J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年08月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 日本一待遇がいい企業には 「常に考える」仕組みがある

岐阜県に本社を構える未来工業は、今年創業50年を迎える。
電気設備資材の製造販売から始まり、現在ではガスや水道設備資材の製造販売にも携わる。
現在、同社を指揮するのは創業社長の息子で4代目社長となる、山田雅裕氏だ。
山田氏は、歴代社長が社是として守ってきた「常に考える」を引き継ぎ、自らも実行する。
同時に、社員の働きやすさに配慮した制度や職場づくり―残業禁止、日本一長い休暇、70歳定年制、県最高クラスの給与水準など―を続けてきた。
50年間赤字ナシという驚異の経営の背景には、どんな秘訣があるのか。
同社の人材観と人材活用、組織づくりについて聞いた。


山田雅裕(Masahiro Yamada)氏
未来工業 代表取締役社長
生年月日 1963年6月
出身校 日本大学経済学部
主な経歴
1987年4月 未来工業 入社
松本営業所長、山形工場長などを
歴任
2008年6月
子会社の神保電器 社長 就任
同時に未来工業 取締役 就任
2013年6月
未来工業 社長 就任
現在に至る

未来工業
1965年創業。電気設備資材、ガスや水道設備資材の製造販売に携わる。2011年に第1回「日本で一番大切にしたい会社」大賞受賞。
15年第1回「ホワイト企業大賞」受賞。名証2部上場。
資本金:70 億6786万円、連結売上高:354億円(2015年3月期)、連結従業員数:1156名(2015年3月20日現在)

インタビュー・文/楠本 亘
写真/上野英和

指針はただ1つ

―社内を少し拝見したところ、「常に考える」という看板をあちこちで目にしました。

山田

「常に考える」とは社是です。50年間、未来工業はこの社是1つでやってきました。常に考え、よいと思ったことを現場の裁量でどんどんやってもらう。800人を超えるまでになった社員(本社単体)に、それぞれの能力をフルに発揮してもらうためには、自ら考え、そして動くことが必要です。管理職や会社は、社員を信じ、ただそのサポートをしていればよいというスタンスです。

―国内平均より20日以上多い休暇、原則として残業禁止、岐阜県内で最高レベルの給与水準など、待遇を充実させています。第1回の「ホワイト企業大賞」も受賞されました。

山田

社員に気持ちよく働いてもらいたい―その思いを形にしていった結果、自然と「ホワイト企業」と呼ばれるようになっただけです。

父で創業者の山田昭男が生前によく言っていました。「人は睡眠に8時間必要で、会社に8時間拘束される。残る8時間で好きなことをしてリフレッシュしなければ、次の日、笑って会社に来られない」と。

好きな時間を8時間確保してもらうには、残業があってはならない。そもそも、残業をすれば人件費はもとより電気代等、諸々の経費もかかり、会社も損なのです。

むしろ、勤務時間に集中して常に考え、動くことで効率を最大化するほうが社員も会社も得をし、幸せではないでしょうか。

―限られた時間を有効活用して成果を出してもらうためには、何が必要でしょうか。

山田

やはり現場を信じて裁量を与え、常に考えてもらうことにつきます。

一例では、当社では管理職は部下への命令は禁止です。「いつまでに何をやれ」という命令は、簡単なうえ、無責任です。まずは部下に考えてもらい、時に説得し、納得のうえで行動してもらう。最初は時間がかかっても、倦まずたゆまず説得を続けることで、部下や現場も納得して最善の行動ができるものです。

社員を信じ、任せる

―納得して動くことで、結果も変わってくるのでしょうか。

山田

そう思います。自立心が育つせいでしょうか、当社では20 代も後半になれば、営業でも一人前です。商談時の価格交渉を自ら行い、「納品のロットを500 個増やしていただけるようでしたら、あと5%値引きいたします」といった按あんばい配で、即断即決に持っていく。相手の部長さんが心配して「上役に相談せずに、本当に大丈夫かい?」と気を遣ってくれたりするそうです(笑)。

他社では「持ち帰って相談のうえ、改めて……」が一般的かもしれません。こちらはその隙に、契約まで済ませてしまうというわけです。

こういうことができるのも、いわゆる「報・連・相」や「営業日報」の記録・提出を禁止しているからです。報・連・相や営業日報には強制が伴ううえ、社員のやる気を削ぐと、当社では考えます。そもそも、単なる報告や相談、記録のために出先から1時間かけて社に戻るといった行為はムダでしょう。それより現場で即決し、その日の仕事が終わったなら、直帰でもして好きなことをやってほしい。それが次の日以降の、能力をフルに発揮する仕事につながるのです。

―社員は「日本一の待遇」でも仕事が回るように動いているのですね。

山田

その通りです。「常に考える」ためには、自ら動かなければならない。その結果、どうすればよくなるかを考え、実行に移す。日々、その繰り返しです。言い換えれば、自らの能力を常に最大限に近づけてもらうということです。

―そういう主体性のある人に入社してもらうのは大変でしょうが、採用時には応募者のどこを見ていますか。

山田

「人柄+技術(経験)」でしょうか。特に工場のラインで働く人たちの場合、最低限の技術は見ます。けれども、より大事にしているのは人柄です。具体的には、未来工業という会社を好きになってくれるかどうか、です。

会社としては、社員に気持ちよく働いてもらうための雰囲気づくりや制度、福利厚生に力を注いでいるつもりです。それを受け止めたうえで、自ら成すべきことについても謙虚に向き合える人かどうかを見るのです。

さらに、会社はチームで動くので、上司の考えを受け入れられる人でなければ、納得して仕事を続けられないと思うのです。

素直な人材を求めて

つまり、仲間や上司のいうことに“素直に”耳を傾け、かつ自分で常に考えていける人材です。この素直さがある人は、会社に定着し、貢献してくれていると感じています。

多少やんちゃでも構わない。根っこのところに素直さがある人は人の意見のよいところを吸収し、自らの考えや行動に取り入れていきます。これが、成長していく人の資質なのではないでしょうか。

―1階ロビーにある「小さな倹約大きな浪費」(冒頭の写真)という貼り紙も、人材観につながる言葉なのですか。

山田

父の直筆です。お世辞にもうまい字ではありませんが(笑)、社員を信じるという理念がこもった力強い字だと思い、掲示しています。

まだ年商が10 億円台(現在の連結売上高は354億円)だった頃、ある社員の進言で3000万円の機械を買ったそうです。勇気のいる設備投資だったはずですが、肝心の機械は、思ったほど役には立たなかった。しかし父は、その社員を決して叱らず、全社員への教訓として当の機械を設置し続けたと聞いています。

「小さな倹約 大きな浪費」とは、社員の提案に耳を傾け、提案から生まれた投資は惜しまない。ただ、そのための節約は徹底してやる。そういう意味だと思います。

―社員の自主性を重んじていることがよくわかりました。とはいえ、常に自ら考えるのは難しいもの。何か工夫や仕掛けはあるのですか。

山田

社是「常に考える」をあちこちに掲げていることが1つです。ここまで目に入ると「未来工業の社員たるもの、常に考え、そして行動する」という責任感が湧くのではないでしょうか。そのための可視化です。

もう一つは「改善提案」の制度です。備品の導入や配置の工夫、食堂やトイレに関することなど、社内外のあらゆる事柄について、「○○すれば改善できる」という提案を、社員に自発的に出してもらい、採否に関わらず報奨金を出します。

ただ常に考えよう、と旗を振るだけでなく、実際に考えを形にしてもらうことを、この制度でサポートしているのです。

―実際の提案数は。

山田

多い年では2万件を超える提案が集まります。採用された提案には、「改善提案シール」を提案者の名前と共に改善箇所に貼り、掲示します(写真参照)。

さらに、1級(報奨金:3万円)から数等級があり、不採用でも500円を支給します。多い人で年間200 件超の提案を寄こす人もいます。報奨金は全て現金払いなので、恰好のヘソクリになる。実際、車を買う、結婚する、家を建てるといったライフイベントに合わせて、各人とも提案が増えます(笑)。動機は私的なものからでも、結果として業務の改善を真剣に考えてくれるわけですから、ありがたいことです。

現場に裁量を与える

―現在、全国に6工場、6支店を設けていますね。本社と現場との関係はどのようなものですか。

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