J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年03月号

CASE.1 光文社「VERY」編集部 イノベーティブな現場とは 読者とブリジストンとのコラボ:イノベーションは「間」で生まれる

2011年6月の発売以来大ヒットとなっている新型電動アシスト自転車「HYDEE.B」(ハイディ・ビー)。女性誌「VERY」とブリヂストンサイクルという異業種コラボの成果だ。仕掛け人は、「VERY」編集長の今尾朝子氏。編集長就任直後から本誌売り上げアップを実現した今尾氏の普段の仕事から、コラボの裏側を聞き、イノベーターの素質を考える。

今尾朝子月刊「VERY」編集長

VERY
光文社が発刊する月刊誌。1995年6月創刊。毎月約35万部発行。編集部11名。ハンサムマザーのための女性誌。キャッチコピーは2008年5月号から「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」

[取材]=石井宏司 [取材・文]=西川敦子 [写真提供]=月刊「VERY」編集部

背中で見せる編集長

「 『VERY』編集長になれ、といわれた瞬間は頭が真っ白になりました」気恥ずかしそうに語る表情にも、控えめな口調にも、辣腕編集長のイメージはない。今尾朝子氏、2007年9月から『VERY』編集長を務めている。“雑誌愛”に目覚めたのは10 代の頃。ファッション誌に夢中になり、発売日のたび書店へ走った。大学卒業後はライターとして『CLASSY.』で活躍。経験を積むうちにライターよりも、編集業がやってみたいと思うようになり、光文社に入社。『VERY』編集部に編集者として配属された。配属まもなく『ANEVERY(別冊ヴェリィ)』を創刊し成功させるなど目覚ましい実績を上げた彼女は、『STORY』創刊メンバーとして抜擢される。

創刊からの5年間は、充実そのもの。誌名からコンセプト、使う紙に至るまで中心メンバーとして考え、頭の中は読者層である40 代女性のことばかり。そんな時、『VERY』編集長という突然の辞令がおりたのだ。「まさか自分が指名されるとは。編集長の器じゃない、と思っていましたし、『STORY』が大好きでした」。困惑する彼女に上司は告げた。「仕事ぶりを部下に見せろ」。今尾氏も、「私はぐいぐい引っ張るタイプではないので、仕事でわかってもらうしかないと思っていました」と語る。

その言葉通り、最初の半年間は巻頭特集を自ら担当した。当時は、「多忙過ぎて記憶がない」、と笑うが、編集長業務をこなしたうえで、企画や取材、編集作業をこなすのは並大抵ではできない。「 死にもの狂いで特集をつくっていくうちに、みんなも私もお互いのことがわかってきます。この企画は絶対○○さんが得意だから彼女に振ろう、といった具合に、適材適所なキャスティングができるようになっていきました」

読者に会って会って会う!

部員の気持ちをつかむのにそう時間はかからなかった。編集長交代に伴い、大胆に刷新した2007年12月号。表紙に踊る特集見出しは、『カッコイイ“お母さん”は止まらない!』。リニューアル第1号は予想以上の売れ行きだった。そして、2008年5月号、表紙に『基盤がある女性は、強く、優しく、美しい』をキャッチに据える。このメッセージが読者の共感を得て、売り上げ部数は前年の130%アップを達成。新しい読者を獲得できた!と、部員たちの今尾氏に対する信頼も厚くなった。

この成功は、読者層の気持ちをあらゆる手段で理解しようと努めたから。ライター陣は、おしゃれな現役主婦で固め、自身は通勤ルートを変えて幼稚園の前を通ってママたちの様子を日々観察。ファッションリーダー的主婦にヒアリングを重ねた。

実はこれが光文社のDNAでもある。今尾氏も、「スカートをはいているからって、女の気持ちがわかると思うな」といわれて育った。「聞かなければ何も始まらない」というのは一貫した彼女のポリシーとなっている。といっても、読者とただお喋りをしていればいいというわけではない。たとえば、読者がさらりといった「朝に強い服がほしい」という言葉。それをキャッチして、その真意を聞いていく――実は、朝パッと着られて、子どもを見送りに出て近所の誰かに会っても恥ずかしくない服がほしい。そういう何気ない一言を逃さず拾えるかどうか。そのセンスも読者に会って育ててきた。

「企画は、自分の頭の中だけで立てると面白くないんです。読者の半歩先を行くリアルな企画を教えてくれるのはやはり読者、と信じています」では、なぜ、VERYのコンセプトは変わったのか。「以前の『VERY』のコンセプトは、『私が主役!の幸せバイブル』でした。お呼ばれのためのドレスとか、パーティー向けに自宅を改築した人々の話とか、バブル世代に発信するメッセージとしては、それで良かったと思います。でも、今の30代の気分や意識はもっと違うところにある。今の30代が何を求めているか考えているうちにある主婦がこんなことをいったんです。『30 代になったからこそ、私は私らしく輝ける。結婚して、家族を持ったからこそ、親や彼氏の顔色をうかがわなくていい。自信を持てるんです』と。これだ、と思いました。美しく、可能性に溢れて、毎日が忙しくて――まさに『止まらない』という感じ。読者と対話するうちに見えてきた、リアルなVERY世代を表現したら、『基盤がある女性は、強く、優しく、美しい』という言葉になりました。それに、世の中が敏感に反応してくれたんです」

2008 年の秋にコラボ企画のアイデアがひらめいたのも、発端は読者の声。実は、ママチャリ向けのファッション企画は、ハズレたためしがない。その理由は、ママチャリのダサさにある。子育て主婦にとってママチャリは必須アイテムだが、『ダサい』『辛気臭い』『ファンシーなロゴがイヤ』、とアンケートでは90%以上の人が不満を持っているほど。ダサいママチャリを何とかかっこよく見せたい気持ちから企画は好評だったわけだが、今尾氏は、「ならば、読者を代表してつくってしまおう」と思い立つ。

コラボレーションの始まり

2009 年1月、VERY編集部は読者アンケート資料と企画書をひっさげ、いざ、ブリヂストンサイクルへ乗りこんだ。「この時は、ロイヤルティービジネスや第三の収入といったことは頭になかった」と今尾氏。ただ絶対うけるというやみくもな自信はあった。ブリヂストン側も、その純粋な熱意で動かされ、コラボレーションが始まった。

しかし、異業種でのコラボは、そうスムーズにはいかない。最初にぶつかったのは、読者の要望や、女性誌編集者ならではのセンスを、ブリヂストン側が理解できるように伝えられないということ。そんな時、今尾氏は、自分たちの話を理解して具体的な形にしてくれる人を仲間に入れようと考える。白羽の矢を立てたのは、グッドデザインカンパニー代表の水野学氏である。「私たちは読者が好きな色や雰囲気はわかっても、自転車のデザインはできない。雑誌をつくる時も、いつもデザイナーさんに入っていただいている。それと同じ感覚で、水野さんだったんです。私たちの思いを理解するだけでなく、具体的なイメージに変換できるのは彼しかいない、と直感しました」

それでも、衝突もあった。たとえば、当初、今尾氏らがお手本にしたのは、アンジェリーナ・ジョリーが乗っている黒いビーチ・クルーザーの写真。アンケートで圧倒的な支持があったからだ。最大の特徴は“極太タイヤ”。「ところが、ブリヂストンさん側に伝えると『この世界では、シティサイクルと極太タイヤを合わせるのは、すごくダサいことだけど、いいの?』と。この組み合わせは、とんでもないミスマッチらしいんです。『いいんです!読者がそれがいいっていってるんですから』と(笑)。戦うべきところは戦いました。必要な戦いをするのも、雑誌づくりと一緒ですね」

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