J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年07月号

読者提言 論壇 「信頼・貢献バリュー」による活力ある組織づくり

読者諸氏が所属する組織では、組織や人材の活力を十分に引き出せているといえるだろうか?組織や人材の活力を重要な経営テーマと捉え、企業はさまざまな取り組みを行うものの、空回りしているケースも少なくないようだ。本稿では、活性化施策に求められる「信頼・貢献バリュー」に基づく施策立案の考え方を提示する。

岩瀬 充弘(いわせ・みつひろ)氏
日本能率協会コンサルティング
経営戦略本部 チーフ・コンサルタント
明治大学法学部卒業後、情報システムのセールスエンジニアを経て、1986 年日本能率協会コンサルティングに入社。業務効率化などの業務革新領域のコンサルティング経験と、人事・人材戦略、人事革新、組織活性化など人材マネジメント革新領域のコンサルティング経験が豊富。主な著書に、「信頼・貢献バリューに基づく動機づく職場の実現」(共著、JMAC、2011 年)など。(社)全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント。

空回りする活力ある組織づくり施策

先般筆者らが実施したセミナーで、参加者である陸運業界大手A社の幹部から次のような話をお聞きした。「我が社・我が業界は、上司・先輩が下の者を叱って育てる文化がありました。しかし現在では、それでは社員が委縮してしまい社員が育ちません。そこで『ほめる文化』に転換しようということで、各社員が良い仕事をした者に対してGood Jobポイントというものを発行し、獲得ポイントに応じて表彰しています」

A社に限らず近年多くの企業では、社員のやる気や自発性を引き出すことに焦点を当てた活性化施策に力を注いできた。しかし、厳しい経営環境のもと、個人に働きかける新しい取り組みを現場第一線に根づかせることは簡単なことではない。A社のGood Jobポイント制度は、ほめる文化を形成することで社員の積極性・活力・成長につなげようという施策だが、一方の叱って育てる文化も事業の成長や業務遂行に有効だったからこそ長年にわたって培われてきた価値観である。よって、こうした取り組みは新旧の価値観闘争なのである。

ただ、長年慣れ親しんだ行動のほうが強い慣性力があるがゆえ、仕事や業績が振るわないケースが続いたら、「ほめる文化」が「叱る文化」に駆逐されないか、「もっとほめなさい!」「ほめ方が悪い!」などと叱られないだろうか、と笑い話のような心配が出てくるのだ。

実際、この手の取り組みは、初期の目的を果たせずに形骸化してしまうことが多い。

一方、現場に目を転じてみると、経営サイドからの要請と現場の実情の狭間にいる第一線のマネジャーからはもっと悲痛な声が聞こえてくる。新興国の台頭・円高・原油高などの厳しい環境の中で、現場が取り組むべき課題はますます複雑化・高度化している。その反面、人員数はすでに絞られているためメンバーは担当業務で精一杯で、新しい流れをつくり出すような革新課題に腰を据えて取り組める状況にない。それでも、課題の解決には部下一人ひとりの頑張りが頼りなので、マネジャーは部下に対しさまざまな働きかけを行うが、意図や想いがうまく伝わらず、なかなか行動に現れずにイライラ……マネジャーはこうしたジレンマを抱え込み、さんざん徒労・疲弊感を味わった末に、あきらめ感に行き着く。

あきらめ感とは、「やる気とか意欲といった個人の内面を変化させるのは困難なので、そこにはあえて立ち入らず、業務遂行上の指導までと割り切る」というものだ。部下にはいろいろいいたいことはあるが、人間関係が損なわれ職場がギクシャクすることを恐れ、深追いしないというわけである。

組織を動かす見えない力

こうなると、もはや革新とかチャレンジといったダイナミックさは期待できない。第一線のマネジャーは多かれ少なかれ、同じような悩みを抱えているのではないだろうか。

このように企業環境や職場状況が難しい局面で、組織や人材の活力を向上させるには何が大切だろうか。「組織を動かす見えない力」とは、社会学者の佐藤郁哉氏らが著書の中で遣った言葉であるが、一般には企業文化や経営理念、行動規範や社風といったものを指す。企業のホームページ等でも頻繁にお目にかかる「○○ウェイ」「○○スピリット」といったものが代表例だが、ここでは明文化された理念や規範だけでなく、もっと根源的な、文字通りの「見えない力」について考えたい。

読者諸氏にはこんな経験はないだろうか。信頼のおける仲間から少々の難題を持ちかけられた。折悪く忙しい時と重なりとても対応する余裕はないのだが、この人が困っているのだからと、何とかやり繰りして応えてあげようと行動を起こす――。仕事の上でも私生活でも、一度や二度は経験があるのではないだろうか。

企業の中でも、全く職場に余裕がない状況の時に、「あの人がいうんだからひとつやるか」という一言で手詰まり状態を脱する場面によく出くわす。理屈だけではどうにもならない状況でも、人間関係の中で物事を主観的・主体的に捉え逃げずに前向きに頑張ろうとする、無償の貢献意欲が引き出されるのである。

果たしてこのような意欲的な行動はどのような力が働いて起こるのだろうか。そして、こうした関係を組織の中で意図的につくり出すことはできるのだろうか。

ヒントとなるキーワードは「信頼」である。社員の前向きなやる気を引き出すには、会社と社員間、上司と部下間の信頼関係が成立していることが必須である。人の営みにおける信頼関係というのは、決して自然に成立するものではなく、組織においては必ず上位者からの働きかけ努力によって形成される。会社や上位者が「何とかこうしたい!」といえば、社員が「よし! 一丁やってやろう!」という気持ちになるような関係を構築するのは、経営層や上位者の最大の任務でありマネジメント課題そのものなのである。

「信頼・貢献バリュー」

信頼が大切だというのは当たり前のことだが、それが「組織を動かす見えない力」であるとすれば、社員のやる気を今一つ引き出せていない組織においては改めて重要なキーワードとなるだろう。私たちは「活力ある組織づくり」をめざす企業が、活性化施策を展開する際に最重要視する考え方を「信頼・貢献バリュー」と呼んでいる(図表1)。

「信頼・貢献バリュー」とは、会社が社員への信頼の意思を明確に示すことで、社員は信頼を実感し、それによって組織に対する貢献意欲が刺激され、積極的・自発的な貢献行動が生まれる。さらに会社がその行動を応援する。こうした循環をつくり出すことで信頼関係をより強固なものにしていくといった、マネジメントの基本思想である。

個人の価値観へ働きかけることにより、内発的動機づけがなされ、社員が次々と自発的に新しい何かに連携・協調して取り組んでいく。その中で成功や失敗を繰り返しながらも大小の成果を摘み取り、その体験からの学習を糧にしてビジネスパーソンとしての逞しさを備えていく――こうした個人と組織の状態を持続させることをめざしている。「組織が活性化された状態」を社員側から表現すれば、「社員が組織目標に向かって自ら前向きな行動を起こす心理状態になっていること」となる。つまり、組織の一員として組織に貢献しようという心が刺激されているという状態である。

この貢献しようという心は、誰かから強要されたり、一律の施策によって生起するものではない。組織からの確かな「信頼メッセージ」という働きかけを、社員がしっかりと受け止め、それに応えようとする心が芽生えることで生まれるのである。

軽視される信頼メッセージ

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