J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年03月号

Opinion 総論 経営や市場が期待するイノベーションとは イノベーションはビジネスセンスをもって 意図的に引き起こすもの

イノベーションは企業にとって、これまで以上に重要な課題になってきている。
経営陣が求めるイノベーションを、間接部門である人事部・人材開発部は、
どのようにすれば支援・推進することができるであろうか。
そもそも、イノベーションとは何であろうか。
名だたるグローバル企業がこぞって注力する今、注目の戦略コンセプト、
「リバース・イノベーション」に詳しい慶應義塾大学の小林喜一郎教授に、
イノベーションとは何かを伺った。


小林喜一郎( こばやし きいちろう)氏
1980年慶應義塾大学経済学部卒業。
1989年慶應義塾大学経営学修士(MBA)。
1989年から1993年まで三菱総合研究所・経営コンサルティング部主任研究員。
1996年慶應義塾大学経営学博士(Ph.D.)。
1997年4月より、ハーバード大学ビジネススクールヘ留学。
2000年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授
2006年教授、現在に至る。
2001~06年フランスReims Management School客員教授。


[取材・文]=高橋テツヤ(又隠舎) [写真]=本誌編集部

イノベーションを捉え直す

「イノベーション」と聞いて、読者はどのような事柄をイメージされるであろうか。これまでの延長線上にはないような新しい技術や製品を作り出すことだと思われてはいないだろうか。そしてイノベーションが起きるかどうかは、ややもすると偶然性に委ねられているなどと捉えられているのではないだろうか。世の中の変化、新興国市場の台頭、新しい競争相手の出現、そして競争ルールの転換が起こる中で、イノベーションとはもはや偶然の産物ではなく、企業が生き残るための必然の課題となっている。戦略論の世界ではイノベーションを、「他社に先んじて市場・業界における競争ルールを変更し、かつ収益の上がる事業構造を構築すること」と、技術や製品の問題にとどまらず、ビジネスモデルの問題としてより幅広く定義づけしている。そうであるならば、企業にとってイノベーションとは、ビジネスセンスをもって意図的に引き起こすことができる事柄なのである。

イノベーションに取り組むポイントとは

従来イノベーションの見方には、「プロダクト・イノベーション-プロセス・イノベーション」あるいは「ラジカル(急進的)イノベーション-インクリメンタル(漸進的)イノベーション」などが一般的であった。しかしイノベーションに意図的・戦略的に取り組んでいくためには、もっと扱いやすいようにタイプ分けをして考える必要がある。たとえば、ビジネスモデルの構成要素(Who、What、Howの3軸※1)に沿って考えると、次のような3分類も可能であろう。

❶Whatを基軸としたイノベーション (プロダクト・イノベーション)

❷Whoを基軸としたイノベーション (新顧客創造イノベーション)

❸Howを基軸としたイノベーション (ビジネスモデル・イノベーション)

ここで❶は、従来から技術開発部門や製品開発部門が担ってきたような、新技術・サービスに基づくイノベーションを指している。❷は新規顧客をターゲットにしたイノベーションで、最近の代表格は、新興国という新顧客への市場創造イノベーションである。❸は製品やサービスを届ける手段を開発するもので、特にITCを活用したソリューションが多く見られるようになってきている。日本の製造業ではこれまで主に❶について取り組んできたし、イノベーションという時にはこれを前提に議論していることが多いのだが、昨今❷や❸の分野でのイノベーションが目立ってきている。概して❷、❸のタイプのイノベーションは、❶のタイプよりも比較的短期間で収益化できるし、数的にも成功例が多い。イノベーションを戦略的に考えるには、Who,What,Howのどの要素を基軸に革新を行っていくかを決め、企業全体としてはあたかも事業ポートフォリオをマネジメントしてきた同じ方法論で、この3つのタイプのイノベーションを「ポートフォリオ」管理していくことが必要である。

人材開発部門によるイノベーションの支援・推進

このようなタイプ分けをお推めするのは、それぞれのタイプごとに求められるスキル・人材・ノウハウなどが異なってくるからである。もともとイノベーションとは「異質」の組み合わせから起こる化学反応であるが、特に❷や❸のタイプのイノベーションを引き起こすためには、発想の転換が全てである。社内の人間だけで取り組んでいたのでは、イノベーションは起こりにくい。俗に「自業界の常識=他業界の非常識」といわれる。他業界の非常識を取り込むことができるほどに、組織内に多様性があることが肝心なのである。人事部・人材開発部の役割としては、「他と異なる」ということをどう育て、どう評価するかという課題が派生することになる。たとえば、異質な人材や外国人を入社させた時に、どのように処遇すれば彼・彼女らをかき立てることができるのかについても考えていく必要があるだろう。多くの企業トップから「とがった人材」を求める声が高まっている。「とがった人材」とは、必ずしも「逆らう人」のことではない。ある事象について、そもそもの理由に遡って考えることができる人、子どものような目をしている人のことである。イノベーションを起こすためにも、「とがった人材」を支えるのが人事部の役割のひとつなのである。欧米の多国籍企業では、一定数の異質人材を人材ポートフォリオの一部として維持するようにしているところもあれば、昇進に当たっては新興国を含む異なる事業環境への出向を義務づけているところもある。そして、たとえばバランスト・スコアカード(キャプラン&ノートン※2)の「成長と革新の視点」等の項目で、そのことをモニターし評価しているのである。

グローバル化とリバース・イノベーション

イノベーションと並んで、今日の企業の課題となっているのは「グローバル化」である。すでに先進国を主要進出先としたグローバル化は勝負が決しており、2010年以降はグローバル化といえば、その焦点はむしろ「市場としての新興国」に移行してきた。今や、イノベーションもグローバル化に触れずに語ることはできない。

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