J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年03月号

連載 インストラクショナルデザイナーがゆく 第69回 ジャパンリスク in チャイナを 阻止する手立ては?


寺田 佳子氏(てらだ・よしこ)
ジェイ・キャスト執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラー
ニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、eLP(eラー
ニングプロフェッショナル)研修委員会委員長、熊本大学大学院教授シ
ステム学講師、JICA–NET ID Seminar講師、ASTD(米国人材開発機構)
会員。著書に『学ぶ気・やる気を育てる技術』(日本能率協会マネジメント
センター)など。http://instructionaldesign.blog97.fc2.com/

ファッションデザイナーであり、アパレル・メーカーの社長であり、都内3か所のブティックとカフェの経営者でもあり、さらに元気いっぱいの高一男子の母でもあるIさんが、近ごろ浮かない顔をしている。珍しいことだ。

Iさんが、中国から日本に来たのは1990 年のこと。ハルピンの裕福な家庭で育ち、カナダの大学を出たばかりの「世間知らずのフツーの女の子」だったが、留学先で知り合った日本人の友人に誘われ、「アジアでイチバン豊かで、イチバンおしゃれな国にちょっと遊びに~♪」と観光気分で来日した。

当時の日本はバブルの絶頂期。デザインも品質も中国とは比べものにならないゴージャスなメイドインジャパンが溢れていて、道行く女性をうっとり眺め、銀座通りのショーウインドーを覗くだけでも、一日退屈しなかったほどだ。

百貨店の開店時には店員が揃って最敬礼し、有名な歌手が「お客様は神様です!」と叫ぶ様子にびっくり仰天。「資本主義のサービスとはこういうものか!」と感動した旅の後は、すぐに中国の日常に戻るはずだったが、数週間の『東京の休日』が、海外でデザインを学んだ彼女のアーチストとしての情熱と起業家としての野心に火を着けたらしい。

日本語を習得して再来日した後は、アパレル・メーカーのデザイナー⇒ブランドの立ち上げ⇒日本人実業家と結婚⇒中国に縫製工場建設⇒出産⇒直営店オープン、と充実した20 年を過ごしてきた。

その、いかにも大陸的な大らかさと度胸を合わせ持つ彼女が、こんなにヘコんでいるのを見るのは初めてのことである。「チャイナリスクの影響か?」とハラハラして聞くと、なんと意気消沈の原因は「ジャパンリスク」なのだという。

“同じ釜の飯”が食えない

彼女の悩みはこういうことだ。

メイドインチャイナといえば、「安く速いがクオリティはイマイチ」の代名詞であったのはひと昔前のこと。中国の工場では、日本人のマネジャーとデザイナーの指導のもとで、現地採用のスタッフが生産技術を磨いてきた。近頃はプロパーの幹部候補生も成長し、品質・デザインともにメイドインジャパンに見劣りしない。いや市場のニーズを取り入れるスピードを考慮に入れると、今やメイドインチャイナが市場を席巻している。

しかし、自分がそうだったように、グローバルに人材を採用したいと考えるIさんは、現地の人材だけで工場が回るようになっても、敢えて日本人スタッフを送り込んできた。一緒に仕事をすることで、互いの良いところを吸収して組織の強みとする文化が育まれるし、「日本では、同じ釜の飯を食った仲っていうでしょ? これからますます厳しくなるグローバルな競争では、個人的な信頼関係が企業を支える大事な絆になると思うの」

几帳面で、丁寧で、高い技術を持つ日本人スタッフは、優れた人材として引く手あまただったが、最近、「人材は中国で採用したい」と断られることがあるという。

不審に思ったIさんが、中国人スタッフに聞くと、「現地採用のほうが生産性も品質も売上も上がるから」だという。

これって、人材のジャパンリスクじゃないの!

びっくりする私に、「いつかこうなるような気がしていた」とIさん。

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