J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2016年05月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 人を強く、たくましく育てるのは 研修ではなくチャレンジという経験

都市ガスの供給をはじめ、電力の販売など、首都圏のエネルギーインフラを支える東京ガス。ガスや電気の安定供給の背景には、数々のシステムの稼働がある。そのシステム開発や管理を行うのが、東京ガスiネット(旧ティージー情報ネットワーク)である。
同社人財開発部門リーダーの工藤千温氏は、「研修だけでは人は育たない」と言い切る。入社当初はシステムエンジニアとして活躍し、システム管理現場での経験も豊富な工藤氏の発言の真意とは。同社の人財育成の方針も含め、話を聞いた。

東京ガスiネット
総務部 人財開発グループマネージャー
企画部 プロジェクト推進グループ※2016年2月24日取材時点
工藤千温 氏
1991年ティージー情報ネットワーク(現・東京ガスiネット)入社。システム技術部でインフラ系SE、運用サービスマネジメント業務などを経て、2002年ティージー・アイティーサービス社への出向を機に経営企画に参画。2010年にティージー情報ネットワークの総務部人財開発グループへ。2015年より現職。

東京ガスi ネット
1987年設立。東京ガスグループ各社のシステムを中心に、ITコンサルティングからシス
テムの設計・開発やネットワーク構築、維持管理・運用保守に至るまで、一貫したシステムインテグレーションを展開する。
資本金:4億円、売上高:223億3500万円(2015年3月期)、社員数:658名(2015年10月1日現在)

組織の問題を横串で見る

東京ガスグループのシステム関連分野を一手に担う、東京ガスiネット。システムの開発から運用、保守までを手掛ける同社では、多くの社員がシステムエンジニア(SE)として活躍している。総務部人財開発グループマネージャーの工藤千温氏も、新卒で入社した当初はホストコンピューター稼働環境の導入や維持管理を担当していた。

「コンピューターのメンテナンスではシステムを停止する必要があるので、休日や夜間の作業が当たり前。部署に女性のSEが配属されたのは私が初めてでした」

本当に男性社員と同じ扱いで良いのか? と先輩が戸惑うほど、当時は珍しい存在だった。しかし、しばらくして工藤氏にも転機が訪れる。

「入社3年目に結婚し、その後二度の育児休暇を経て配属されたのは、現場から少し離れた運用系の企画部門。家庭との両立を考え、会社側が配慮してくれたのです」

だが、この仕事は平易なものではなかった。インターネットが普及し始め、ネットワークの在り方が急速に変化し始めた頃である。システム同士がつながり複雑化すると同時に、情報インフラがオープンな環境へとシフトチェンジする中、工藤氏はシステムの稼働安定性の向上に向けた活動に参画することになった。

「当時、開発したシステムのトラブルが相次ぎ、全社的な課題となっていました。改善に向けて委員会が立ち上がり、私は事務局として施策を推進することになりました」

工藤氏はこれをきっかけに、部署間の問題を横断的に捉え、全体像を把握する役割を担うようになる。

「ちょうどその頃、全社的な取り組みで人事の処遇制度や教育体系の見直しを図るワーキング活用が行われていました。私の職場は幕張のシステムセンターでしたが、幕張の仕事や人を知っているということで、本社で行われる意見交換の場によく呼ばれていました。思えば、この当時から今につながるような仕事をしていたのかもしれません」

本社の人財開発部門へ

2002 年頃から数年間、同社は分社化や再統合を行うなど、不安定な時期を迎える。その間工藤氏は、システムユーザーの問い合わせ先であるコールセンターのアウトソース化プロジェクトのリーダー、経営企画のグループでのマネージャー、さらに一度は分社した企業同士の再統合に向けたプロジェクトへの参画など、気づけば人材マネジメントに関わる業務に携わっていた。

「どの立場でも共通して考えていたことは、企業において社員がモチベーション高く成長し、同時に組織も成長する環境や仕組みを整えていくにはどうすれば良いのか、ということでした」

再統合の後、工藤氏が幕張で奮闘する姿を高く評価していたのが、当時の総務部長だった。彼は工藤氏に声を掛け、2010 年に本社の人財開発グループへの異動を実現させた。総務部長が工藤氏のどこに期待を寄せ、スカウトの決め手となったのか、本人は「分からない」と謙遜する。だが、

「実は学生の頃まで、将来教師になることを信じて疑わずにいて、大学でも教員養成課程を選ぶほどでした。しかし『もっと世間を知っておいたほうが良いのでは』と思い直し、結果として今の会社に就職したのです。人の育成や組織の成長に関しては、人並み以上に興味があるほうだと思います。もしかすると、総務部長はその点を見抜いていたのかもしれませんね」

育て合う風土へ― 基本の『き』

現在は、人財開発グループのマネージャーとして全社の教育体系を統括している工藤氏。研修や自己啓発メニューの企画開発を手掛ける立場だが、「研修が人を育てるわけではない」と、断言する。

「よく、人財育成というと、『研修を充実させよう』『教育体系を整えよう』という議論になりがちです。しかし、研修は知識を整理したり新たな知見を得たりする場であって、経験以上にダイレクトに“人が育つ場”ではないはずです。それは私たち人財開発部門の人間が見誤ってはいけないところであり、『研修で補えることは限られている』ということを現場の人たちと共有することも、私たちの仕事だと考えます」

そのための取り組みを、工藤氏率いる人財開発グループでは精力的に行う。そのひとつが、2013年に発表した「人財育成基本の『き』」である。全社員が、他者への成長支援を当たり前に行う企業風土を創ることをめざし、社員一人ひとりに必要な心構えをまとめたものだ。

「階層別研修や新入社員の導入研修などの場でこれを取り上げ、全社員に向け発信しています」

中身を一部紹介しよう。核となるのは「3つの基本」である。

1つめは「ビジネススキルとヒューマンスキルは必須」である。SEとして活躍するには専門知識も大事だが、それを生かすにはビジネススキルとヒューマンスキルという土台が必要不可欠であることを示した。

続いて2つめは、「人は現場で業務を通じて育つもの」。

「社員の成長はやはり、一人ひとりのキャリアプランに基づいてふさわしいチャレンジの場を用意すること、そして本人が、どれだけその場に主体的に関われるかにかかっているのだと思います。これは極論ですが、業務へのアサインの仕方や活躍のステージづくりが適切に機能していれば、特に研修などしなくても、人は育つのではないでしょうか」

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