J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年12月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 創造開発力もグローバル人材も 源泉は「心の才能」

かつて困難とされていた機械の直線運動部の「ころがり化」。それを実現したのが、工作機械や半導体製造装置等々に使われているTHKの「LMガイド」だ。これは、回転運動部のころがり化を実現した回転ベアリング以来の技術革新だった。それから40年。グローバル時代を生き抜くにあたり新たな技術革新、人材づくりに迫られる同社。さらなる成長のヒントについて、寺町社長に伺った。

THK 代表取締役社長
寺町 彰博(Akihiro Teramachi)氏
生年月日 1951年4月5日
出身校 慶應義塾大学 商学部
主な経歴
1975年10月 大隈鐵工所退社
1975年10月 THK入社
1977年4月 甲府工場長に就任
1982年3月 取締役業務部長に就任
1987年6月 常務取締役管理本部長に就任
1994年6月 取締役副社長に就任
1997年1月 代表取締役社長に就任(現)
1997年~  THK Holdings of America, L.L.C.、THK Europe B.V.、THK (中国) 投資有限公司など各国グループ企業の会長、董事長に就任
現在に至る

THK
1971(昭和46)年設立。LMガイド、ボールスプラインなどの機械要素部品の開発・製造・販売を行う。その他、メカトロ関連製品各種、自動車部品、戸建住宅から高層ビルまで対応可能なTHK免震システムの開発・製造・販売も。
資本金:346億600万円、連結売上高:1906億円、連結従業員数:8025名(全て2011年3月31日現在)

インタビュアー/西川 敦子 写真/太田 亨

クリエイティビティは「場」を与えて発掘する

――メカトロニクス産業に不可欠な部品、「LMガイド」を世界に先駆けて開発した貴社の最大の強みは「創造開発」だと伺っています。強みを伸ばしていくために必要なこととはどんなことでしょうか。

寺町

創造開発型企業であるためには、絶え間ない努力が不可欠です。当社は高度経済成長期に“機械の直線運動部のころがり化”という画期的な技術を生み出すことに成功し、1972年にその技術を世界で初めて「LMガイド」として製品化しています。さらに1996年、従来製品よりも飛躍的に性能を向上させた「ボールリテーナ入りLMガイド」も開発しました。当社は、「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」を経営理念としており、常に新しいものを生み出し、社会を豊かにしていくことが私どもの使命です。ただし、苦心して生み出したものも、時が経てば陳腐化します。どれほど優秀な技術であろうと、永遠にぶら下がっていることはできません。1つのノウハウを大事に取っておくのではなく、どんどん活用分野を広げていく努力が重要です。

――製品の開発だけでなく、市場の開拓も進めていかなくては、ということですね。

寺町

その通りです。機械の回転部分を支える機構、回転ベアリングの歴史を見ても同様です。ベアリングはもともと糸を高速で巻く機械に使われていたのですが、その後、その他の産業機械部品にも転用されるようになり、自動車をはじめあらゆる機械に組み込まれるようになりました。当社の製品も、新しい発想でさらに用途の幅を広げてゆきたいです。

――創造開発に欠かせないのがクリエイティブ人材ですが、どのように育成されているのでしょうか。

寺町

残念ながら、クリエイティビティは座学で生み出せるものではありません。重要なのは、天賦の才を持つ人材をいかに発掘するか、ということだと思います。人それぞれ特性があります。何かを生み出すのが上手な人と、生み出されたものを定着させていくことが得意な人とがいる。どちらも良い特性なのですが、その違いをどう見極めるかがカギだと思います。後者はいわゆる真面目な人が多く、いろいろなチャンスを与えられやすい。ところがクリエイティブな人というのは、一風変わっていることが多く、日本の組織では浮いてしまいがちです。結局、日の目を見ずに終わってしまう人が少なくありません。ですから企業は個々人が自分の能力を発揮できる「場」を、広く与えなければいけない。そうやって才能に光を当てていくことが重要ではないでしょうか。

「頭」の中の開発では市場を動かせない

――「場」を与えることで才能は発掘できる、伸ばせる、と。

寺町

これは、クリエイティブ人材だけにいえることではありません。「場」を与えることで、結果的に、それ以外の人々の才能、個性も磨くことができ、適材適所の人員配置もできるようになるのです。悔しいけれど、何でもできる理想の人材というのは、いくら探し回ったところで、現実には存在しないんですね(笑)。個々人の持っている能力をいかにうまく引き出すか、ということだと思います。それにはやはり「場」を与えることです。ただ、その場の与え方というのが難しい。開発者には開発の舞台だけを与えればいいかというとそうではない。頭の中だけでは、本当の創造開発はできないんですね。先代の社長――私の親父ですが、よくこんなことをいっていました。個別のお客様の要望に耳を傾けることは重要だが、一つひとつ応えているだけではダメで、皆様の声から世の中全体のニーズを汲み取っていかなければならないと。つまり、途中まではマーケットインでも、あるところから先はプロダクトアウトの発想で、自ら市場をつくっていけるようでなくてはいけない。しかし、そこまで行くためには、まず一人ひとりのお客様と向き合うことから始めなくてはなりません。頭の中だけで新たな市場をつくり出すことなど不可能です。そこで当社では、開発畑の社員にも直接お客様と接する機会をたびたび持たせるようにしています。さらには従来の開発部門とは別に、開発案件に応じたプロジェクトチームを編成しました。そのチームメンバーは、自らお客様のところへ赴いてご要望をお聞きし、それに基づいて絵を描き、試作品を自ら試験し――といった具合に、幅広い業務範囲をこなします。最終的にはプライシング(価格設定)まで行う場合もありますよ。プライシングというのは、市場を熟知していなければできないこと。ここまでやれて、初めて世の中を動かせるものづくりができるのだと思います。開発担当だからただ頭だけ使っていればいい、という姿勢では到底無理ですね。今後は、従来の開発部門も改革し、体験の幅を広げられる環境整備を進めたいと考えています。当社は部品メーカーということもあり、開発部門は垂直統合型の組織編成を行ってきており、それをさらに進化させていきたいと考えています。

――開発、生産、販売といった部門の枠を超える「P25プロジェクト」も進めておられます。

寺町

P25プロジェクトは、主管部門が抱える課題を調査し、解決、改善に向けて部門横断的に取り組むプロジェクトです。限界利益率の向上や固定費の効率化を図ることで、損益分岐点売上高の引き下げを目的としています。また、これを切り口に会社全体の仕組みに変化が起き、全体にクロスファンクショナルな流れができました。とはいえ、仕組みというものはつくったとたん形骸化しがちです。プロジェクトの委員長は私ですので、形骸化を食い止めるべく、普段からいろいろと注文をつけるようにしています。

「親父」の背中に学んだ夢のための今日の生き方

――では、個人はどのように自分を成長させていけばいいでしょうか。

寺町

常に学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です。人はいくつになっても学べますし、自らお手本を見つけ、成長することができます。私の最初のお手本はやはり先代の社長ですね。岐阜の片田舎の出身で、9人兄弟でも末のほうでした。若い頃から“財界総理”をめざそうと、高等工業学校で学んだそうです。戦時中のことでしたから、技術者は引く手あまただったのですが、「いずれ起業するためには大企業よりも中堅企業のほうが幅広く経験できる」と考え下請けのベアリング製造会社へ入社。戦後、一所懸命お金を貯め、少し資本ができたところで、昭和23年に退職、会社を興します。ところが、運営資金が潤沢にあったわけではありませんから、ともかく日銭を稼がなければいけない。どうしたかというと、商社の販売代行のようなことをしたんです。あちこちの商社の倉庫をつぶさに見て回りましてね。どこにどんなものがあるか記憶したうえで、お客様のところへ行き、仕入れ希望を聞いては、どこそこの商社にあったなと、記憶をもとに手配するわけです。後年、当時先代とお付き合いいただいていた商社の方から「うちの社員より、うちの倉庫のどこに何があるかよく知っていた」とお聞きしたことがあります。

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