J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年04月号

OPINION 2 リーダーシップのパラダイムシフトで求められる 全ての人がリーダーとなる 「出番型リーダーシップ」

経済環境は成長から成熟へと移行し、人材も多様化が進んでいる。
こうした時代に求められるのが多種多様なリーダーだ。
組織の全ての成員が持てる能力を十二分に発揮できる、強くて持続可能な組織を実現するには、多様な人材がそれぞれの能力を活かす「出番型のリーダーシップ」が必要だ。コーチングを日本に紹介する先駆けとなった榎本英剛氏に、今後のリーダーシップに不可欠なパラダイムシフトについて聞いた。

榎本英剛(えのもと ひでたけ)氏
1964年、兵庫県生まれ。1988年、一橋大学法学部卒業、リクルートに入社。1994年、渡米。California Institute of Integral Studiesに留学し、組織開発および変容学を専攻。1997年、同校より修士号を取得。留学中 The Coaches Training Institute(CTI)にてコーチングを学び、2000年、CTIジャパン(現ウエイクアップ)を設立し、日本でCTIのコーチング・プログラムを提供開始。2012年 CTIジャパンのCEOを退任。「よく生きる研究所」を設立。

[取材・文]=坂田博史 [写真]=よく生きる研究所 提供

「強いリーダー」の限界

企業を取り巻く環境は、変化が激しく、今後も将来を見通せない状況が続くことが予想される。そんな不確実性の高い環境下では、これまで理想とされてきた、周囲の人をグイグイ引っ張る強いリーダーだけでは、生き残れない。

杉やヒノキばかりの林は、多種多様な木が生える雑木林よりも環境変化に弱い。企業も同様で、同じタイプのリーダーが金太郎飴のようにいる組織より、多種多様なタイプのリーダーがいるダイバーシティが進んだ組織のほうが環境変化に強いことは間違いない。

また、強いリーダーに率いられるチームでは、メンバーの能力が100パーセント発揮されないという弊害もある。指示や命令によって強制的に動かされるメンバーは受け身になり、自主性を発揮できず、いつまでたっても自立できない。

技術革新が早く、画期的な新商品や新サービスも、あっという間にキャッチアップされ、コモディティ化する時代である。

そんな時代だけに、企業にとっては人こそが最大の差別化ポイントであり、競争力の源泉なのだが、強いリーダーは、メンバー一人ひとりの能力を必ずしも最大限に発揮させることができない。ゆえに、個人の力の総和である組織の力が最大化することもない。

さらに、組織がフラット化する中、リーダーはプレイングマネジャーとして自らの仕事の責任や、メンバーの育成責任、さらにチームとしての結果責任も背負わされている。短期的に成果を出すことはできるかもしれないが、とても持続可能ではなく、リーダーが皆、疲弊してしまっている。こうしたリーダーの現状を見て、「私には人を引っ張ることなんてできない」という人が増えている。リーダーになりたい人が減っているということは、現在のリーダーの持続可能性が低下しているということだ。

多種多様なリーダーがいて、組織の全ての成員が持てる能力を十二分に発揮できる。こうした強くて持続可能な組織を実現するには、リーダーシップに対する考えを大きく変える必要があるのではないだろうか。

リーダーシップのパラダイムシフト

私は、図1に示すようなパラダイムシフトがリーダーシップに起きていると考えている。順に説明してみたい。まずは「、地位」から「人」へ。リーダーシップがどこに帰属するかについてのシフトである。今までは、部長や課長といった地位に就くことで、初めてリーダーシップを発揮できると考えられてきた。しかし今後は、地位に関係なく全ての人がリーダーであるという前提に立ち、誰もがリーダーシップを発揮することが求められるようになる。

次に、「権力」から「魅力」へ。リーダーが行使する力のシフトだ。今までは、地位に付随する権力を行使して、強制的にメンバーを動かすことができた。だが、これからのリーダーは自らの魅力を発揮し、その魅力に惹かれたメンバーが自発的に動くようにしなければならない。ここでいう魅力には、リーダーの個人的な魅力に加え、メンバーにとって魅力的な仕事や役割をつくり出す力も含まれる。権力はその地位にある人にしか付与されないが、魅力は誰にでもあるし、誰でもつくり出せる。よって、全ての人がリーダーとなり得るわけだ。

そして、「Doing」から「Being」へ。従来は意思決定や、戦略立案といった「何をするか」がリーダーにとって重要とされてきた。Doingが重要であることに変わりはないが、魅力によって周りを巻き込んでいくことが求められる今後のリーダーには、それに加え「どうあるか」が大切になるだろう。

さらに、「指示・命令」から「支援・奉仕」へ。Doingという側面で見ると、リーダーの役割はメンバーに指示や命令をすることから、メンバーを支援し、奉仕することにシフトしつつある。一般に「サーバント・リーダーシップ」と呼ばれるものだ。この際、リーダーが持つ問いが両者で異なる。前者は「メンバーは自分のために何をしてくれるか」と問うのに対し、後者は「自分はメンバーのために何ができるのか」と問う。

最後に、「特定少数が専有」から「全員が共有」へ。リーダーシップは特定少数の人たち、地位に付随する権力を行使できる人たちが専有していたが、これからは全員が共有するものになる。

出番型リーダーシップを考える

全ての人がリーダーシップを発揮する組織では、その時その場に応じて必要なリソース(資源:スキルや知識などの能力だけでなく、個性などを含む)を持った人が、入れ替わり立ち替わりリーダーとして立ち現れる(Emerge)。これを私は「エマージェント・リーダーシップ(EmergentLeadership)」と呼んでいる。よりわかりやすく言うなら、「出番型リーダーシップ」だ。人それぞれに「出番」が必ずあり、自分の出番が来たと思ったら躊ちゅう躇ちょせず立ち上がり、必要なリソースを提供したらさっと身を引くからである。

この出番型リーダーシップにおいて、リーダーシップを発揮する源泉(ソース)は、その人が持っている「これは絶対に譲れない」、あるいは「これだけは大事にしたい」という信念や信条である。それらの思いがあるからこそ、リスクをとってでもリーダーシップを発揮しようとするわけだ。全ての人がリーダーであるといっても、全ての人が常にリーダーシップを発揮しているわけではない。自らの信念や信条に従って行動して、初めて人はリーダーシップを発揮できるのだ。

ただ、自分の信念や信条に従って行動しても、それがその時その場で求められているものでなければ、単なる自己満足に終わりがちだ。一方、その時その場で求められていても、信念や信条を曲げて合わせるとしたら、自己犠牲になる可能性がある。出番型リーダーシップは単なる自己満足や自己犠牲ではないところで起きる(図2)。言い換えれば、「自分が求めていること」と「場が求めていること」が出会った時、出番型リーダーシップが生まれる。

一般的に言って日本人は、「場が求めていること」に対する感度が高い一方、「自分が求めていること」への自覚が低いので、ともすると自己犠牲に偏る傾向が強いようだ。しかし、それではここで言う出番型リーダーシップを発揮することはできないだろう。

「全員がリーダー」の組織

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