J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年09月号

TOPIC-② ヒューマンキャピタル2010 特別シンポジウムレポート 『いま日本企業の人事・人材開発部門が構築しなければいけないもの』個と組織を活かすために人事が持つべきビジョンとパッション

企業の人材・組織戦略のための専門イベント「ヒューマンキャピタル2010」が7月7日から3日間、開催された。特別シンポジウム『いま日本企業の人事・人材開発部門が構築しなければいけないもの~2020年を見据えた人事ビジョンを考える~』では、慶應義塾大学花田光世教授の司会により、人事・人材開発の最前線で活躍してきた秋山裕和氏、飯島英胤氏、横山哲夫氏をパネリストに迎え、これからの人事が持つべきビジョンが示された。

取材・文・写真/石原 野恵

新たな人材開発の潮流と人事の役割

高度経済成長時代、バブル崩壊といった変化の中で、日本企業の人材育成に対しては多種多様なアプローチが導入されてきた。そして今、グローバル化の中で、人材の育成をトータルに支援する、人事施策も含めた多くのパッケージプログラムが提案されている。

慶應義塾大学教授の花田光世氏は、果たしてそうしたパッケージプログラムによって、多様な個人をマネジメントすることが可能なのだろうかと疑問を呈し、今回のシンポジウムの趣旨を次のように説明した。

「パッケージを導入するのであれば、メリットや、どのように活用していくのかを十分に検討する必要があります。当然、導入を慎重に検討する企業が大半だとは思いますが、人事の現場において、グローバル競争への対応という大きな課題を前に、個別パッケージをそのまま採用する傾向があるのも確か。今回は、細かなテクニックではなく、それらのテクニックを活用してこれからの人事・人材開発はどうあるべきかという大きなビジョンについて、掘り下げて考えたい」(花田氏)

趣旨説明を受けて、パネリスト3氏よりショートプレゼンが行われた。パネリストは、日本電気顧問の秋山裕和氏、東レ特別顧問の飯島英胤氏、組織・心理開発研究所代表の横山哲夫氏の3氏。いずれも、1970年代から1990年代の日本企業で、当初は人事担当者として、そして部門責任者として、さらには経営的な視点から組織・人材の基盤を構築してきた人々である。それぞれの経験から、日本企業の人事・人材開発部門の課題が語られた。

ショートプレゼン① 今求められる人事制度改革の視点

日本電気 顧問秋山 裕和氏

秋山氏が人事部門の現場担当者だった1980年代後半から1990年代にかけては、日本企業の大きな転換期であった。

第一の大きな波はグローバル化だ。終身雇用、年功序列、企業内組合といった日本企業の特徴を見直す大きな動きがあり、人事制度は「人材の流動化」「成果主義」「多様な雇用形態」という今日にも続く方向へと転換した。そこにバブル崩壊後の長い不況という第二の波が押し寄せた。

「その結果、個人と組織の関係をより良くするはずの各種施策が、失業率の悪化、社員のモラール低下といった、予期しなかった悪しき影響を生み出してしまったんです」(秋山氏)

一方同時期の米国は、1970年代の不況から脱却し活気がみなぎっていた。そこで秋山氏は、1995年から2004年の間に欧米企業40社を訪問。その経験から、日本では競争のみを重視していると思われがちだった米国企業のHRMの基盤の1つに、「人間重視の経営」があることを見出した。

「人間重視の経営は、欧州や日本にも共通するグローバルスタンダードだとも言えます。それが各国の各企業それぞれの特性に合った形で制度化され、機能していました。その姿を見て私は、従来の日本企業のやり方を否定するのではなく、日本の特性を前提とした、日本ならではのHRMを構築すべきだと実感しました」(秋山氏)

それでは日本企業の特性とは何か。勤勉さや高い学歴水準に加えて、特に欧米企業が注目してきたのはチームワークだ。それを活かすために、今、日本の人事部門に必要な視点は、「組織を駆動するリーダーシップ」だと秋山氏は主張する。

「現在の不安定な政治情勢にも表れているように、日本社会は閉塞感に覆われて方向性が見えなくなっています。チームワークを強化するには、明確な方向性を持ったリーダーシップが必要不可欠。リーダーシップは、経営陣や優れた人だけに必要とされるものではありません。チームを動かす方向性を定めるためには、組織を構成する1人ひとりの前向きなリーダーシップが必要なのです」(秋山氏)

さらに秋山氏は、ピラミッド型組織ではなく、目的志向型、カンパニー制、あるいは役割分担型の組織構成が主力となった日本企業においては、1人ひとりの舵取りの整合性を保つことが、人事部門に欠かせない役割だと結んだ。

ショートプレゼン② グローバル時代の企業経営と人事

東レ 特別顧問飯島 英胤氏

次に登壇した飯島氏は、長年日韓関係の仕事に携わり、韓国サムスンとも20年来の関係を持つ。その観点から、今後ますますグローバル競争が激化する中で、競争に勝てる人材をどのように育成し、活用するかが人事部門に課された役割だと述べる。

「少資源国であり人口減少国である日本の強みは、海外で勝てるものづくり技術を持つ科学技術創造立国であることと、それを可能にする人材育成です。ところがこれらが今、弱体化しています。韓国では、家庭・学校・企業がそれぞれ積極的にグローバル教育を行っている。そうした積極性が現在の日本には欠けているのではないでしょうか」(飯島氏)

この点を考えると、外国人雇用は国際的な企業活動に不可欠であると同時に、現場レベルでは、内向き志向の日本の若者に意識改革をもたらすものとしても期待される。飯島氏は「多国籍人材の活用は時代要請」だとした。

そこで重要なのが、「人事事務部門」から「人事戦略部門」へと転換することである。

「これからは人が企業を選び、国を選ぶ時代。国際競争下で優秀な人材を確保するには、まず経営者が人事の問題を自らの問題として考える必要がある。そこで人事部門が口火を切って、経営者の意識改革を行うことが非常に重要になってきます」(飯島氏)

さらに、経営戦略と連動した人事戦略の展開と併せて、人事にはもう1つ重要な役割があると飯島氏はいう。

「人事部門が組織全体を掌握して、社員の幸せと能力発揮の場を提供し、『人事部に頼めば何とか手を差し伸べてもらえる』という存在になること。つまり、従業員にとって“最後の砦”であることも、これからの人事に期待される役割だと考えます」(飯島氏)

ショートプレゼン③ 日本型組織における人的側面の基本課題

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