J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年01月号

KEYWORD7 日本のおもてなし 普通の人々が持つ仕事への誇りこそ 世界に通用する日本の魅力

外国の人々を惹きつけるサービスを育てていくうえで大きな力となるものは、私たち一人ひとりに宿っている「察する」力やプロであろうとする姿勢。永らくサービスの世界に身を置いてきた里岡美津奈さんが、日本のおもてなしの魅力と可能性を語る。

里岡 美津奈(さとおか みつな)氏 元ANA VIP特別機担当CA/Japan Quest Journeys 取締役
24年間ANA国内線、国際線のチーフパーサーとして、またその内15年間は各国の国家元首のVIP特別機を担当。2010年にANAを退職。人財育成コンサルタントとして活躍する傍ら、米国法人旅行コンサルタント会社“Japan Quest Journeys”の取締役に就任。現在に至る。著書に『「また会いたい!」と言われる女の気くばりのルール』(明日香出版社)など。






[取材・文] = 道添 進 [写真提供] = 里岡 美津奈

日本人が気づいていない日本の良さ

ANAのキャビンアテンダントとして、世界の要人が乗るVIP 特別機を15 年間担当し、その後、旅行コンサルタントとして海外からのVIPをお世話してきた。その経験から、日本のサービスは必ず世界に通用するという確信を持つようになった。

私たち一人ひとりが生来持つ資質を上手に活用していけば、日本のサービスは国際競争力のあるビジネスとなって将来に資することができるだろう。

海外のお客さまを楽しく、快適にしてくれるものは、一流旅館や高級リゾートはもちろんのこと、日本の至るところに溢れている。送迎車の運転手を例に挙げるなら、所定の場所と日時にぴったりと車を着けてくれることにいたく感激される。あるいは新幹線をはじめ電車を利用した際の定時運行にも驚かれる。車掌、窓口の係員の礼儀正しさについても然りだ。

また、意外だったのは、デパートの地下食品売り場だ。海外観光客にとってそこはワンダーランドと呼ぶにふさわしい。魅力的な陳列、一つひとつの商品のパッケージと彩りの良さ、そして何より売り子さんの笑顔と、気が利く応対。しかも試食までさせてくれ、買わなくても「ありがとう」と声をかけてくれる。それは普通の旅行客だけでなく、一流レストランで会食する機会の多いVIPにとっても例外ではない。彼らは夕方のデパ地下巡りを楽しみにしているのだ。

こうした魅力は、ありふれた場所、ごく普通の日本人の中に宿っている。気持ちのこもった挨拶、テキパキとした応対、そしてちょっとした心遣い。私たちにとっては至極当たり前のきちんとした仕事ぶりが、海外の人々に強くアピールするのである。

決定的に違う日本人のもてなしと外国人のサービス

日本のファーストフード店が、海外の同じチェーンよりも清潔で、感じが良く、スピーディーなのは誰しも経験するところだ。こうした例に限らず、日本ではどんな人も自分の仕事を精一杯きちんとこなし、決して投げやりな態度で周囲と接したりなどはしない。海外に比べ、働いている人々の意識が絶対的に違う。

それは私たち一人ひとりが、自らの仕事に誇りを持っているからではないだろうか。業種や階層を問わず、それぞれの立場で精一杯プロフェッショナルであろうとしている。一般の人々のレベルが非常に高いこと、それが日本の特徴であり、海外の人を魅了する特質となっている。

このような接し方ができるのは、心を配ることで心地良い空間や時間を、そして好ましい体験を届けたいという文化が息づいているから。

そしてそれができるのは、「察する」力があるから。「察する」とは、相手が言葉にする前にこちらから行動すること。あるいはいわれたことだけでなく、先回りをして応えること。そして相手の立場に立ち、言葉の背後にある真意を汲み取って、半歩先のことをして差し上げることだ。日本ではそこまでやって初めて気が利くといわれる。私たちは子どもの頃から、こうして察する能力を磨いてきた。それが日本のおもてなしの魅力につながっている。

もちろん、外国でも家族や親しい人に対しては、そのような心遣いはするものだ。しかし、仕事や公の場ではそこまではやらないし、やる必要はない。だが、外国から人々が日本にやって来て、きっちり、痒いところに手が届く応対をしてもらうと、それを彼・彼女らは心地良い体験として味わうのである。

また、おもてなしなら西洋でもあるではないかと指摘される方もいるだろう。たとえば海外の一流ホテルなどで、恋人にプロポーズする男性のために海辺にテーブルや花束を用意するといったエピソードはよく聞く。そうしたサプライズは西洋の人々のお手のものだ。

だが、そこには決定的な違いがある。西洋の人々にとって、こうしたサービスは、お金が介在したうえでの演出だ。「やりました感」を出して、いくらの世界なのである。

一方、日本人にとってサービスとは、元来、無償のものだ。商品を買う行為も感じが良かったかどうかも含めて成立する体験であり、受ける側も与える側も「サービスはプラスアルファ」という意識を持っている。なぜ、そんな奇特なことができるかというと、「接遇」という気持ちを多かれ少なかれ私たちが抱いているからだと思っている。

一般によくいわれる「接客」とは、その字が示すようにお客さまという明らかな対象がいて、その人に対してサービスをすることだ。一方、「接遇」とは、直接的か間接的かを問わず、自分と接点のある世の中の全ての人への感謝を込めて仕事に臨む姿勢である。日本人の行動の根底には「接遇」があり、これが素晴らしいおもてなしの源泉となっている。

スマイルはゼロ円である必要はない

これまで日本人はそこにお金が発生しようとしまいと相手に喜んでほしい、日本に来て良かったと思っていただきたいという気持ちで海外からの人々をもてなしてきた。それが世界に誇れる資質であることは疑いの余地はない。

しかし、これからはさらに一歩進めて、本当の意味での国際競争力の源泉として位置づけることが求められるだろう。

経済産業省は近年、サービス人材の育成に力を入れ、経済の成長エンジンの一つに掲げている。日本はサービスも含めて国際競争力をつけていく時代へ踏み出そうとしているのだ。したがってサービスがお金を生み出すように、認識を変えていく必要があるだろう。

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