J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年10月号

変化とともにあるための易経 第4回 混沌の時代を生き抜くため 企業が備えるべき不易流行

常盤 文克(ときわ ふみかつ) 元・花王社長、会長
1933年生まれ。1957年東京理科大学理学部卒業、花王入社。米国スタンフォード大学留学後、大阪大学にて理学博士取得。研究所長、取締役を経て、1990年に代表取締役社長、1997年に会長に就任、2000年退職。現在は社外取締役などで幅広く活躍。著書に『知と経営』(ダイヤモンド社)『モノづくりのこころ』(日経BP社)『コトづくりの力』(同)『ヒトづくりのおもみ』(同)など多数。

大自然の教えに耳を傾け変化の意味を知る

本連載では、易経や陰陽五行の底流にある「統体」「相生・相克」「循環」「時」などの思想について説明してきた。今回は、易経の本題である「変化」を取り上げてみたい。混沌の時代を生き抜くために企業の経営者や社員がなすべきことは、何か。私は、これまで社内に蓄積してきた「知」を大切にしながら、同時に新たな知を社外から獲得することだと考えている。今の時代に必要なのは、自らを柔軟に変化させることなのである。そのためには米国流の経営だけでなく、易経や陰陽五行など、東洋の知を理解し、大いに役立てたい。中でも易経を貫く「変化」の思想を理解すれば、より多面的な発想力を持つことができるだろう。さて、易経における変化の思想を述べる前に「大自然の教え」に触れておきたい。なお、「自然」という言葉には、感覚的経験で知り得る形ある自然(形而下)と、有形の現象の奥にある感覚的経験では知りえない自然(形而上)の2つの意味があるが、ここでいう「大自然」とは、その2つの自然をあわせ含むものと理解していただきたい。なぜ、大自然の教えなのか。人間は言うまでもなく、大自然の一部である。人工的な物質に囲まれて暮らしていると、その事実を忘れがちだ。だが、今年3月に発生した東日本大震災によって、私たちが大自然とともにある極めて小さな存在だということを誰もが痛感したのではないだろうか。人間が大自然の一部であるなら、人間の集まりである企業もまた、大自然の一部ということになる。そうであるなら、大自然の掟や法に則って生きるべきではないか。その掟や法に反した発展はないのではないか。裏を返せば、大自然の中に潜む知を学び取ることで、今の時代を生き抜くヒントを得ることができるはずだ、と考えている。易経は、中国の自然観・自然哲学を集約して法則化した書であり、いわば大自然に学ぶ方法論である。大自然の教えに耳を傾けることは、易経における変化の思想の土台を学ぶことに他ならない。

変化こそが物事の本質だから変化に逆らわない

そもそもこの地球上に生命が誕生したのが今からおよそ35、6億年前のことだといわれている。それ以来、地球はさまざまな環境の変化にさらされてきた。緑豊かな時代、氷河で冷えきった時代、乾ききった砂漠の時代というように、ダイナミックな環境の変化が繰り返し起こる中で、生き物たちはそのときどきの環境に自らの生き方を合わせ、姿を変えることで生き延びてきたのである。今、地球上に生息するあらゆる生き物は、想像を絶する厳しい環境を生き抜いてきたのである。そうした生き物たちが身につけてきたことは、変化を恐れず、変化を拒まず、変化に合わせて、変化と共に生きるということだ。変化を“常態”として、周りが変わったら自らも変わっていくことを、生き方の基本にしてきたのである。進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンの言葉に、「生き残ることのできる(生物)種は、最も強いものでも、最も賢いものでもなく、最もよく環境の変化に適応したものである」とある。現代の企業にも同じことがいえるだろう。つまり、混沌の時代を生き抜く企業は、経営環境の変化に合わせて、自らを変えることのできる企業であるということだ。生き物の長い長い歴史ではなく、1年という区切りで見ても、それぞれの季節に合わせて姿を変えていることがわかる。『論語』に「四時行なわれ、百物生ず」とある。四時とは春夏秋冬のこと。その移ろいの中で、いつも何かが生まれ、何かが消えていくという意味である。梅や桜を見ても、春には花を咲かせるが、花の盛りはそう長くは続かない。花が散り、やがて夏が来て、太陽と水と土の恵みを受けて葉を繁らせ、枝を伸ばして成長していく。夏が過ぎて秋になると葉を落とし、ひと休みする。そして厳しい冬を生き抜きながら、早春にはまた蕾をふくらませ、次の開花に向けて準備をする。まさに「四時の序」、春夏秋冬の移り変わりである。企業の成り立ちも同様といえよう。一気呵成に突き進み、大きく成長する時期もあれば、苦境に耐え忍んだり、ひと休みしたりする時期もある。要するに、それぞれの環境に相応しい経営があるということである。そしてまた大自然は「諸行無常」――万物は常に変化して少しの間もとどまることはない――ともあらわせる。諸行無常に儚さなどのイメージを抱き、厭世的な解釈をする向きもあるが、私はポジティブに捉えている。変化そのものが成長・発展であると考えるからである。企業も諸行無常という発想のもとに、変化を積極的に受け入れながら逞しく生きていくべきだろう。このように、大自然が我々に教えてくれているのは、「変化こそが物事の本質であり、変化は常態である」ということだ。変化を普段と異なる事象として構えるのではなく、これを受け入れ変化とともに生きる術を身につけるべきだと思うのである。よく「環境の変化に対応する」というが、私はこの言葉があまり好きではない。変化が先にあって、その後追いをするような受け身の感じがするからである。もっとも、変化とともに生きるという発想で仕事に臨んでいる人は、まだまだ多くない。一度、自分の行動や仕事の中身を注意深く見てみるといい。身の回りの全てが日々変化していることがわかるだろう。こうした変化に対し、個人も組織も追いついていないのが現実ではないだろうか。私は、仕事の仕組み、やり方は常に変えるべきものだと思っている。変えることが目的ではない。ひたすら日々の仕事を環境に即したものにしようとすると、変えることが当たり前なのだ。重ねて言うと、変化こそ常態なのだから。「変化とともに生きる企業風土」を、日々の仕事を通して育て上げていくことが大切である。

時の循環を知れば変化の兆しを読み取れる

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