J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年07月号

OPINION2 挫折と丁々発止が限界点を超える 特別扱いのない海外経験のすすめ

若者の「海外経験」の代表格ともいえる「留学」。
特に長期の海外経験は、価値観や行動に対して大きなインパクトを与える。
留学で得られる効果は、グローバル人材の育成制度を設計する際のヒントとなり得るのではないだろうか。
そこで、学生たちの海外に対する関心を高めるべく留学の魅力を発信し続ける、東洋大学の芦沢真五教授に話を聞いた。

芦沢真五( あしざわ しんご)氏
東洋大学 国際地域学部 教授
1995年フルブライト奨学生としてハーバード大学教育大学院に留学。慶應義塾大学(SFC)、大阪大学、慶應義塾ニューヨーク学院、明治大学などを経て2013年より現職。米国、欧州、日本の高等教育機関の国際化に関わる比較研究が専門。自身が担当する講義『留学のすすめ』は、多くの学生からの支持を集めている。

[取材・文]=木村美幸 [写真]=芦沢氏提供、編集部

価値観をガラリと変える経験

私が大学で指導を担当している4年生の中に、1年間の交換留学でアメリカのモンタナ大学に通う女子学生がいる。東洋大学入学時は留学にさほど興味のなかった彼女だが、1年生の夏休みにフィリピンの貧困地区の幼稚園で短期ボランティアを経験した。この体験が強烈な火種となり、帰国後は英語の学習に打ち込むようになった。そして2 年生の夏にはエクアドルに飛び、障害者福祉施設でボランティアを行った。そこではグローバルな環境では語学力だけではなく、さまざまなことに関心を持ち、自身の考えや意見を言えることの大切さを感じたという。

彼女はそれらの経験から、知識欲を持って学ぶことが必要だと自覚するようになり、その後は授業以外の時間をほとんど図書館で過ごすようになるほど、行動がガラリと変わった。

その甲斐もあり、TOEICの点数は入学時から300点もアップした。周囲からの後押しもあって、3年生の秋からモンタナへの交換留学に行くことを決めたという。

彼女のケースの場合、企業の人事担当者なら、おそらくモンタナで勉強した1年間を第一に評価するのではないか。しかし、学生を育てる我々の側から見て一番重要なのは、大学生活最初の夏の、フィリピンでの短期ボランティア参加だ。なぜなら、それが彼女を鼓舞したからである。彼女のケースのように、学生にやる気や自信を与えてくれる機会を、4 年間にどれだけ提供できるかというのが、我々教員の課題と言えるだろう。

世代間交流で留学を支援

現在私が関わっているプロジェクト「グローバル人材5000」は、学生時代に海外留学をした経験が、その人の人生やキャリア形成にどのような影響を与えるのか、5000人規模で調査・分析するもので、昨年春にスタートした。

帰国直後の留学生へのアンケート調査はこれまでにも数多くあったが、「グローバル人材5000」は留学経験者が社会に出た後も、10年以上の長期にわたって追いかけていくのが特徴だ。

プロジェクトの主な目的は、若い世代の留学を支援して留学生の数を増やすこと。そして、本人の人生観や社会観に、プラスのインパクトを与える海外での学習機会の創出を通じて、グローバル人材育成に寄与することが我々の大きな望みである。

また、並行して運営しているのが、留学経験者のオンラインコミュニティー形成を目的とするサイト「留学のすすめ.jp」である。現在は、大学生が留学経験を持つ社会人をインタビューし、経験談を記事にして掲載する、という作業を行っている。

ここで重視しているのは、学生と社会人の世代間交流を促すことだ。ベテランの大学教授から、留学していた時代の渡航体験を聞くのも決して悪いことではない。しかし、留学がより身近になり、形も多様化している現代の学生にとって、エリートだけが留学していた時代の体験談は、実感の湧く話とは言い難い。彼らの兄や姉のような世代の人が語るほうが、間違いなく強いインパクトを与えられるだろう。

海外で必要になる力

学生たちの中には「英語が苦手だから留学は無理」「グローバル人材なんてなれるわけがない」などと、最初から留学という選択肢をネガティブに決めつけている人が多い。そのように自分の可能性に限界を設け、自身の人材開発を投げ出してしまうことは大きな問題である。

留学に際して必要なのは、「自分の可能性を信じる力」と「自分を鍛えてくれる環境に感謝する気持ち」の2つである。それらさえあれば、語学も必ず習得できるので心配無用だ。

期間は短くてもよいので、とにかく海外に出てみる。すると、例えば「東南アジアの貧困地域にも、懸命に勉強している人がおり、多くの人が日本人よりずっと上手に英語を話している」「どの国でも、働きながら勉強している学生が日本よりずっと多い」「中国や韓国からの留学生が猛烈に勉強している」といった状況を目の当たりにする。そうして知る事実や現状に打ちひしがれてしまう人も中にはいるかもしれないが、よいインパクトを受ける可能性のほうが圧倒的に高いと思う。

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