J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年04月号

船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第12回(最終回) グローバル・チームをいかに運営すべきか?

多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。

船川淳志( ふなかわ あつし)氏
グローバルインパクト代表パートナー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
東芝、アリコジャパンに勤務後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にてMBA取得。
組織コンサルタントとして活動する傍ら、以下の講師を歴任。サンダーバード日本校 客員教授(1999-2003)、NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話ーグローバルビジネス成功の秘訣」講師(2003-2004)、社団法人日本能率協会 主催「グローバルビジネスリーダープログラム」主任講師(2004-2007)、国際基督教大学大学院 Global Leadership Studies 非常勤講師(2011-)、早稲田大学大学院 ETP 非常勤講師(2011-)。

チーム運営の難しさ

“Our team is still in the stormingstage, not performing yet.”(我々のチームはまだ混乱期にあって、チームとしての機能が発揮されていない)

数年前のコンサルティング案件の初期調査インタビューで、ウェールズ出身のプロジェクト・リーダーはこう答えた。場所は上海。彼の下には日本、中国、韓国、シンガポール、イタリア、オランダ、ドイツ、米国を含む10カ国の国籍からなる、30名超のチームリーダーがいた。それぞれが数十名の現場社員をまとめており、総勢700人にもなる大規模プロジェクトだった。ところが、このチームリーダー同士の意思疎通がうまくいかず、プロジェクトは計画通り進んでいなかった。依頼してきたのは米国大手企業の日本支社のメンバーで、私が90年代からグローバル・チーム開発や組織開発を行ってきたことを知っている方だ。

組織行動やチーム開発について多少の知識のある読者ならば、冒頭のウェールズ人の言葉は、心理学者B.タックマンによる、「チームの発展段階モデル」(図1)から引いたものであることがおわかりだろう。このモデルはMBA教育だけではなく、プロジェクトマネジメントのバイブルともいうべき、PMBOK(Project ManagementBody of Knowledge ※国際的な標準とされるプロジェクトマネジメント知識体系ガイド)でも紹介されている。

同モデルを簡単に見てみよう。最初にチームメンバーが選出され、集まるステージが形成期(Forming)だ。次に混乱期(Storming)が待ち受けている。本来のプロジェクトチームのメンバーとは、チームとしての目標を達成するために選出される。したがってお互いが初対面同士のことが多いが、当然、スキルも違うし、仕事のやり方も異なっているケースが大半だ。ゆえに、チームの始動前の混乱は不可避なのである。

この混乱期をうまく乗り越えると、チームメンバー同士がお互いの規範を共有する規範づくり(Norming)の段階に進める。注意しておきたいのは、norm(規範)がrule( 規則)ではないということだ。規則は明文化されなければならず、しかも減点主義が基本だ。一方、規範は必ずしも明文化されていないし、「このようにしたらチームがうまくいく」という加点主義的発想だ。明文化されていないメンバー各自の規範をお互い理解しながら、チームの行動規範を共有していくのである。

この段階を経て、ようやく機能開始(Performing)の段階に入る。チームメンバーを集めれば、すぐにチームは動き出す、といった幻想を抱きがちであるが、混乱期(Storming)と規範づくり(Norming)の段階なしには、チームの実質的な運営は厳しい。半世紀も前の“タックマンモデル”が今も広く知られている理由は、チーム運営の本質を指摘しているからだ。

さて、通常のチーム、例えば国内ビジネスにおいてもプロジェクトチームの運営は簡単ではない。冒頭のウェールズ人のプロジェクト・リーダーが述べた「混乱期にある」という言葉は、グローバル・チームの課題を如実に表している。

多国籍、多言語、多文化というダイバーシティを抱えたグローバル・チームにとっては、この混乱期をいかに乗り切るかが成功のカギとなる。だが、最も厄介なのは、混乱期後に入る「表面的な平穏期」だ。この段階では、多文化環境の中でお互い気を遣い、ついコンフリクト(意見の対立)を避けてしまう。あるいは、「チームのビジョンやゴール」「チームシナジー」といった耳触りのよい言葉だけ共有し、実質的な議論に踏み込めなくなったりする。

その結果、これも海外ではよく知られる「カッツェンバックの業績曲線」(コンサルタント、J・R・カッツェンバックによる、チームが好業績を達成するまでの過程)のモデルのラインを描けず、結果を出せないまま消滅してしまうことがよくある(図2)。

グローバル・チームの成功要因

それでは、どうしたらグローバル・チームを上手く運営できるだろうか。チェックポイントを紹介しよう。

1. ゴールとビジョンの共有

企業や事業部の戦略的意図(そもそも何を目的に、どのようなゴールに向かっているのか)を認識したうえで、当該チームの成果や位置づけが、チームメンバーだけではなく、ステークホルダー間で共有されている。

2. 共通点、相違点の受け入れ

仕事を進める際、必要な考え方、価値観、業務スタイルなどについてチームメンバーがお互いの共通点を、思い込みなどなしに確認できる。同時に、違いを甘く見ることなく受け入れている。

3. 忌憚のない、かつ建設的な フィードバックによる相互学習

参加者同士がお互い率直に、かつ建設的にフィードバックを与えたり、受けたりする土壌がある。なければリーダーが率先して規範を示し、チームに定着させている。(そうすることによって相互学習が促進される)

4. 調停機能の設置と運営

先に述べたように混乱期(Storming)のマネジメントは重要である。多文化、多言語状況の中で起こりうるコンフリクトなどに備え、事前にしっかりした調停機能を設けている。もしくは、チームのファシリテーターは特にコンフリクト・マネジメントに習熟するようにしている。

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