J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年10月号

TOPIC-① 「脱!無縁職場シンポジウム~ひとりランチ社員が増えていませんか?~」レポート 職場の縁とは何か?無縁職場を脱するために必要なこと

去る7月28日、東京国際フォーラムにてFeelWorks主催による『脱!無縁職場~ひとりランチ社員が増えていませんか?~』と題するシンポジウムが開かれた。同シンポジウムは、コンサルタント会社をはじめ、企業の人材開発の第一線で活躍する人物を招いて職場の縁とは何か、必要なものなのかについて問い直すというものだ。若手社員、ミドルマネジャー、外資系企業と日本企業、そして時代の変化とともに現代の職場の縁はどのように変化しているのかについて考える4つの講演とパネルディスカッションの様子をレポートする。

■講演①
会社組織に疑心暗鬼になる若手社員のリアル
阿部淳 一郎氏
人財ストレスラボ 代表取締役
■講演②
会社の不条理現象とモチベーション変革の視点
松田 智生氏
三菱総合研究所 主任研究員 シニア・プロジェクトマネージャー
■講演③
日本企業と外資系企業の職場風土はどう違うのか
堀越 由紀氏
プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント
【パネルディスカッション】
組織の一体感はつくれるのか?つくるべきなのか?
■パネラー
松山 慎二氏
アルプス電気 管理本部 人事部 部長
小林 いづみ氏
マイクロソフト 人事本部 組織人財開発部 シニアPOCコンサルタント
松田 智生氏、堀越 由紀氏、
戸山 孝氏
■司会
前川 孝雄氏
FeelWorks 代表取締役

取材・文/高橋 美香、写真/本誌編集部

本シンポジウムは、主催者FeelWorks代表取締役前川孝雄氏による趣旨説明から始まった。

低迷し続ける景気、成果主義の導入、グローバル化の進展、雇用形態の多様化などにより、組織は個人に配慮する余裕をなくし、個人も組織に期待が持てなくなってきている状況にある。多くの人がそうした状況に問題意識を持ちながらも打開策を見出せない今、それぞれの立場から「個人の働きがいと企業・組織のあるべき姿」について真剣に考える必要があると前川氏は訴えた。

これを受け、本シンポジウムでは、組織の目的理解が薄れ、個々人が役割を果たし貢献できているかが自他ともに認識できなくなっている状態を「無縁職場」と命名。そして、どうしたらそれらの「縁」を回復することができるのかを、会社組織の実態に詳しいシンクタンク研究員、企業の人事、大学教員、人事コンサルタントを講師・パネラーとして招き、講演とパネルディスカッションを通して論じた。

■講演① 会社組織に疑心暗鬼になる若手社員のリアル

阿部氏は、特定の対策を講じるだけでは無縁職場を解決するのは困難と前置きしたうえで、2社のケースを例に若手社員のメンタルストレスの原因を探り、上司に求められる対応策を提言した。

①仕事ができる若手の失踪事件

メーカーに勤める入社4年目の男性社員が昼休み中に失踪。しばらくすると九州の警察から彼が自殺未遂をして保護されたという連絡が会社に入った。

②できる社員のメンタル不調

周囲から「彼女がいるから仕事がまわる」と信頼される若手女性社員が、突然「課長のおやじ臭がひどくて仕事に集中できない」と人事部に相談。

一見突如として起こった出来事に見えるが、阿部氏が面談したところ、①では職場で「助けて」といえない雰囲気が、②では業務指示だけして反応が無機質な課長が原因だったことが明らかになったという。つまり双方の事件ともに、コミュニケーション不足が起因していたのだ。

「コミュニケーションは、『情報』+『感情』のやり取りです。ただ、双方の事例とも『感情』への留意が欠けていた。人間は、他人から受け入れられたいという根源的な欲求を持っています。これが満たされないとストレスが溜まるだけで、自信もつかないし、誰かの役に立ちたいとも思えません」(阿部氏、以下同)

富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書2009』によると、若手社員に「日常業務において大切にしている“関わり先”」を尋ねたところ、高い割合で同じ部署のメンバー(上司62.9%・先輩56.6%・同僚56.8%・後輩40.1%)を選択したという。この調査から、職場のメンバーは、若手社員に大きな影響を与える人たちであることがわかる。また、同調査では、若手社員は職場のかかわりを通して業務支援:業務に必要な知識やスキルの提供・スムーズに進めるための取り計らい内省支援:自分自身を振り返るきっかけづくり精神的支援:仕事の息抜きや心の安らぎを与えてもらうなどを期待しているという。

「若手・中堅社員の成長感が高い企業の特徴を見ると、上司がメンバーの人間関係の維持に努めることで、若手社員が職場の仲間から支援を受けている実感を持てることがわかりました。上司が直接支援することができなくても職場内に相互学習を促す場や雰囲気があり、間接的に若手社員を支援する環境ができていれば、若手は成長実感を持てるのです。必然的にメンタルヘルスの問題も少なくなるのではないでしょうか」これらのまとめとして最後に阿部氏は、縁を感じる職場づくりのためには、•互いに仲間として受け入れてくれる風土が感じられる•成長実感、自分が存在する意味が感じられるという土壌が組織にあることが重要であるとした。そして「そうした実感を得られない時、若手は組織に対して疑心暗鬼になる」といい、本講演を締めくくった。

■講演② 会社の不条理現象とモチベーション変革の視点

10年前と比較すると2倍に膨れ上がったともいわれるミドルマネジャーの業務量。ミドルマネジャーを悩ませているのは、業務量の増加だけではない。

「シンクタンクでの仕事を通して最近強く感じているのが、データや論理が通用しない“不条理”が現実社会には山積しているという点です。たとえば、『あの件は、創業者案件だから手を出してはいけない』『あいつを男にするまでやるんだ』というようなものです」(松田氏、以下同)

松田氏は、こうした会社に潜む理不尽な事柄を、“不条理現象”と名づけ、11項目にまとめた(次ページ図表1)。そしてこれらの不条理現象は、ミドルマネジャーを悩ませモチベーションを低下させる要因になっていると指摘。

しかしこうした不条理によるモチベーション低下は、小さな気づきとちょっとしたルールで回避できるという。

改革のポイントは、全部で4つ。

①傍流・亜流・外圧の活用

人材の流動が少ない成熟産業では、他社から入社した人材の感覚をうまく活用することが重要。その場合、中途で入社した人は、前職の価値観を周囲に押し付けないように注意が必要。

②主語を自分に変える

不条理現象の1つである居酒屋弁士は、主語がどうしても他人になりがち。話の主語を自分にするというルールを決める。

③否定語を禁止する

否定的な話は、心を疲弊させる原因になる。また、Whyを繰り返し過ぎると、個人に原因を求めることになりかねないため、Howを意識して建設的な意見を出すようにする。

④深い話し合いを本音でする

飲み会といったインフォーマルな場でもいいので、表面的ではなく深い話を本音でできる職場は、無縁職場にはならない。

「高度なデータ分析ではなく、小さな気づきやルールだけで職場の雰囲気は変えることができます。要するに、一歩踏み出せるか踏み出せないかの違いが、無縁職場になるか否かの分かれ道なのです。今、日本企業は一歩踏み出せない症候群に陥っています。このシンポジウムに参加された皆さんには、ぜひ明日から一歩を踏み出して実行していただきたいと思います」

松田氏は最後に、こうした小さな行動でも職場を大きく変えられると呼びかけた。

■講演③日本企業と外資系企業の職場風土はどう違うのか

雇用制度をはじめ、さまざまな点で違いが見られる日本企業と外資系企業。両方の企業を比べると、職場の風土や縁にどのような違いが見られるのだろうか。

米国やヨーロッパなど海外での生活が長い堀越氏は、現代日本企業の社員像をイースター島の「モアイ像」にたとえた。

「一見似ているけど、実は多様で個性的な人たち。全員が無表情に同じ方向を向いており、動かない(転職しない)のが、日本企業のビジネスパーソンの特徴です。他方で、外資系企業の社員は、個人の思惑があり別々の方向を向いていることが多く、1つの企業にとどまることなく転職を繰り返します」(堀越氏、以下同)

こうした状況を学術的に表現すると外資系企業の雇用形態は「ジョブベース型」、日本企業の雇用形態は「メンバーシップ型」と分類できるという。ジョブベース型の社会では、①解雇が容易、②キャリアを自分で選択する、③転職市場が発達しているなどの特徴があり、メンバーシップ型の日本では、①解雇が困難、②会社が社員のキャリアを決定、③転職市場が未発達など、それぞれ相反する特徴を持っている。その中でも解雇が大きな違いだと堀越氏は話す。

「特に、会社が社員を解雇できるか、解雇できないかの違いが、キャリア形成の考え方や転職市場の発達具合に大きな影響を及ぼしています。目標管理制度(MBO)やインセンティブといった制度は、転職市場が発達した社会では、優秀な人材の確保や、引き止めに有効なルールです。しかし、そうしたルールを、解雇を前提としない日本企業に当てはめても有効に機能するとは思えません」

堀越氏は、欧米とは異なる法制度を持つ日本に、欧米のルールを持ち込んだ結果、①望まない仕事や目標を会社から一方的に強要され、②それで評価・処遇される、③他社で通用するキャリアを築けないまま仕方なく無表情に同じ会社にとどまり続ける、という現在の状況を生み出していると指摘。さらに、そうした状況が日本人の仕事へのモチベーションを著しく低下させ、社員を「モアイ化」させる原因になっているとも説明する。

「リーマンショック後、グローバルの価値観は、エリートからスマートに、クリエイティブからイノベーティブに変化しています。スマートなイノベーションには、チームワークが不可欠です。日本企業は、持ち味であるチームワークを活かす時期にきているのではないでしょうか」

昆虫のアリは、リーダーが不在でも、役割不明でも、仲間を思いやりながら働くことで巨大で複雑なコロニーをつくるという。アリのように仲間を気遣いながら仕事をして素晴らしい成果を上げることは、自己の利害で動き、自己主張の強い社員が多い外国企業では難しい、と堀越氏は語った。

「幸い、会社は個人ではなく集団で動く組織です。日本企業の皆さんには、ヒントも人材もそろっていると思います。皆さんが今、心で思っていることを実行すれば、無縁職場はなくなるはずです」

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