J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年10月号

ベンチャー列伝 第21回 スタッフの創造性を引き出し人が辞めない組織をつくる

レストラン事業を展開し、その独自のサービスと教育体制でも知られるHUGE。スタッフの長所を伸ばしながら専門職として育成する、“人が辞めない組織づくり”を行っている。

HUGE 代表取締役社長
新川 義弘(しんかわ・よしひろ)氏
1963年新潟県生まれ。1982年福島商業高校卒業後、新宿東京会館(現ダイナック)を経て、1984年に長谷川実業(現グローバルダイニング)入社、1988年取締役に就任。2005年、同社を退職してHUGEを設立。著書に、『愛されるサービスホスピタリティは50:50の関係から生まれる』(かんき出版/刊)、『愛される接客サービスの質を向上させる52のセオリー』(日経BP出版センター/刊)がある。
HUGE
2005年設立。オリジナルブランドのレストランを直営にて経営する。2004年、銀座に「DAZZLE」を、吉祥寺に「CAFE'RIGOLETTO」を出店'。「リゴレット」ブランドの店舗は現在7店舗の運営に至る。2009年には和食業態「新-ARATA-」を出店。今年9月には丸の内に新業態であるモダンメキシカーノ「Mucho」(ムーチョ)、10月には日本橋にスマートカジュアルダイニング「Dbrasserie&sweetroom」(ディブラッセリーアンドスウィートルーム)の出店が決定している。
従業員数:390名(正社員115名、2010年7月現在)
取材・構成/福田 敦之、写真/髙岡 隼人

アルバイトが辞めずにキャリアを実現する会社

徹底した実力主義の人材登用で知られるレストランチェーンのグローバルダイニングで“接客の神様”と呼ばれていたのが、現在HUGE代表取締役社長の新川義弘氏だ。

新川氏は前職在籍時に、実績主義の重要性や価値について十分に理解していたものの、果たしてそのやり方だけで質の高いサービスが実現できるのか、それを可能にするのは心の余裕や自主性なのではないかと考えるようになっていく。そして2005年、独立してHUGEを設立。その際に考えたことは、どうやったら人が辞めない会社にできるかということだった。

「飲食業界は、現場の離職率が高いことで知られています。マネジメントする側が、アルバイトのポジションを1つのコマとしてとらえているからです。しかし、現場にいる多くのアルバイトの人たちに頑張ってもらわなければ店は回りません。そう考えた時に、まずアルバイトが辞めない会社にしなければと思いました。彼らに長く就業してもらい、将来、独立や就職など、次にやりたいことを考えた時に、HUGEというグループの中でそのキャリアプランが実現できるのであれば、きっと辞めずに残ってくれると考えたのです」(新川氏、以下同)

経営理念を支える3つのバリュー

“人が辞めない組織”の基盤となるのが経営理念の「百年品質レストラン」である。この理念は、「ホスピタリティ」「クリエーション」「オペレーション」という3つのバリューに支えられている(次々ページ図表)。

サービス産業であるから、まずは「ホスピタリティ」が欠かせない。新川氏は常に「金曜日のディナータイムにできないことはやるな」といい続けている。つまり、忙しい日とそうでない日に、サービスの出来・不出来の差があってはいけないということである。

そしてそれができるかどうかは、「オペレーション」にかかっている。ここが不安定だと、満足なサービスができないどころか、スタッフが主体性を発揮できず、サービス業として大きなリスクを抱えることになる。だからこそ新川氏は「オペレーション」を、経営理念を支える柱の1つとして位置付けているのだ。

さらに新川氏は、店舗は個人の創造力を最大限に活かしていく場所であるべきだと考え、「クリエーション」を3本目の柱と位置付けている。新川氏は、組織をやみくもに大きくしていこうとは考えていない。1つひとつの店舗を、その地域の顧客に愛着を持ってもらえる「街の資産」にしたいと考えている。店長には、個人商店の主のように創造力を持ち運営することが求められているのだ。

これを実現する各店の店長やチーフにとって一番重要なのは、その地域に興味があるかどうかだ。「まずは3年間、その地域に馴染んでこい」が、新川氏がスタッフを送り出す際の言葉である。

東京・丸の内の新丸ビルに「リゴレットワインアンドバー」という店がある。オープンして3年が過ぎ、その間店長は、丸の内という街で彼なりに気づいたことをヒントに、サービス内容やメニューを次々と変革していった。それらが街に馴染み、愛されていった結果、3年目の今、同社の店舗の中で売り上げが最も良いという。離職率もこれまでで一番低くなった。

それぞれの街の空気を取り込み、年月を重ねるごとに味わいが増す店づくりをめざしていく。まさに経営理念である「百年品質レストラン」の姿が、ここに示されている。

サービスの価値を高めるトライアングル

そして、図表の中で経営理念を支える3つの柱と重なるように描かれているのが、サービスを実現するトライアングル。

「オペレーション」はここでもすべてのサービスの大前提となっている。サービスを受ける側の要求の8割以上は、期待通りの良い笑顔で、期待通りの食べたいものが提供され、会計に間違いがないことに尽きる。これは特別なサービスではなく及第点。このための仕組みがオペレーションであり、会社としての存続をかけてオペレーションを高めていかなくてはならない。

そして、及第点からより高い点数を獲得するためには、顧客の名前や嗜好を覚えたりする「リコグニション(顧客認知力)」、そして、顧客の行動を予測する「アンティシペーション(事前予知力)」のスキルが必要であるというのが新川氏の考え。まずはスタッフが落ち着いて、安定したオペレーションを回すという前提が成立して初めて、アンティシペーションやリコグニションが、「予想していたよりいいお店だった」という感想を生み出す付加価値として効いてくるのだ。

店長に権限委譲し現場の主体性を促す

オペレーションを着実に回すうえで、現場を司る店長の役割は大きい。店長には経営責任者として、権限委譲が徹底されている。

たとえば店長は、売り上げとコストの計算から、社員とアルバイトの構成、早番・遅番などの編成まで、店づくりと運営に関するすべてを考え、実行していく。本部はあくまでサポート役だ。また、月に1回開く経営会議でメニューを検討する際にも、新川氏はオブザーバーとして参加するが、メニューの決定権はなく、すべては店長やチーフが決めることになっている。

「現場がいい、やりたいと思ったことを実行してもらえるよう工夫しています。クリエイティビティは、主体性を発揮して従事する仕事でこそ生まれるからです」

トップダウンではなく、現場が主体的に動ける組織とするために、新川氏は、「なぜ?」と問うことを常としている。日報を使った店舗とのコミュニケーションもその一例だ。日報には、当日の出来事をはじめ、売り上げやランチタイムの店の状況などが書かれており、毎日各店舗から新川氏のところにメールで届くことになっている。

先日、こんな事件が起きた。その店では、2時間半の時間制限を設けている。本来は、30分前にラストオーダーを聞くという内規があるが、ある女性スタッフが45分前に「そろそろラストオーダーなのですが……」といってしまった。彼女がそういった瞬間、その顧客は「何度もこの店に通っているのに、45分前に帰って欲しいとはどういうことなの!」と怒って帰ってしまったのだ。

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