J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2010年09月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 挑戦、チームワーク、納得性の高い評価がファインプレーを生む

イチローや本田圭佑、北島康介など、一流選手のプレーを支えるスポーツ用品製造・販売を行うミズノ。
その裏には、社員たちの数々のファインプレーが隠されていることはいうまでもない。
1人ひとりのファインプレーを生み出していたのは、挑戦する風土、チームワーク、納得性の高い評価、創業時から続く徹底したクリーンな社風などである。
104年の歴史を重ねる同社の土台について、4代目社長の水野明人氏が語る。

水野 明人(Akito Mizuno)氏
生年月日 1949年8月25日
出身校 米国 イリノイ・ウエスレイ
アン大学経営学部卒業
関西学院大学商学部卒業
主な経歴
1975年3月 ミズノ入社
1984年5月 取締役
1986年5月 常務取締役
1990年6月 専務取締役
1994年4月 取締役副社長
1998年6月 代表取締役副社長
2006年6月 代表取締役社長
現在に至る

ミズノ
1906年の創業以来、1世紀近くにわたって日本のスポーツ用品産業をリード。現在は世界屈指の総合スポーツ用品メーカとして、国内外から高い評価を受ける。さらにスポーツ振興には特に力を注ぎ、プロ、アマを問わず、あらゆるスポーツの発展への貢献をめざす。
資本金:261億3700万円、売上高:1487億300万円(2010年3月期連結)、従業員数:5808名(連結2010年3月期)

インタビュアー/宮本 惇夫 写真/柚木 裕司

スポーツから学べる3つのF

――人をつくる、人を活かすことは企業経営で最も大事な施策の1 つですが、御社ではどのような理念を持って人材育成、人材活用に取り組まれているのでしょうか。

水野

スポーツ関連企業ですから、社員たちも“明るく元気で”いられるところに活力の源泉を置かなければなりません。では皆に元気に働いてもらうにはどうするか。

我々は、経営や教育などの理念に“3つのF”――「フェアプレー」「フレンドシップ」「ファイティングスピリット」を掲げています。この3つはスポーツには欠かせない要素で、これを徹底することで皆、明るく元気に働き、成長していってくれたらいいなと思っています。

「フェアプレー」は、スポーツでいえばルールを守るという基本中の基本。ところが企業社会では、盛んにコンプライアンスや法令遵守が叫ばれているように、守るべきことが守られていない。フェアプレーが実行されていないということです。教育によってしっかりと身につけて欲しいと思っています。

「フレンドシップ」は企業の中に当てはめれば、チームプレー、チームワークに相当します。仕事においても、個人個人の働きは大事ですが、個人プレーではなく、チームで力を合わせてプロジェクトや業務を遂行していくことが重要と考えています。

さらに、企業の中でなくてはならないのが「ファイティングスピリット」。積極的に挑戦していく気概を持って、新しいこと、困難なことに立ち向かっていかなければ、企業は発展しません。失敗を恐れて何もしないよりも、失敗してもいいから何かにチャレンジするほうがミズノの中では評価が高いし、そういう人を積極的に評価するようにしています。そのような気風、考え方を組織に醸成していかなければ、人はなかなか育たないと私は思っているんです。

――個人のファインプレーも、これら3つのFがあってこそ生まれるということですね。3つのFは人事や教育施策、組織づくりなどにも反映されているとお聞きしました。

水野

当社の経営に対する考え方の基本的な部分は、この3つのFでかなりカバーできるでしょう。

教育については、さまざまなテーマがあり、必ずしも理念に合致したものばかりとはいえないのですが、週に一度行っている「ミズノビデオコミュニケーション」や、毎週、各部ごとに行っている「教育の時間」などの根底にも、これら3つのFをしっかりと身につけてもらおうという意図が込められています。

――ユニークなお取り組みのようですね。具体的にはどのような教育なのでしょうか。

水野

「ミズノビデオコミュニケーション」は1983年から、会社の方針を全社員に知ってもらう狙いで始めたものです。社長方針や各部門の動向、ニュースなどを映像にまとめて放映しています。当初は月1回でしたが、現在は毎週火曜日、朝9時30分から約20分間、全社員に一斉に視聴してもらっています。私は毎回、冒頭の2~3分間ですが、時の話題や業界動向、教育的な話題などを話しているわけです。たとえば先般はサッカーが大いに盛り上がった時期でしたので、サッカーと経営の共通性、つまり、局面局面での判断の大切さといったことを話しました。全社の考えを一本化するうえで役に立っていると思います。

もう1つの「教育の時間」とは、各部ごとの勉強会。毎週金曜日の朝9時30分から10時までは、各部の皆で集まって、ある1つのテーマに沿って学びます。部門長が講師となって話をしたり、皆でフリーディスカッションをします。テーマは「CSR(企業の社会的責任)」「自分再発見(信念)」「人格・能力の向上」「品質強化」といったことです。

チャレンジの機会で若手が一皮むける

――水野社長は米国の大学、そして日本の大学を卒業されてから、26歳で入社されたと伺いました。

水野

米国から帰国後、スポーツの勉強を兼ねてヨーロッパに1年行っていたこともあり、1975年の入社なんです。ミズノ生活も35年になりますね。

――その35年の間の人との出会いや仕事の中で、どんな時にご自分の成長を感じられましたか。

水野

私は若いうちから責任ある仕事もさせてもらいました。恵まれていたといえるのですが、特に勉強になったと感じているのは、やはり若い時に、新しいブランドを立ち上げるという仕事にチャレンジさせてもらったことです。米国のブランドと提携して日本で売り出すというもので、それまで我々がやったことのないような類の商品でした。したがって商品の味付け、マーケティングなどについても、それまでとは違った方式を導入して進めていきました。これがわりとうまくいき、売り上げも好調。ただその後、先方とコミュニケーションの齟齬があり、残念ながらお付き合いがなくなってしまった。ですが、それも含めて、とてもいい経験をさせてもらいました。

――挑戦することで学べることはたくさんありますね。

水野

そうですね。その後、ブランドはすべて『MIZUNO』に集約してきたので、最近は若い社員が新ブランドにチャレンジするようなチャンスはなくなってきています。ただブランドに限らず、皆には何か新しいものにどんどん挑戦して欲しい。私の時の高度成長時代とは違い、今は難しい時代ですから、新しいことを成功させるのには相当厳しい環境であることも認識しています。しかし、絶えず新しいことにチャレンジしていかなければ、人も企業も伸びていきませんからね。

104年の歴史に流れるミズノの精神

――御社は今年で創立104年ですね。100年以上の歴史を積み重ねてきた秘訣といいますか、何か大事にされてきたものがあるからこそ、存続、成長されてきていると思うのですが。

水野

先輩たちが築き上げてきた遺産、クラフトマンシップやミズノの文化などを次の人たちが引き継ぎ、またそれを次の人たちに引き継いでいく。その結果が104年の歴史につながったと思います。しかし、ただ遺産をそのまま引き継いだだけでは歴史はつながらない。その時代時代に合ったものに変革させていったからこそ、続けてこられたのではないでしょうか。

――創業者であるお祖父さん(水野利八氏)、2代目社長のお父さん(水野健次郎氏)から受けた教えや、背中から学んだものは何かありますか。

水野

個人的に家の中で、ああせい、こうせいといわれた記憶はありませんね。祖父は根っからの商売人、2代目は学者みたいな人でしたし。ただ会社の歴史として、創業者の言動で、エピソードとして語り継がれているものはいくつかあります。その1つが「樹脂注入圧縮バット」の話です。

――圧縮バットともいわれているものですね。

水野

ルールの改訂もあり今は製造していませんが、このバットが開発された当時、社外の関係者から「反対や。バットは折れるから買ってくれる。折れへんようなバットを作ったら、皆がこうて(買うて)くれへんようになる。商売として見た場合、それはマイナスと違いまっか」と反対の声が出たのです。その時、創業者がいったのは「折れないバットがあれば、野球ファンは安い費用で野球ができる。費用がかからずに野球ができるようなれば、もっとたくさんの野球ファンが生まれてくる。そうして野球市場が広がっていく」といって製造に踏み切ったといいます。

――プラス志向といいますか、野球そのものを発展させれば、それに付随する用具や商品は自然と伸びていくという発想だったのですね。

水野

創業者は商売でも品質勝負の“フェアプレー”を信条としていました。実は“ミズノ十則”というものが残されておりましてね。中には今の時代に合わなくなった項目もありますが、その精神はミズノに脈々と受け継がれています。

フェアプレーの精神などはその代表的な理念といっていい。それを表すこんな話があります。戦後まもなく大阪でも闇商売が横行したのですが、祖父は先のような性格ですから、社内に「決して闇取引に手を出してはならない」との指令を発するわけです。野球のボールやスキーの板にしても、材料はすべて配給制ですので、なかなか手に入らない。でも創業者は「配給されたものだけでやれ」といって、決して闇に手を出すことを許さなかったといいます。

――ミズノ十則には、フェアプレーの精神以外に、どのような信条、規則が付されているのでしょうか。

水野

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