い聞かせ、キックオフに出席して、懇親会で美味しくないビールを飲むことになりました。心の中では、家族より仕事を優先した自分を責め、職場を恨んでいました。

ここで皆さんに質問です。シラジ君が家族と仕事、どちらもおろそかにせずに済む方法はあるでしょうか?

次の選択肢から選んで下さい。

①誕生日会を優先させて、キックオフ・懇親会は欠席とし、後日、内容をシラジ君に伝える

②キックオフのミーティング部分だけ参加してもらい、懇親会前に帰宅させる

③誕生日会を懇親会場で行う

③は現実的ではないとすると、残るは①と②ですが、いずれも正解ではありません。外国人はプライベートを大事にするから、と家族との時間を尊重するのはよいことのように思えますが、それでは彼を特別扱いすることになります。

また差別することにもつながります。共同プロジェクトについての情報共有と親睦(団結)の重要な機会を失ってしまうという意味から、機会均等ではなくなってしまうからです。

ではどうすればいいかと言うと、例えばキックオフを午前11 時から12 時まで行い、12 時から懇親会を開始すればいいのです。退社後は予定通り誕生日会に参加できます。この方法の唯一の難点は、ランチ懇親会なのでビールを飲むわけにいかない(多分)ことですが、それとシラジ君がキックオフ/懇親会を欠席することのダメージを天秤にかければ、すべきことは明らかです。もちろん、最善策は事前に相談して日程が重ならないようにすることです。

この事例は外国人をどういう場面で日本人と同じように扱い、どういう場面で区別すべきかについて示唆を与えてくれます。

今回はこのような外国人社員への接し方の基本スタンスと活かし方、日本人社員との区別ポイントについて、国内の場合に絞って考えます。海外の場合は対応が違いますので、ご留意ください。

その採用目的は正しいか?

外国人社員を離職に追い込まないための対応をご紹介する前に、まず採用目的を振り返ってみたいと思います。あるICT企業の外国籍社員のケースを見てみましょう(図1)。

図1の通り、事業の国際化の戦略や段階はさまざまですから、目的意識に違いがあって当然ですが、意外に多く耳にするのは④のみを目的とする考え方です。

私の意見を申し上げると、その姿勢は最善ではありません。理由は、外国人採用がもたらし得る多数のメリット(その多くは日本人社員だけで果たすことが困難なもの)を享受できないからです。

日本勤務の外国人社員は事業のグローバル化に必須の「異文化資源」です。そこに目を向けないで外国人社員を採用の頭数に勘定するだけの組織は、日本人とは異なる彼らの働き方や感性などから何も学べません。外国人が日本人と同じように働いている企業は、一見、国際的に見えますが、実は完璧なドメスティックマインド(国内至上主義)の持ち主です。

能力本位での採用?

欧米系のグローバル企業を見れば分かります。一見、社員の国籍に関係なく能力だけで採用し、特別なことはしていないように見えるかもしれません。しかし、実態は逆です。

例えば、以前出講した欧米企業の多様性ワークショップには、会長・社長以下全役員が終日、同時通訳のイヤホンをして参加していました。また、社員の特性や創造性を意識的に引き出すさまざまな施策も打っていました。例えば、マイノリティ社員の昇進率を管理職の報酬に連動させる人事制度、顧客の民族構成を反映した民族出身の営業担当者の配置などです。

グローバルな市場と顧客に対応し得る人材の特性や創造性は、「多国籍で多文化出身の社員ミックス」から最も効果的に引き出し得ることを、彼らは知っているのです。そして、そのメリットは、外国人を採用しさえすれば自動的に得られるものではなく、継続的に引き出す努力が欠かせないことを心得ています。個人の特性や文化的な感性は実利につながる重要な経営資源だという認識があるのです。

この認識に至るには、膨大なコストと経営トップの揺るぎないコミットメントが必要です。そうした試練を経ずして、「我が社は国籍に関係なく能力本位で採用しています」という企業は、いくら海外拠点をつくっても国内体質から脱皮することはできません。

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