J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年10月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 「創って作って売る」を極めれば、 組織はひとりでに回り出す

1970年代に襲ったオイルショック。アルミ製錬という事業の根幹が大きく揺らいだことで、日本軽金属は大きな組織変革を迫られた。めざすは「アルミ+1(プラスワン)」。そこで必要となったのが「創って作って売る」人材の育成だった――社員の意識変革を促した人づくりへの思いを聞いた。


日本軽金属 代表取締役社長
石山 喬(Takashi Ishiyama)
生年月日 1944年3月9日
出身校 北海道大学工学部卒業
主な経歴
1967年4月 日本軽金属入社
1990年4月 新潟工場長
1994年6月 技術・開発本部技術部長
1997年2月 軽圧本部技術・開発グループリーダー 兼 軽圧本部技術企画部長
1997年6月 取締役
2000年6月 執行役員
2001年4月 常務執行役員
2001年6月 取締役 兼 常務執行役員
2003年6月 取締役 兼 専務執行役員
2006年6月 取締役 兼 副社長執行役員
2007年6月 代表取締役社長
現在に至る

日本軽金属
1939年創業。アルミニウムの製造から、研究、開発、加工、製品、販売、そしてリサイクルに至るまでの事業を幅広く行うアルミ総合一貫メーカー。長年培った豊富な知見と素材を活かす技術力を強みとし、自動車・電機・電子・情報通信、環境・安全・エネルギー、建築、鉄道、食品など多分野にわたる顧客の課題を解決する多種多様な製品を開発・提供する。
資本金:390億8465万4715円(2011年3月31日現在)、単独売上高:1476億300万円、連結売上高:4294億3300万円(2011年3月期)、単独従業員数:1929名、連結従業員数:9739名(2011年3月31日現在)

インタビュアー/西川 敦子 写真/山下 裕之

大胆な「横串活動」で社員の意識改革が進んだ!

――御社は40年前のオイルショックの際、アルミ製錬という事業の根幹を失われました。以来「アルミ+1(プラスワン)」を合言葉に、アルミの原料にプラスワンの価値を付ける各種加工製品などを幅広く製造。アルミニウム総合一貫メーカーとして生まれ変わっています。その際、組織のあり方についても「モノづくり・技術者集団」から大きく舵を切ったと伺っていますが……。どんな組織、人材育成をめざされたのでしょう。

石山

製造業にはありがちなことですが、当社も以前は損益に責任を持つ人間が現場に皆無、という状況でした。組織が縦割りに分断されていたからです。開発部門は自分たちが納得できる開発に心血を注ぐ。生産部門はひたすら製品を作り続け、営業は利益を度外視し、とにかく売りまくります。結局、数字に責任を持つのは社長や事業部長だけ。これではまずい、ということになった。そこで縦割り組織を撤廃。機能横断型組織へと変革を行いました。従来、事業部は大きく「開発部門」「生産部門」「営業部門」「管理部門」に分かれていたのですが、これを全て横割りに。事業部をいくつかのビジネスユニット(BU)に分け、BUチームごとに開発、製造、営業、管理というプロセスを一貫させ、損益責任を持たせるようにしました。横連携を強力に推進していくこの活動を、我々は「横串活動」と呼んでいます。

――かなり大胆な組織変更ですが、混乱はなかったのですか。

石山

最初はなかなか理解してもらえなかったですね。それでも工夫しながら意識改革を進めていきました。たとえば、開発担当だけでなく、研究員や製造担当も訪問営業に同行させるようにしました。おかげでお客様を中心に、互いの距離がぐんと縮まりました。特に研究員などは、ともすると浮世離れしてしまう傾向がなきにしもあらずなのですが、お客様のニーズをリアルに把握できるようになり、マーケットが求めるモノづくりを心がけるようになったと思います。営業も同様ですね。他部門との意思疎通が進んだおかげで、簡単に安売りしなくなりました。これは大きな成果だった。一方で、全ての社員にコスト感覚を持ってもらうため、費用を細かく算出するシステムを整えました。設備費、原材料費、人件費、梱包費、物流費――。全ての製品ごとにコストをはじき出しますから、トータルコストや売り値がおのずとはっきりする。また、その製品が儲かっているかどうかも一目瞭然です。競合状況から売り値を下げざるを得ない場合、あるいは利益が減っている場合は、かさんでいるコストを抑えればいい。チーム全員で改善に取り組んだ結果、利益が上がれば貢献実感が湧いてきます。そうすれば自然に仕事が楽しくなる。これは管理職だけでなく、末端で働いているオペレータも同様です。私が工場に行くと、パート従業員が「先月はこれだけ利益が上がりましたよ」と嬉しそうに報告してくれますよ。

――意識改革を促すため、他にどんな施策に取り組まれましたか。

石山

一連の取り組みを支えている経営思想が、トヨタ生産方式です。当社はトヨタ生産方式の学びと実践を行う異業種研究会「NPS研究会」に所属していまして、このNPSに基づくトレーナー教育をかれこれ27年間続けています。毎年3泊7日の合宿研修――つまり1週間のうち、徹夜が3夜はある(笑)という過酷なものですが――には、製造部門だけでなく、開発や営業の人間も加わります。生産現場のムダを徹底してなくし、人の動作まで計測して生産効率を上げる手法がNPSですが、これを座学で学ぶだけでなく、実践を通して身につけてもらいます。実際に生産ラインに入り、品質や生産性の向上に取り組んでもらうのです。そうした取り組みの発表会もやります。こうして育てた人材は、すでに延べ700人超。現在の役員や工場長クラスはすでに全員、この洗礼を受けていますよ。

チームが一枚岩で追求する「アルミ+1」

――横串活動によって社員の皆さんの意識にはどんな変化が起きたのでしょうか。

石山

たとえば、開発担当者は市場に受け入れられる製品を必死で模索するようになりましたし、製造部門のメンバーは工程や設備、人員、生産性の改善に知恵を絞るようになりました。「創りっぱなし」「作りっぱなし」「売りっぱなし」ではなく、全員が研究開発から販売に至るまでのバリューチェーンを意識するようになったのです。「創って作って売る」ことのできる社員づくり。これこそ、当社がめざす人材育成といえるでしょう。

――チームが一枚岩となって「アルミ+1」を追求する体制がつくられたのですね。

石山

ええ。ただし、チーム力をそぐ分断は、部門間だけに起きているわけではありませんでした。開発畑にいた時のことです。当時私はよく、アルミ圧延を行う名古屋工場に通っていたのですが、この時、圧延機のオペレータの中に、あまり上手でない従業員がいるのに気づきましてね。アルミ圧延というのは、微妙な操作テクニックの違いで、仕上がりに差が出やすいんです。放っておけないので、上手なオペレータに「彼にコツを教えてやってほしい」と頼みました。すると、彼は「イヤだ」と断るのです。「自分より上手な人が増えたら自分の給料が下がってしまうかもしれない。だから教えたくない」というんです。「これはまずいぞ」と感じました。大事なのはチームとして成果を出し、会社として利益を出すこと。それがなければみんなの給料も上がりません。しかし、全員で貢献する意識が現場では育っていなかったのです。

――個人と個人の間にも、「評価」によって大きな壁が生じていたのですね。

石山

その通りです。チーム全体の成果で評価する仕組みがなければ、現場の育成力は失われてしまう、という危機感を抱きました。またチーム力はリーダーの姿勢にも左右されます。前を走る人間の役割とは、自分が先頭に立って目立つことではありません。あくまで後からついてくる人々のためにいい道をつくることではないでしょうか。メンバーが「この人だったらついていける」と思えたら、そのチームは必ず大きな成果を出せるはずです。ですから、私は人材を評価する時は常にその人の後ろを見ます。いい部下がたくさん育っている人材は優秀だと考える。逆に本人は優秀に見えても、その後ろに誰も見えない人もいます。

――しかし、リーダーの「人間性」を伸ばすのは、簡単ではないと思いますが。

石山

そこで当社では、毎年、次世代チームリーダー20~30人を対象とするパワーアップ研修を行っています。1年間という長期間にわたって取り組むのですが、チームをまるごと巻き込んで業務改善プロジェクトを進めてもらいます。作業の標準化促進や職場の環境整備などテーマはいろいろ。新人から自分の上司までリーダーとして仲間全員を動かしていく作業はかなりしんどいと思いますね。コミュニケーション力や説得力、それ以前に仲間に対する誠実さなど、いろいろな力を求められますから。精神的に切羽詰まるらしくて、みんな途中で泣いちゃうんだな(笑)。毎月、レポートを人事部長に提出してもらい、1年分まとまったら私が目を通すことにしています。峠を乗り越えた途端、めきめき自信がついてくるのがわかりますね。ハードな研修ではありますが、効果はその分、大きい。それに、1年間のやりとりを通して、我々経営層と思いを共有してもらえる、というメリットもあります。

リーダーがハブとなれば組織の壁は消える!

――組織に横串を通し、チームごとの結束力を高める仕組みや、そのための人材育成に力を注いでおられることがよくわかりました。しかし、チーム同士の軋轢や溝といった問題は生じないのでしょうか。

石山

横串といいましたが、実際には「マトリクス組織」になっているんです。全てのBUと工場組織がマトリクス状につながっている。

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