J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年11月号

企業事例(考える③) 万協製薬 書いて笑って、“全社員が考える経営”を実現

2009年に日本経営品質賞を受賞し、一躍、全国にその名が知られるようになった万協製薬。1995年に阪神淡路大震災で被災した同社は当時、苦しい再スタートを余儀なくされたが、その後の飛躍的な成長は、同賞の審査員に「これまでの継続的革新の軌跡は、経営品質の考え方を実践した第二創業のモデル」といわしめた。同社の躍進を支えた“全社員が考える経営”と、それを実現したオリジナリティあふれる施策を紹介する。

松浦 信男氏
代表取締役社長
万協製薬
1960年創業。「万人が協力して、よい製品作りを行うことによって、弊社にかかわる、あらゆる人を幸せにする」という創業時のスローガンが社名の由来。阪神淡路大震災後、社員3名で現在の三重県多気郡に移って14年、従業員の98%が地元採用人材であり、社員教育は地域社会へのエンパワーメントと位置付けている。
資本金:4000万円、売上高:18億600万円、従業員数:90名(いずれも2010年6月現在)
取材・文・写真/井戸沼 尚也

顧客の要求を全従業員が考える経営

万協製薬は、1960年に兵庫県神戸市で外用薬の製造会社として創業。今年、創業50年を迎え、スキンケア商品専門の企画・開発・製造会社として成長を続けている。

同社は、1995年の阪神淡路大震災で本社と工場が全壊し、翌年、三重県多気郡多気町で再創業している。この時の経験が、同社社長松浦氏の人生観や経営哲学に大きな影響を与えたという。

「震災で家が壊れ、会社が全壊し、私の町は2日間燃え続けました。それをきっかけに、実父から経営を引き継いだ私の最初の仕事は、全従業員の解雇でした。会社が全壊してしまっては、従業員を抱えていられないからです。その時の皆の顔は、生涯忘れることができません。私はその日以来、会社は何のためにあるのか、経営者は何のためにいるのかと、考え続けてきました」(松浦氏、以下同)

松浦氏は自問自答を繰り返す中で、万協製薬の新しいあり方、新しいビジネススタイルを模索していく。そしてたどり着いたのがメーカーでありながら“サービス業”を標榜するスタイルであり、「顧客の要求を全従業員が考える経営」だ。震災以前はさまざまな製品を製造していた同社だが、再開に当たって、限られた資本の中での選択と集中を行った。その答えが、他社ブランドのための、スキンケア製品の企画・開発・製造を一手に手がけること。この業界では非常に珍しいビジネスモデルを打ち出した。さらに、万協製薬は製造業でありながら、自らをサービス業と位置付け、徹底した顧客第一主義を貫いた。自社だけの繁栄を追求するのではなく、顧客と自社が強く結び合ってこそよいものができるという、同社のスローガンを反映したスタイルである。

さらに、専属の営業部隊を設けず、顧客からのさまざまな要望に全社で対応していくという営業スタイルを確立。これが、「顧客の要求を全従業員が考える経営」である。これを実現するには全社員に商品知識、顧客に対する知識、コミュニケーション力、状況に合わせた判断力などが必要で、まさに全社が「考える組織」になる必要があった。

組織能力向上の仕組み

松浦氏は、考える組織をどのようにつくっていったのか。

「実は私は、個人を教育する、育てるなどということができるとは考えていません。そう考えること自体、おこがましいことだと思います」

しかし、社員が自ら考える力を育むよう仕掛けていることは、松浦氏の話からよくうかがえる。個人を育てるのではなく、全社員が自ら育つような場を設定しているのだ。

その仕掛けを紹介する前に、まず、同社の人材育成に関する考え方を紹介する。

同社では、会社は個の才能を競い合う場ではなく、助け合う場であるべきだという考えに立っている。したがって、個の育成よりも、全体のレベルアップを大切にしている。後述するように、個の能力を高める仕組みはもちろんあるのだが、考え方として、個を高めて束ねるのではなく、組織能力をいかに発揮させるかに重きを置いているのである。

・社員全員が価値観を共有すること・各部門の仕事の内容をお互いに理解すること・社員同士の協力体制ができていることを、重要な組織能力と捉え、これを高めるための社内環境づくりを大切にしている。『クレド』と呼ばれる同社の価値観、経営理念、行動指針と、年度ごとのスローガン、各課目標を、いかにして社員に落とし込んでいくか。そこで機能しているのが「気づきのある会議」だ。

この会議では他部署のためにどんな提案ができるか、部署の枠を超えた積極的な対話がなされている。多くの仕事は部門ごとに進行しているが、それぞれの部門の気づきを高めるために他部門からも参加者を募り、社内の諸問題を気づきの視点から協議するもの。「人は他の人のために何かを考える時に最も成長する」という松浦氏の考えが実践される場である。

楽しみながら読む・書く・考える

読むこと、書くことが考える力を育むことはよく知られている。そこで万協製薬では年に数回、さまざまな感想文の提出を全社員に課している。たとえば2009年は『人と企業の真の価値を高めるヒント』、『日本国増税倒産』といった経営や経済に関する書籍や、邦画『百万円と苦虫女』のDVDを見ての感想文が提出された。これらは点数が付けられたり、評価されたりすることはなく、1つのファイルにとじられ、皆が閲覧できるようになっている。他者の感想文を読んで、自分にはない視点に気づくことができるのだ。

もう1つ、単なる感想文ではない、万協製薬らしい課題を紹介しよう。それは、誰もが知っているある著名な短編小説の、後半のストーリーを自由に書き換えてみるというもの。この課題に取り組むには、「前半部分を読み込み」、「次の展開を考え」、「書き」、「前後を通して読み直し」、「再度考え」、「書き直し、まとめる」というように、読む・書く・考えるというサイクルを何度も回す必要がある。

典型的な人情話である原作の前半を活かしながら、後半は社員1人ひとりの自由な発想によって、笑いあり、SFありと、思いもよらないストーリー展開を見せる。社長本人の作も含む、全社員が書いたストーリーの数々はファイリングされ、誰でも閲覧できるようになっている。皆がよく知っている話が、たとえば隣の部署のA氏の手によって抱腹絶倒の話に変われば、翌日から皆がA氏を見る目が変わってくる。全員が楽しみながら、1人ひとりの個性や発想法を理解することで、組織の中に“自由な発想を面白がる風土”が醸成されていくのだ。

「考える力にもいろいろありますが、この試みは話の次の展開を自ら考えることで、社員に“先を読む/見越して考える”ことの重要性に気づいてもらいたいというものです。結果的に、他者の視点に学ぶ、多様な個性に気づくなど、いろいろと考えるきっかけになったようです。最初に皆が作ったストーリーを読んだ時には、皆の発想の自由さに本当に笑い、感心し、万協製薬を経営していて良かったと心から思いました」

思考指針を実践し、書き、気づく

万協製薬には、松浦氏がまとめた11の思考指針『バンキョー・フィロソフィー』がある。

①自分自身を育てるためにいろんな経験を積極的にする②物事を数字(お金)に置き換えて考える

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