J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年08月号

CASE 2 キリン 「仕事の経験値」の男女間格差を解消 ライフイベントを見据えた前倒しのキャリア形成

結婚または出産後に退職する女性と、働き続ける女性の最大の違いは、ライフイベント前の成長実感にあった──
キリンでは女性従業員を対象に早い段階で多くの業務経験をさせる「前倒しのキャリア形成」という概念を導入。
女性の離職抑止や休暇復帰後のキャリア開発に備えている。
その目的や狙いとは。

尾白克子 氏 人事総務部 多様性推進室室長 人事担当主査
キリン
2013年設立。キリングループの国内綜合飲料事業部門として、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンを傘下に置く。ブランドメッセージは“Quality with Surprise”
資本金:5億円(キリンのみ)、従業員数:881人(キリンのみ。2014年12月末現在)
[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

● 背景1 成長実感の有無が道を分ける

ビールなどの飲料業界というと、「男性主体」「体育会系」といったイメージを持つ人も少なくないだろう。実際、キリングループ各社の女性社員比率は、いずれも20%前後、管理職の女性比率は4%程度(共に2014 年)である。しかし、20代の総合職の女性比率は、40%近くにまで増えつつあるという。

20%と40%──この数字のギャップはどこから来るのだろうか。多様性推進室室長の尾白克子氏は、2006 年に同社が女性活躍推進を始める前の状況を、次のように振り返る。

「当時の女性従業員(総合職)の間には、戦力として活躍し始める入社5 年目頃から、結婚を機に徐々に退職してしまう傾向がありました」

総合職は転勤の可能性もあることから、「将来、仕事と家庭の両立は困難になるだろう」とひとり悩んだ末、キャリアをあきらめる女性が後を絶たなかった。「気がつくと、同期の女性社員は、片手で数えられるほどしか残っていませんでした」と尾白氏は自身の体験を振り返る。

しかし、結婚時に退職しなかった女性社員に注目すると、ほとんどが出産後も働き続けていた。その後、仕事が面白くなってくる年代に差し掛かる、ということもあるだろう。家庭以外の活躍の場があることに喜びを感じる人もいるに違いない。

彼女たちの共通点は、ライフイベント期以前に「仕事による成長実感」を得ていたことだった。つまり、女性の離職を食い止めるカギは、家庭を持っても「働き続けたい」と思えるよう、早期に動機づけを行うことだ、と尾白氏らは考えた。

● 背景2 男性リーダーの対応が壁に

ところが社内には、成長実感を損なう「壁」が存在していた。男性社員と女性社員の間で「経験値の格差」が生じていたのだ。

入社当初は男女共に、量もレベルも同程度の仕事をこなしているが、年次が進むにつれ、男女間で徐々に違いが広がっていく(図1左)。

原因の1つは、男性リーダーと女性社員のコミュニケーション不足だ。

「リーダーの中には『、こんなことを言って泣かれたらどうしよう』、『セクハラになりはしないか』などと考え過ぎてしまい、女性社員との対話に消極的になる人もいます。すると『阿あ吽うんの呼吸』で話が通じやすい男性社員との接点のほうが多くなり、無意識のうちに仕事の与え方にも偏りが生じてしまうのです」

さらに追い打ちをかけるのが、家庭を持つ女性社員への「過剰なおもんぱかり」である。

「『家事が大変だろうから』と、本人の意思も確認せず、負荷のかからない仕事ばかり回す上司も少なくありませんでした。これでは、経験値の男女間格差は開くばかりです」

よかれと思ってしていたことが、結果的に女性部下の成長を妨げ、仕事の意義やキャリアパスを見えづらくさせていたのだ。

● 方針 前倒しのキャリア形成

そこで2014 年、同社は新たな女性活躍推進に着手した。「KWN(キリン・ウィメンズネットワーク)2021」である。その前身は、2006 年に発足したKWNだ。同年、制定された「キリン版ポジティブアクション」の第一歩として、女性の活躍とネットワークづくりを支援する社内組織として設けた。KWN2021では、さらなる女性社員の育成と活躍を可能にする組織風土をめざす。その指標として、2021年までに女性リーダーの数を2013年の100人から300人へと3倍にする目標を掲げた。

目標達成に向けた女性社員の育成方針が、「前倒しのキャリア形成」である。男性社員よりも早めにハードな業務やキャリアチェンジなどの「ひと皮むける体験」をさせて、来たるべきライフイベント期に備える(図1右)。

「仕事と育児の両立時期に差し掛かる前に、自分の仕事の幅や得意領域を増やすのが狙いです。そうすれば、一時的に現場を離れることがあっても、自信を持って復帰できます。リーダーも、安心して仕事を任せられるようになるので、男女間の経験値格差が生まれにくくなる。結果的に、女性もリーダーシップを発揮できる風土に変わっていくはずです」

そこで同社では、前倒しのキャリア形成に向け、次の2点の働きかけに力を入れる。

①「タグを増やす」という発想

自分の仕事の幅や得意領域を増やすため、同社では「タグ」という概念を用いている(図2)。タグとはスキル、資質など、自分の強みを構成する要素のことだ。

「1つの業務をバラバラに因数分解してみると、いくつかのタグがあることに気づきます。例えば、首都圏のスーパーマーケットなど量販店の営業をしている場合、その経験は『首都圏』『量販店』『営業』という3つのタグが組み合わせられていると考えるわけです」

異動などで職種が変わった場合は、さらに新たなタグを得られることになる。「タフな交渉に自信がある」「周りとの調整力が高い」など、仕事の進め方のスタイルもタグに当てはめる。

ライフイベント期に入る前にできるだけ多くの経験を積ませ、タグを増やす。自分の仕事の幅を広げ強みを把握することで、もっと成長したいという意欲を引き出すことができる。

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