J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

CASE 3 日本通運 現地での修羅場体験が成長を促す 1年間にわたる海外業務を経験させ “海外で稼げる”人材を育てる

入社4年目以降の若手社員を対象とした「海外業務研修員制度」を1964 年から実施している日本通運。
1年間、現地でさまざまな業務を経験することを通じて視野を広げ、海外で“ 稼げる”人材の育成をめざしている。

近藤廣司 氏 NITTSUグループユニバーシティ 専任部長
横澤幸紀 氏 NITTSUグループユニバーシティ 課長
西原陽子 氏 経営企画部 IR担当 主任
都築昌男 氏 営業部 主任(複合)

日本通運
1937年「日本通運株式会社法」に基づく国策会社として発足。
1950年に民間会社として再出発。陸・海・空の各種輸送をはじめ、倉庫、通関、重量品・プラントの輸送・建設、特殊輸送、情報処理・解析など物流事業全般を手がける。
資本金:701億7500万円、単体売上高:1兆899億3500万円(2015年3月期)、単体従業員数:3万3153名(2015年5月1日現在)

[取材・文]=増田忠英 [写真]=日本通運提供、編集部

●背景 国際関連事業比率40%をめざす

1958 年、ニューヨークに駐在員事務所を開設して以来、国際物流の拡大と共に世界各地にネットワークを広げてきた日本通運。現在は世界41カ国・240 都市・514 拠点のグローバルネットワークを構築しており、約2万人の海外社員が働いている(2015 年3月末時点)。2013 年4月から取り組む「日通グループ経営計画2015」では、2016年3月期の国際関連事業売上高比率を40%とする目標を掲げており、将来的には50%にまで高めることをめざしている。

同社のグローバル人材育成方針について、グループの人材育成戦略を担う「NITTSUグループユニバーシティ」の近藤廣司専任部長は、次のように語った。

「国際関連事業の比率を高めるには、海外で稼ぐことのできる人材、海外業務をマネジメントできる人材を増やすことが不可欠です。

というのも、我々の事業は基本的に、モノを動かす商売です。メーカーさんですと、モノづくりの技術をお持ちのため、そこにプラスアルファで語学などがあればビジネスも進みやすいでしょう。しかし、我々の場合は現地の顧客や同業者など、さまざまな人々とタフな交渉をしながらビジネスを生み出していかなければなりません。

そうした仕事ができる人材を育成するために、若いうちから海外での経験を積ませると共に、国内での教育でもリベラルアーツ(教養)の習得を強化するなど、グローバルな案件に対応できるような意識や知見の醸成に取り組んでいます」

●目的 視野と能力を広げる

半世紀以上前から海外展開を進めてきた同社だが、その原動力となってきた人材育成の仕組みが、1964 年に開始された「海外業務研修員制度」だ。入社4 年目以上の若手社員を対象に1年間(一部地域では2 年間)、海外現地法人に派遣し、実務を通じた研修を行う。当初は毎年数人程度の派遣だったが、現在は毎年約60 名を世界各地に派遣。制度開始からでは、延べ約1750 名もの社員がこの制度での海外派遣を経験したという。

同制度の目的について、同じくNITTSUグループユニバーシティの横澤幸紀課長は語る。

「研修員は将来、海外現地法人に勤務することを前提としていますので、1年間の研修の中で海外業務に精通し、視野を広げることを目的としています。研修員なのでマネジメントはしませんが、現地の先輩マネジャーの仕事振りを見習い、次に自らマネジャーとして赴任する際に活かしてもらいたいと考えています。また、現地に溶け込み、現地のスタッフと親しくなり、その国の知見を持ち帰って国内での営業活動に活かしてもらうことも、副次的な効果として期待しています」

研修の基本は海外拠点の業務を通じたOJTのため、プログラムは全て受け入れ先が作成する。研修員の派遣は海外拠点にとっては毎年の恒例行事となっており、本社側は各海外現地法人の状況を見ながら、派遣先を割り振る。

「業容が拡大傾向にある海外拠点では、研修員を、将来のマネジャー・幹部社員候補として見ていますので、積極的に受け入れてくれます。

また、制度の名の通り、研修員が着任した時からすぐに、『座学』ではなく実際の『業務』に取り組むところが、研修員の成長につながっていると捉えています」(近藤氏)

社員を海外に派遣する際は、いかにスムーズに現地に溶け込ませて、業務に専念できる環境を提供できるかが大切になる。その点、同社の場合は50年以上この形式で実施しており、現地の日本人マネジャーのほとんどが過去に研修員を経験しているため、自らの経験を踏まえて研修員を指導することができる。加えて長年にわたり蓄積された受け入れのノウハウ、育成の連鎖がある。そのため、派遣中のことは現地にほとんど任せても、特に問題はないそうだ。

●派遣元の理解 一回り成長して職場に貢献

海外業務研修員制度は手挙げ式で、希望者が自ら応募する。入社4 年目以降としているのは、業務での一定の経験を積ませるためだ。その他の条件は、TOEICのスコアが600点以上であること。地域ブロック・事業部での面接、本社での日本語・英語による面接を受け、その総合評価で選考される。応募にあたって上司の許可は不要であり、受講希望者本人が直接本社に応募する形式になっている。

しかし、職場の貴重な戦力を1年以上も海外に送り出すとなると、職場の理解が不可欠だ。どのように理解を得ているのだろうか。

「私が30 年近く前に入社した頃は、海外業務研修員制度に応募したいと手を挙げても、上司から『お前がいなくなったら今の仕事はどうするんだ』と言われ、なかなか行かせてもらえませんでした。しかし現在では、人事対応も含めて制度が定着しており、職場でも積極的に参加させる土壌ができています」(近藤氏)

制度が定着した背景には、これまで同制度を経験した社員の多くが、着実に一回り大きくなって戻ってきている実績がある。

「面談などで話を聞く機会があると、海外業務研修員制度に参加した経験のある社員は、他の社員よりも明らかに能力や視点の広さが抜きん出ていると感じます」(近藤氏)

派遣される多くの人は、若手・中堅社員であるため、それ以前は国内で限定的な業務を担当していることが多い。ところが研修員として派遣されると、より高いレベルの仕事を任されることになる。どの拠点でも人員が少ないため、自分の役割に枠を設けている場合ではない。時には部門の枠さえ越える、幅広い業務をこなすことが求められる。数十名もの現地スタッフを差配する立場になることも珍しくない。海外での生活も含め、数多くの修羅場に遭遇し、それを短期間で乗り越えなければならないため、必然的に能力が高まるのだ。また、管理職ではないため、現地スタッフと同じ立場で接することができ、打ち解けて親しくなることも多い。

研修を終えて帰国し、国内の職場に戻ると、海外での経験を活かして、一段レベルの高い仕事をするようになる社員が多いという(経験者の声は54ページ、西原氏の項を参照)。

こうした実績の積み重ねが認められ、特に国際輸送を扱う航空部門や海運部門などでは、多くの社員がこの研修に参加することが半ば伝統になっている。

●新たな展開 国内・管理部門の社員も参加

海外業務研修員制度は、その根幹は維持しつつ、現場の状況に応じて随時変更を加えながら運用されている。以下に、最近スタートした2つの新たな取り組みを紹介したい。

●国内事業部門社員の派遣の拡大

海外業務研修員制度への参加者は、以前は大半が、普段から海外業務に携わる機会の多い国際輸送部門の社員だった。しかし2013 年より、国内事業に携わってきた社員の参加を増やすため、従来の50 名の枠に加え、優先的に参加できる10 名の枠を設けた(初年度は7名)。

というのも、海外事業の拡大に伴い、輸出入だけでなく、海外での陸上輸送や倉庫の改善、立ち上げといったノウハウが必要とされるケースが多くなっており、同社の国内事業で培われたノウハウの海外移管が必要だからだ。

「国際業務に携わってきた社員は、海外業務に必要な知識を、普段から実務を通じて学んでいるため、事前の研修期間なしに海外へ派遣しています。しかし、そうした知識は国内業務に携わる社員には未経験の分野です。そこで、彼ら彼女らには半年間の研修期間を設け、準備をさせています」(横澤氏)(経験者の声は55ページ、都築氏の項を参照)

この半年間に、英語を集中的に特訓する他、輸出入業務の基礎と国内の知見を海外での業務や営業に活かすため、国内の最新ロジスティクスを実地で学ぶ。

国内業務部門の社員の本格的な派遣は始まったばかりということもあり、派遣中はNITTSUグループユニバーシティの担当者が派遣先および本人たちと連絡を取り合い、悩みを聞くなど、きめ細やかなサポートを行っている。

●管理部門社員の派遣

今年(2015 年)から新たに始まったのが、管理部門への派遣だ。

「海外現地法人が増えたことにより、財務・人事・総務などの管理業務を担う人材が不足する傾向にあります。そこで、海外拠点で管理業務ができる人材を若いうちから育成するため、国内の管理部門で希望のあった若手社員を今年は3 名、派遣する予定です」(横澤氏)

●ナショナルスタッフの育成 次世代幹部候補者に

海外現地法人で採用したローカル社員の育成にも触れておこう。

以前は、毎年世界各地から、管理職になる前の若手社員を日本に集め、日本や会社への理解を深めるツアーを実施してきたが、長期勤続者への報奨の意味合いがやや強い施策だった。そこで見直しを行い、2012 年度からは、将来の経営幹部にふさわしい人材を選抜して育成する「ナショナルスタッフ経営職候補者研修」に切り替えた。

「将来は、海外現地法人のトップ2のいずれかをナショナルスタッフにしたいと考えており、そのための意識づけを目的に実施しています」(横澤氏)

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