J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年09月号

Trend 4 大学発の新しいリーダーシップ教育 権限によらないリーダーシップ

2006年にスタートした立教大学のビジネス・リーダーシップ・プログラムは、文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム」全国トップ15に選定されるなど、高い評価を得ており、学生からの人気も高い。
同プログラムを立ち上げ、全国の大学・高校にリーダーシップ教育を広げようと取り組む日向野幹也氏が、今の時代に求められるリーダーシップと、開発方法について語る。


日向野 幹也(ひがの みきなり)氏

東京都立大学経済学部講師、助教授、教授を経て、2005 年に立教大学へ。2006 年、新設の経営学部教授となり、BLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)を立ち上げ、専攻を経済学からリーダーシップ開発にシフト。2011 年、1 年間のサバティカルで米国大学のリーダーシップ教育を実地調査。2013 年、全学向けのGLP(グローバル・リーダーシップ・プログラム)を開始。現在までBLP及びGLP主査を務める。2016 年に早稲田大学へ移り現職。日本リーダーシップ学会理事・副会長。経済学博士(東京大学)。

[取材・文]=増田忠英 [写真]=編集部

新しいリーダーシップ

リーダーシップといえば織田信長やスティーブ・ジョブズなどのように、多くの人を束ねるカリスマ、あるいは権限を持った人が発揮するもの、というイメージが強い。特に後者の場合、リーダーシップは“命令の出し方”とほぼ同義語になる。

アメリカでも、かつてはリーダーシップといえば、権限を持った人による命令の出し方という意味合いが強かった。しかし1980 年代になると、権限のある人がリーダーシップを発揮するだけでは、環境変化に即応したり、逆に変化やイノベーションを起こしたりできないということが徐々に明らかになってきた。そこで、権限のある人だけではなく、権限のない人にもリーダーシップが必要だと考えられるようになり、企業でリーダーシップ教育が80 年代から重視されるようになる。1990 年代になると、その考えが大学にも広がり、現在ではアメリカのほぼ全ての大学にリーダーシップ科目が設けられている。

こうした「権限がなくても他者を巻き込み、成果目標を達成する」という新しいリーダーシップ、リーダーの在り方は、今やアメリカだけでなく、他の地域でも支持され、世界標準になってきている。

リーダーシップ最小3要素

権限のない人がリーダーシップを発揮するには、最低限3つの要素が必要である。それは①目標設定(共有)、②率先垂範、③同僚支援(図1)である。まず明確な成果目標を設定し、メンバーと共有する(①)。ただし、命令する権限がないので、まず自分がやってみせる必要がある(②)。しかし、人にはそれぞれ事情があり、動きが取りづらいことも多い。そこで、その事情を取り除くための同僚支援(③)が必要になる。

さまざまな人がリーダーシップ論を唱えているが、この3要素はほぼ共通している。他の要素として、最初の目標ではうまくいかなくなった時に方向を転換する「決断力」や、なかなか目標が達成しない時に粘る「レジリエンス」などを挙げている人も多いが、いずれも先の3つの要素がなければ始まらない。そこで、私はこれらを「リーダーシップ最小3要素」と呼んでいる。

このリーダーシップを開発するということは、より多くの人がリーダーシップスキルを持つことを意味する。日本には「船頭多くして船山に登る」という言葉があるが、船頭が多くなって混乱するのは、号令を出すことだけがリーダーシップだと考える船頭が多いからだろう。真のリーダーシップを持った船頭たちなら、船を目的地まで運航するという目的のために、それぞれ必要な役割を分担できるはずである。

リーダーシップ開発の方法

具体的に、リーダーシップをどう開発するかだが、権限に基づくリーダーシップの場合、成功した経営者などの講演を聴かせることが多い。これも非常に重要な学習機会だが、大抵は話し手と受け手に距離があり、リーダーになるための道筋が見えず、なかなか自分ごとにもならない。

対して、権限がなくても発揮できるリーダーシップは、誰でも体験を通じて学ぶことが可能だ。大学のリーダーシップ開発プログラムの初級編では、上下関係のない同学年同士でグループを組み、決められた期間内に問題を解決するプロジェクトに取り組む。その際、目標を高めに設定したり、期間を短く設定したりすることで適度なプレッシャーをかけ、リーダーシップを発揮せざるを得ない環境を用意する。そこでリーダーシップを発揮してみて、終わった後にうまくいったかどうかや、先の3要素に照らし合わせ、メンバーで互いにフィードバックし合う。すると、できたこと・できなかったことが客観的に分かるため、そのことを踏まえてプロジェクトの続きに取り組んでいくことができる。

こうして実践とフィードバックを繰り返すことで、リーダーシップスキルを徐々に身につけていく。

開発のポイント

■フィードバックし合う文化

リーダーシップ開発のポイントは、一言でいえば、フィードバックし合う文化をつくることである。この文化さえできれば、半分は達成できたといっても過言ではない。

相互でフィードバックをし合うには、「SBI」※のフォーマットを活用するのがよい。リーダーシップを発揮したと思われる状況(Situation)、具体的な行動(Behavior)、それが自分や周囲に与えた影響(Impact)の3つをセットにして伝え合う。なかには、悪い点を指摘されると人格を否定されたと感じる人もいる。そこで、最初のうちはよかったことだけをフィードバックし、徐々に「こうしたらもっとよかった」と改善すべき点をフィードバックしていくといい。互いによい点があることを認め合い、信頼関係を築いたうえで、安心してフィードバックし合える環境づくりを行う。

解決する問題は、学生が熱心に取り組めるものなら何でも構わない。経営学部の場合、経営の勉強にもなるため、産学連携で企業から課題(新商品の提案、既存店舗の活用法など)を提示してもらい、解決策をコンテスト形式で立案・提案している(図2)。学部混合であれば、大学への提案や社会問題の提案などでも構わない。どのような問題にせよ、グループ間で競争させることもポイントである。

※米国リーダーシップ教育機関のCCLが開発。

■日本だからこその注意点

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