J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

CASE 1 ブラザー工業 グローバル環境は現場にあり 「百聞は一見にしかず」の機会を 新人から惜しみなく与える

グローバル人材とは何か。改めて考えさせられるのが、ブラザー工業の事例だ。
売上に占める海外比率が8割を超え、従業員の日本人比率は約3割、製造拠点はほぼ海外。となれば同社で働くことは、そのままグローバルに仕事をすることを意味する。
そんな同社の人材の捉え方と育成法を聞いた。

岡田英嗣 氏 人事部 採用教育グループ シニア・チーム・マネジャー
瀧尻純子 氏 人事部 採用教育グループ
林 雅洋 氏 メカシステム第1開発部

ブラザー工業
1934 年設立。1908年(明治41年)に、安井兼吉が安井ミシン商会を興したのが始まり。現在は、プリンターや複合機、工作機械、通信カラオケシステム、Web会議システムなど、創業当時の主力商品だったミシンのみならず、さまざまな分野に事業を展開。約3万5000人のグループ従業員のうち、およそ6割が日本を除くアジア、アフリカ、中近東、オセアニアの人材である。
資本金:192億900万円(2015年3月期)、連結売上高:7072億3700万円(2014年度)、連結従業員数:3万4988名(2015年3月31日現在)

[取材・文]=竹林篤実 [写真]=ブラザー工業提供、編集部

● 背景 全員に必要なグローバル視点

「当社では、普段から国内と国外を分けて考えることはありません。採用に際して、志望者はみんな、海外で事業展開する企業であることを理解済みと考えています」と、人事部採用教育グループの岡田英嗣シニア・チーム・マネジャーは語る。

早くから海外展開に取り組んできたブラザーでは、“グローバル”は仕事を進めるうえでの前提条件であり、つまりは社員全員がグローバル人材といえる。

全世界のグループ社員は、1999年制定の『ブラザーグループ グローバル憲章』に従う。グループ全従業員の意思決定と実行の基準として、「基本方針」と「行動規範」からなる憲章は、27の言語に翻訳されている。それだけ多くの国の人々が働く国際企業がブラザーグループであり、日本人も、同社に所属する多数の人種のひとつに過ぎない。

「今やお客様のほとんどが日本以外の国の方です。ほぼ全ての商品の製造拠点が海外に散らばっている。だから仕事も、全てグローバルを意識したものとなるのです」と岡田氏。「グローバル」は同社では早くから所与の条件となっていた。

1947年には輸出を開始し、1954 年にはアメリカに販売拠点を設立。戦後の早い時点から海外に目を向け、着実に手を打ってきた。

「現在50 代の社員層がグローバル化の牽引役といえる存在です。彼らが海外に渡り、拠点の立ち上げや体制構築に貢献してきました。おそらくはとてつもない修羅場をくぐり抜けながら、販売及び製造の拠点を1つずつ確立してきてくれました。その成果が今の姿といえるでしょう」と岡田氏は、同社の歴史を振り返る。

● 新人海外研修の狙い・概要 「百聞は一見にしかず」を徹底

そうした歴史を持つ同社では、十数年前から、現場=海外という状況になる。しかし日本で働く社員にとっては、現場が遠い存在になってしまった。現地・現場・現物が重要となる仕事だが、それらを見るには機会をつくる必要性が出てきたのだ。

その一環として、2013 年より、新入社員向けに現場に触れ、体感する内容の研修が導入された。毎年50名程度になる新入社員全員を、約10日間送り出す。行き先は中国の生産拠点や香港やタイにある販売拠点である。

海外研修実施の背景には、座学研修に対する問題意識があった。人事部採用教育グループの瀧尻純子氏はその意識と、研修の狙いをこう語る。

「座学形式ではありますが、それまでも世界の状況の理解を促す研修を行っていました。けれども、話を聞くだけでは限界があります。百聞は一見にしかず、見ればすぐにわかるのだから、行ったほうが早い。また、早期に一度海外に行っておけば、先々仕事で出張が必要となった時にも、ためらいなく出掛けられるはずです」

研修目的は、とにかく現場を見ることだ。研修生たちには生産ラインの傍らに立ち、作業の様子をじっと観察する時間が設けられている。

といっても、ただ眺めているわけではない。研修後は、各自が担当した工程についての改善案を提出する。わずかなムダも見過ごさないよう注視することが求められる。コンマ1秒のムダを削り、数銭単位でのコスト削減に努める現場感覚を、身を以て体験するのだ。

「同世代の女性が立ち仕事で一生懸命に作業する姿に、強い印象を受けた参加者もいました。現場でこんなにも頑張っているのだから、自分も集中しなければと刺激を受けたようです」と瀧尻氏は成果を語る(より具体的な成果は43ページ、体験者の林氏の話を参照)。

● 若手対象の制度の概要 トレーニー制度

そして、新人のみならず、20 代から30 代の若手社員を対象とした、海外拠点での「トレーニー制度」も用意している。派遣期間は3カ月から1年だ。

この制度では、長期滞在の中、現地でOJTを実践する。その中で、日本で担当する仕事との連携を確認したり、より効率的なやり方を追求したりする中で、各自に必要なことを学び取ってもらう。

誰をどこに派遣するかは、配属部門が決める。選抜されれば、当然その社員のモチベーションは高まるだろう。派遣先で現地の顧客の生の声を聞くことも強い刺激となるはずだ。

「現地での人脈形成も狙いの1つです。何かあった時には、このネットワークがものを言います。困った時に、フランクにコミュニケーションをとれる相手が現地にいることは、問題解決を図るうえで大きな推進力となるのです」(瀧尻氏)

長期にわたる海外派遣になるが、人事はどのように関わっているのだろうか。

「派遣先の選定はもとより、人材選抜についても口出ししません」(岡田氏)

さらに、海外勤務について回る「語学力」についても、同社の場合は自然流だ。語学力はあるに越したことはないが、ないからダメだとも考えない。大切なのは「必要なコミュニケーションをとること」であり、その制約条件は語学だけではないというのが同社の考え方だ。このため、語学研修などの事前学習の機会もあるが、人事部では、特に強制していないという。

ただし、唯一、予算の配分については人事部が担うという。「予算がない」という理由で、適切なタイミングでの海外での学びの機会を失うことを防ぐためである。

● 海外からの採用 国内で戦力化

海外からの人材採用も積極的だ。

「2009 年から中国などの大学・大学院新卒者を対象とするグローバル採用を行ってきました。採用した人材は毎年6 名程度で、日本で育成しています」

半年程度の日本語研修修了後、部門に配属される。狙いは、「現地感覚」を意識した商品づくりである。

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