J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年09月号

ベンチャー列伝 第20回 「他力本願」を奨励して多様な個を活かす強い組織に

ラクーン 代表取締役社長 小方 功(おがた・いさお)氏
1963年札幌市生まれ。1988年北海道大学工学部卒業後、パシフィックコンサルタンツに入社。独立準備のため1992年に退職し、1年間中国に留学。中国人実業家(華僑)と出会い、人生観とビジネス哲学を学ぶ。1993年帰国し、ラクーンを創業。何度かの倒産危機を乗り越え、現在の主力事業であるインターネットを使ったアパレル・雑貨の企業間取引市場の創設に至る。著書に『華僑 大資産家の成功法則』(実業之日本社/刊)がある。

ラクーン
1995年9月設立。アパレル・雑貨を中心とした小売店向け卸販売サイト「スーパーデリバリー」を運営するIT企業。同サイトは、メーカー、インポーター(出展企業)と全国の会員小売店がスムーズに取引するためのサービス。取扱商品は26万種類に上り、その運営を通して「地方流通の最適化」「流通の効率化」を実現している。2005年度ニュービジネス大賞特別賞を受賞。2006年4月、東証マザーズ上場。
売上高:76億4267万円、経常利益:1億213万円(2010年4月期)、従業員数:114名、うち社員90名(2010年4月末)

取材・構成/福田 敦之、写真/髙岡 隼人、ラクーン提供

他者の能力を活かす「他力本願解決王決定戦」

ラクーンは、全国のアパレル、雑貨メーカーや地方小売店が、ネットで仕入れできるBtoBのサイト「スーパーデリバリー」を運営している。創業者の代表取締役社長・小方功氏は、「人を最大の経営資源と考え、人を熟知し、人の能力や個性を使いこなすことが経営の中心」と人材活用のあり方を語る。同社の経営理念は「ニーズ(存在理由)」という言葉に集約される。社会全体にとって「ないと困る」と思われる存在であり続けることをめざしている。会社が社会に必要とされる存在となれば、そこで働く人も努力を惜しまなくなるからだという。

「人は皆、異なる個性を持って生まれてきています。それをうまく活かす仕事が、“天職”。それは自分だけで見つけられるものではありません。実は個性は、他人のほうがよく知っていることが多い。スポーツ界で選手がいいコーチに出会うことでいい成績が残せるように、個性や能力は、第三者によって見出され、磨かれることがよくあるものなんです」(小方氏、以下同)

会社という組織で働くには、お互いの個性や能力を活かし、皆で得た勝利に対して成功実感を持つことが欠かせない。その時に大事なのは、一緒に働いている仲間の得意分野を理解することである。そのために導入したのが「他力本願解決王決定戦」だ。

「以前は、1人ですべて手柄を立てなくてはいけないと考え、わからないことを聞くべき人に聞かなかったり、自分より得意な人がいるのに仕事を抱え込んだりする人が見受けられました。そこで、一緒に働く仲間の個性を理解して、それを使いこなしていくことができる人を評価すべきだという考えの下、今回の制度を導入したのです」

他者の力を借りるには相手をよく知ることから

日々寄せられる顧客の要望に、最短の道のりで解決策を提示するためには、担当者が1人で抱え込むのではなく、上司や先輩に相談する、他部署のスペシャリストと協力するなど、社内のリソースを最大限に活用することが大切だ。そこで、いかに他人の力を最大限に活用しながら、迅速かつ最善の解決案を顧客に提示することができたかを評価するのが「他力本願解決王決定戦」。提示された解決案を社内の審査委員会で評価し、最も優れた解決案を提示した男女各1名に解決キング・クイーンの称号と特別有給休暇5日と、賞金を授与するというものである。

解決クイーンの事例を紹介しよう。ある顧客から、Web上で請求書を見られるようにして欲しいという要望があった。ラクーンのシステムは35人ほどいるエンジニアが朝から晩まで何年もかけて作った仕組みである。Web上で請求書を見られるようにするという要望は、簡単そうだが実は大変な改定を要する。外部に発注すれば数千万円は費用がかかってしまう。そこで小方氏は、この案件をシステムとは関係のないIR担当の女性A氏に任せた。

通常、これを技術関係の部署に渡すと、技術的に難しいといった「できない理由」を並べ、結果、要望は棚上げされていく。ところがA氏の場合は、「請求書をWeb上で見ることができたほうが便利」「紙代も節約できる」とシンプルにアウトプットイメージを持った。他の部門だからこそ、新しい目でその仕事を見ることができる。そのうえで、どのようにしたら実現できるかを探し始めていった。彼女が入社10年ほどのベテラン社員だということもあり、社内の人間の誰が何を得意とするのかを熟知していたことも大きい。A氏自身は必ずしもアイデアマンではないが、社内でアイデアを持っている人間を素早く見つけ出すことができたのだ。

その結果、数千万円かかったかもしれないシステム上の変更が、数人のメンバーの数日間の尽力によって出来上がった。この時、最初に評価されるのはA氏であるという点が、この制度のポイントである。

社内の暗黙知を形式知として蓄積

実は、「他力本願解決王決定戦」のアイデアは、小方氏だけで考案したものではない。小方氏が日頃の部下との会話の中で課題解決のヒントを見つけ、それを形にしていったものである。こうしたアプローチは、同制度だけに限らないそうだ。

たとえば、小方氏は「名言集」を作っているが、それも自身の言葉ではなく、社員の名言をまとめたもので、イノベーションや課題解決のアイデアの宝庫となっているという。小方氏はその名言集を社内でのコミュニケーションにも活かしている。また、営業研修で使う膨大なマニュアルも、過去の営業担当者たちが犯した過ちを全集にしたもの。失敗例をメモし、その失敗を繰り返さないための方法としてまとめている。すると、一部の天才ではなく、誰にも通用するマニュアルができていく。暗黙知から形式知へ──皆の知を結集してより良いものをつくっていくラクーンの組織風土は、実に合理的だといえる。

コミュニケーションこそが人を知る最大の機会

「他力本願解決王決定戦」を実施し、判明したことがある。優秀だが人との付き合いを後回しにしてきた社員たちは、社内の誰が何をできるかについて、あまり詳しくなかったということだ。業績では評価の高い社員も、この制度下で良い評価を得るとは限らない。こういう人は手柄を1人占めしがちなため、頼み上手ではないのだ。

「社内の人たちと知り合うには、直接会って話をすることが一番。私自身、週に1回は社内の何人かを誘って飲み会を開いています。その場合も、中途採用者や業務で関連の薄い人同士や、皆の相談相手になりそうな人を加えるなど、人選に工夫を凝らしています」

飲み会に限らず、マネジメントにおいては「徹底的に遊ぶ」ことを大切にしていると語る小方氏。今年、8人いる部門長には、各自8つの社員旅行を企画するというユニークな試みが課された。それを受けて、1月は伊勢神宮、2月は万座温泉、4月は秋田、7月は沖縄といった具合に、割安で旅行に行くことのできるイベントが企画された。社員旅行初参加の社員を中心に、行きたい人が8~10人程度手を挙げて参加するが、部門長には直属の部下は2人以上誘わないようにいっている。自分の部下ばかりと行くと、仕事の延長になってしまい、遊び感覚が薄れてしまうからだ。

「旅行を仕切ることは、マネジメントの基本を学ぶうえで非常に重要です。ビジネスの場面で何度いっても伝わらないことが、遊びの場でいうと、一発で伝わることがあります。何より、信頼関係は共通の思い出によって形成されていくもの。あの時こうしたよねとか、困った時に助けてくれたよねとか、そういう積み重ねがとても大事です」

組織の人間関係を向上し「協働原理」を働かせる

このような和気あいあいとした組織風土の中で、人事評価はどのように行われているのか。小方氏からは「成果1本」という答えが返ってきた。同社では、同年齢でも年収が2倍以上異なる場合がある。にもかかわらず、夕方になると仲良く肩を組んで飲みに行く関係が構築されている。給料額の高い、低いでお互いを比較しない。しかし、きちんと成果は評価してもらいたい……。こうした、一般的には二律背反と思われるようなことが、同社では成立している。その背景には、「お互いの給料を口外してはいけない」というルールがある。

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