J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年10月号

論壇 研究者・技術者はR&Dビジネスリーダーをめざせ ~スペシャリストからプロフェッショナル、そしてビジネスリーダーへ~

今、研究開発部門の存在価値が問われている。研究開発投資の割にその成果が少ないとの指摘が経営者をはじめとして多いのだ。魅力的なアイデアやテーマを事業化につなげ、企業の成長戦略の一翼を担うR&Dビジネスリーダーになるにはどうしたらいいのかを本稿では紹介する。

木村壽男(きむら・ひさお)氏
1983年、京都大学農学部食品工学科卒業。企業の研究所にて研究開発活動に従事した後、JMAC日本能率協会コンサルティング入社。現在、同社経営革新本部シニア・コンサルタント。主に経営戦略、技術戦略、研究開発戦略の分野のコンサルティングを行っている。2004年8月より京都大学産官学連携本部・産官学連携フェロー、2010年4月より青山学院大学大学院理工学研究科・非常勤講師(研究開発特論)を兼務。主な著書に『開発成長企業の戦略』(同友館)、『研究開発が企業を変える』(学文社)、『企業ビジョンの実現』(マネジメント社)。

R&Dビジネスリーダーの必要性とは 

世界経済の成熟化や中進国企業のコスト・リーダーシップ戦略の積極展開といった経営環境の中で、研究開発への期待が近年とみに高まっている。日本企業の多くは企業業績が厳しい時期においても、研究開発投資は大きく減額せず長期トレンドでは増額させてきた。しかしその一方で、研究開発の最大の成果となる新製品・新事業が投資額の割に生まれていない企業が多い。つまり、研究開発の生産性が伸び悩むか、あるいは低下傾向にある企業が大半を占めているのである。

研究者・技術者の大半は今や大学院の修士課程の卒業生である。彼・彼女らの根源的な思いは「独創的な研究をしたい」というものだろう。この根源的な思いは、研究者に欠かせない「セレンディピティ(serendipity:思わぬ発見をする特異な才能)」を発揮させる原動力となる。

しかし、研究者としての根源的な思いが組織全体として過度に優先されてしまうと、研究開発の生産性低下につながる。そのため、魅力的なアイデアやテーマの事業化のゴールを構想し、そのゴールに向けてリーダーシップを発揮して事業化につなげていく「R&Dビジネスリーダー」の育成が求められている。

R&Dビジネスリーダーに求められる能力

R&Dビジネスリーダーを育成するためには、研究者・技術者のキャリア・パスの一環としてR&Dビジネスリーダーを位置づけ、組織として計画的に養成していく必要がある。

一般にR&Dビジネスリーダー養成には、①選抜研修を実施したのちOJTを通じて育成していく方法と、②中堅研究者・技術者全員にビジネスリーダー基礎研修を行い、実践の中で次第に選抜していく方法の2つがある。どちらが正解ということはなく、企業の組織文化や経営環境を踏まえて選択すべきだろう。

R&Dビジネスリーダーに求められる主な能力は「①ビジョン・戦略構想力」、「②マーケティング力」および「③プロジェクト・リーダーシップ力」の3つに集約できる。この3つの能力をOJT、Off-JTの両方の場の中で高めていくことが求められている。以下では、その3つをどのように伸ばしていけばいいのかを紹介しよう。

①ビジョン・戦略構想力

R&Dビジネスリーダーに求められる第一の能力は、未来を受動的に受け容れるのではなく、自らの意思と能力で切り拓いていくための意識、知識、行動力である。未来を予測しつつ、現状を客観的に見つめた将来のビジョンをまず構想する。そして、ビジョンと現実(現状)のギャップを解消する重要な戦略課題を抽出し、それを解決していくためのシナリオ作成・計画立案の能力が重要だ。

しかし、実際は研究者・技術者が事業戦略や技術戦略、新事業戦略を策定するチャンスはあまりない。そのため意図的に戦略策定の場を設定する必要がある。経営企画と研究開発部門の幹部層がタスク・フォースをつくって戦略策定する、研究開発部門内の実践研修で部門内中堅リーダーが戦略仮説を策定し経営層や経営企画に提案するといった場づくりが必要となる。

②マーケティング力

研究者・技術者は、自らの専門技術や取り組むテーマの市場価値に対して概して鈍感である。その結果、価値の低いテーマ・プロジェクトが多くなり、大きな研究開発成果を生み出すことができなくなる。そのため研究者・技術者がマーケティング志向とそのノウハウを体得して行動することが重要となっている。

マクロの視点で市場の変化方向を分析・予測しつつ、ミクロの視点で個々の顧客研究や現場観察(商品が買われる場、使われる場等)を行う。その結果を踏まえた魅力的な新規テーマを創出し、テーマの企画完成度を高めていく。具体的には、マーケティング志向や思考面の強化については製品・市場展開シナリオの作成に焦点を当てる。また、マーケティング実践面の強化については顧客視点による新商品企画、商品と技術の仮想カタログ作成と検証による企画完成度向上活動、さらに事業化計画立案といった取り組みが効果的だ。研究者・技術者自らが顧客研究や現場観察を通じて、技術の市場価値を研究することが重要である。

③プロジェクト・リーダーシップ力

研究者・技術者は一人で対象となるテーマについて深く洞察することは得意であり好きでもある。しかし一方で、複数メンバーの意思や知恵を集大成していくことは不得手であり嫌いである。英語に“NIH;notinvented-here”(我々のところで考案したものではない、自分たちが考案したもの以外は認めない)という言葉があるが、研究者・技術者は自分の頭の中で論理と関連情報がシステムとして完結しないと気が済まない性質を持っている。

プロジェクト・リーダーシップ力の強化は研究者・技術者育成の大きな課題となっている。ただ、この能力開発も一筋縄ではいかない。ロジック・チャートやHOWロジック・ツリーを活用した課題解決等を実習する論理的思考方法の習得や積極的傾聴の実習などの手法論も一部有効だが、プロジェクト・リーダーシップ力の強化のメインはやはりOJTである。重要テーマ・プロジェクトの事業化リーダー役を完遂する、チームの革新計画立案を主導するといった実務でリーダーシップを発揮していくことが極めて重要である。

R&Dビジネスリーダー育成

R&Dビジネスリーダーは特定の階層や役職を指していない。むしろさまざまな階層やチームに事業化のリーダーシップを発揮する人材がいることが望ましい。図表1は筆者が考える階層ごとのR&Dビジネスリーダーの類型である。

【幹部層】技術経営を主導するCTO

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