J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2012年04月号

Opinion② 社会が変わり、学びが変わるソーシャルメディアの情報革命

さまざまなモバイルツールやソーシャルメディアが登場している現在。情報技術を利用した学習環境のデザインに関する専門家で、産学協同のプログラムに多数かかわる東京大学情報学環の山内祐平准教授は、これらのツールを用いたソーシャルラーニングによって、自律的かつ持続的な学びが可能になるという。ソーシャルラーニングによる“学び”と学習環境のデザインについて聞いた。

山内 祐平(やまうち・ゆうへい)氏
愛媛県生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程中退。2000年より大阪大学助手、茨城大学講師、助教授を経て、現在は東京大学大学院情報学環准教授。専門は、情報技術を利用した学習環境のデザインおよび情報やメディアのリテラシーに関する研究。著書に『デジタル教材の教育学』(東京大学出版会/刊)、『学びの空間が大学を変える』(ボイックス/刊)他。

[取材・文・写真] = 石原野恵

従来のネットワークと何が違うのか

現在、インターネットの急速な発展により、さまざまなソーシャルメディアのツールが登場し、新しい学習の形が生まれつつある。

ただし、電子掲示板やメーリングリスト、グループウェアといったオンラインで情報共有するツールは、すでに1990年代から企業で活用されてきた。これらの電子ネットワークと、現在のソーシャルメディアの大きな違いは、“開放性”にある。

従来のツールは、企業内の閉じられた空間の中で用いられるものだった。一方ソーシャルメディアはオープンなプラットフォームであり、企業の外側と社員がつながって学習することが可能になる。この開放性をどのように学習に活かすかということが、ソーシャルラーニングにおける最大のポイントといえるだろう。

では、ソーシャルラーニングにおける“学び”とは何か。多様な形があるため一概にはいえないが、1つは知識を得る“学び”だ。業界情報や問題解決方法、研究結果などを知ることがそれに当たる。

しかしより重要なのは、自分とは異なる領域の人から、問題に対峙する際のパースペクティブ(観点、物事の見方)を得る“学び”である。

他者のパースペクティブは、自分と違う場合も同じ場合もある。自分と異なれば、イノベーションにつながる学びが得られる。反対にパースペクティブが自分と同じ場合は、対話が生まれ、より細かい情報を交換することで知識が得られる。いずれにせよ、開放的な空間で自分とは異なる領域に属する人に出会い、学び取っていくことがポイントなのである。具体的な学習例を紹介したい。

半開放型のネットワークにおける学習

私は、ベネッセコーポレーションと共同でBEAT(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育講座)という、モバイルメディアの教育利用について研究するプロジェクトを推進している。2010年からは、高校生と大学生・社会人をソーシャルメディアでつなぎ、キャリア学習を支援する「Socla(ソクラ:ソーシャルラーニングプログラム)」を実施してきた。2011年のプログラムの概要は図表1の通りである。

このプログラムではFacebookを利用した。高校生が書き込む内容を全て公開することに対し、学校や保護者は抵抗があるが、Facebookであれば、「会議室」という機能を使って、特定のメンバーだけが書き込み・閲覧するように設定できる。

ただし、クローズなネットワークの中だけでやり取りするのであれば1990年代のITツールによる情報共有と変わらない。重要なのは、ここに何らかの形で開放性を加えることだ。そこでSoclaでは、Facebookでの公開設定機能とTwitterを併用して「公開質問」を設け、広く一般から意見やアイデアを収集できるようにした(図表2)。

参加者の1人、Aさんの例を見てみよう。Aさんは歯科医をめざしているが、歯科医の数は非常に多いため、ユニークな歯科医になりたいと留学を希望していた。しかし、一般の大学案内等には医療系大学における留学の情報は掲載されていない。また、プロジェクトスタッフの中にも医療系の情報に詳しい者はいなかった。そこで「公開質問」で医療系大学における留学の是非を問いかけると、経験者である社会人から「学生時代に留学しても医療行為ができず、キャリアとしてのメリットは少ない」「留学する年次によっては現場実習も可能」など、賛成・反対両方の情報が集まった。

それによりAさんは、留学するタイミングやプログラムにより得られるものが違うということや、将来のビジョンを持って、その目的に合った留学が必要だという結論に至る。事後インタビューでも、ソーシャルメディアを使ったことで自らの問いが深まった、学習プロセスが可視化されることで仲間同士と親密な関係ができた、などと回答している。「公開質問」によって得られた回答は、経験者ならではの情報である。こうした情報は、クローズドのコミュニティでは得られない。まさに、オープンなネットワークにおける情報の流通から新しい気づきがあり、学びが生まれたのである。

このように、クローズとオープンな学習空間を組み合わせ、半開放型のネットワークを構築することが、ソーシャルメディアによる学びの仕掛けづくりとして重要だといえる。

学習機会を増大させるソーシャルネットワーク

こうした仕掛けは何も難しいことではない。Soclaのシステムも非常にシンプルで、無料のソーシャルプラットフォームであるFacebookを用いて、クローズ・オープン両方の学習空間を設けただけ。ただし重要なのは、両方に異質性があることだ。

当然ながら、オープンな空間はさまざまな人がアクセス可能で、いろいろな意見がもらえる。さらにSoclaの場合、クローズな空間でも、高校生と社会人という、普通はつながらないネットワークをつなげるということを我々が意図的に行った。こうした仕掛けが、学習環境のデザインということである。

Soclaシステムは企業でも応用できるだろう。たとえば通常業務ではつながりがない部署同士や、他社や大学といった他組織などをつなぐ仕掛けができれば、自ずと新しい動きが生まれてくるはずだ。

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,193文字

/

全文:4,386文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!