J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2012年02月号

連載 酒井穣のちょっぴり経営学 第13回 人的資源管理①人事制度とは何か

前回は、企業のイノベーションを守る知的財産権の中の1つ、「特許」について述べた。今回からは、「人的資源管理」を取り上げる。読者にとっては釈迦に説法になってしまうが、人的資源管理はMBA、経営学においても重要なポイントであるため、改めて取り上げておきたい。中でも今回は「人事制度」についてである。

酒井 穣(さかい・じょう)氏
フリービット取締役(人事担当/長期戦略リサーチ担当)。慶應義塾大学理工学部卒。TiasNimbasビジネススクールMBA首席。商社勤務の後、オランダの精密械メーカーに転職。2006年にオランダでITベンチャーを創業しCFO就任。2009年4月に帰国し現職。近著に『これからの思考の教科書』(ビジネス社)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社)がある。人材育成メルマガ『人材育成を考える』(無料)を毎週発行している。
http://www.mag2.com/m/0001127971.html

人事制度にはさまざまな考え方があり、そのうちどれが正しくて、どれが間違っているかといった議論は不毛です。世界は変化し、企業はそれぞれ異なったビジネス環境で戦っているわけですから、一義的に「あるべき人事制度」といったものが定義できるはずもありません。当たり前ですが、最適な人事制度は、状況によって異なるのです。

とはいえ、人事制度を考える時の軸のようなものはいくつか存在します。ここでは、そうした軸について考えてみたいと思います。

人事制度の立ち位置

全ての企業は、企業理念の実現のために存在しており、企業理念とは、そこに集う人の価値観の集合体です。もちろん、利益を生み出し、従業員の生活費を捻出していくことも重要ですが、利益は結果であって、目的ではありません。

企業理念を実現するという目的のために、企業は「ヒト、モノ、カネ」という経営リソースを手段として活用していきます。中でもモノとカネはヒトに使われる、ヒトよりも下位にあるリソースです。そうであるなら、企業理念の実現にとって最も重要な「ヒトに関する基本的な考え方」を整える必要があるでしょう。

そして、企業理念を実現するための最重要の手段が人事理念、この人事理念を実現するためのものが「人事制度」というわけです。ですから、企業理念や人事理念が存在しないところに、優れた人事制度が生まれることもありません。

人事制度がないと困ることとは

持論を翻すようですが、企業理念を実現するために、人事制度があるというのは本当でしょうか?

ストレステストとして「人事制度がないと困ること」を考えてみましょう。人事制度がなかったら、まず企業理念の実現に求められる人材像が明確になりませんね。個々の人材の役割や目標もわかりません。支払うべき賃金や、昇進・昇格の条件もわかりません。こうした状況では、従業員がバラバラな意見を持ち始め、評価や賃金を巡って、個別交渉が頻発することになるでしょう。人事制度がないということは、ヒトに関するコミュニケーションのルールが存在しないということなのです。

小さな組織では、個別交渉への対応も可能かもしれません。しかし、企業がある程度の規模になれば(10名以上が目安ともいわれる)、頻発する個別交渉は、業務効率を著しく阻害します。結果として企業理念の実現も危なくなるでしょう。

繰り返しますが、人事制度とはヒトに関するコミュニケーションのルールです。ヒトに関するコミュニケーションは、モノやカネに関するコミュニケーションと異なり、多くの場面で利害が対立する政治的なものだからこそ、特別に共通認識としてルールを定める必要があるのです。

4つのシンプルな要素が人事制度を決める

人事制度を理解し、要素を考える時には、企業活動において、ヒトに関するコミュニケーションの発生頻度が多いところに注目すればよいでしょう。そこに共通ルールを設定することで、コミュニケーションを効率的に進めることが可能になるからです。

この要素としてはさまざまな考えがあるのですが、そうした中でも僕は、武内崇夫先生(産労総合研究所附属 日本賃金研究センター 主任アドバイザー)のモデルが気にいっています。以下、武内先生のモデルを、僕なりに解釈・拡張したものを取り上げます(図表1)。

このモデルの要素は、「仕事内容」「人材能力」「処遇」「評価」の4つだけです。実際に、ヒトに関するコミュニケーションは、主にこの4つのポイントで発生していることをイメージしながら考えてみてください。

①仕事内容:特定のポジションに求められる仕事の具体的な内容が、特に難易度と付加価値という2軸でコミュニケーションされる時のルール(昨今の成果主義において重要視される部分)

②人材能力:特定のポジションに求められる仕事を完遂するために必要となる人材の能力について、特にスキルとモチベーションという2軸でコミュニケーションされる時のルール(旧来の日本型人事制度で重要視された部分)

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:1,455文字

/

全文:2,909文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!