J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2012年07月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 変化を恐れず世界に伍する人材を輩出するのが私の使命

世界170カ国以上で事業展開するグローバルカンパニー、ヒューレット・パッカード。「その日本法人トップだからこそ、見えてくるものがある」と語るのは、日本HPの小出伸一代表取締役社長執行役員だ。世界から見た、日本のグローバル人材に必要なものとは?新時代の「チーム力」について聞いた。

小出 伸一(Shinichi Koide)氏
生年月日 1958年10月1日
出身校 青山学院大学
経済学部経済学科
主な経歴
1981年 4月 日本IBM入社。
1999年 2月 米IBM出向 コーポレートストラテジー担当
1999年12月 経営企画・社長室担当
2002年 3月 取締役 ITS・アウトソーシング事業担当。
2003年 1月 取締役 金融システム事業部長。
2005年 4月 日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)に移籍、常務執行役営業統括 オペレーション担当。
2006年10月 代表取締役副社長COO。
2007年12月 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)に移り、代表取締役社長執行役員就任
現在に至る

日本ヒューレット・パッカード
コンピュータ、コンピュータ周辺機器、ソフトウェア製品の開発・製造・輸入・販売・リース、ITサービスを行うヒューレット・パッカードの日本法人。 1963 年、横河・ヒューレット・パッカード株式会社として創立。
資本金:100億円、売上高:3649億円(2011年10月期)、従業員数:5300名(2011年4月現在)

インタビュアー/西川敦子
Interview by Atsuko Nishikawa
写真/太田 亨
Photo by Toru Ota

170カ国公募制度は社外の人もライバル

――貴社は、世界170カ国以上で事業展開されるにあたり、ビジネスプロセスを世界規模で標準化するなど、グローバルレベルでの事業の最適化を追求されています。人事面においても、グローバリズムに基づいた経営が行われていると聞きますが。

小出

当社の従業員数は約5300人と、国内のベンダーの中では、さほど規模の大きいほうではありません。“ジャイアンツ”ではないからこそ、海外のリソースの活用が不可欠になります。そしてHPにとって、多様性は強力なビジネスツール。ですから、米国の本社にしろ、他国の事業所にしろ、エクゼクティブチームの顔ぶれからして米国人ばかりではない。国籍は全くバラバラです。

日本HPの場合も、上司が海外にいる、あるいは部下はアジア各国にいるというケースは多い。部下と上司が電話やWebを通じて、英語で報告や会議をするということはしょっちゅうですね。日本国内で日本人同士集まり、日本のためだけに仕事する、という考え方は捨て去るのが前提です。

最近の若者は内向き志向だといわれますが、当社では新卒、中途採用でもグローバル志向の高い人を集めています。彼らの活躍、キャリアを後押しする制度もいろいろあります。

たとえば、「社内公募制度」。日本に限らず全世界で公募している職種をリアルタイムに閲覧し、チャレンジしたい職種にオンラインで応募できる制度です。日本HPだけでなくシンガポールHPでも、米国HPでも、ポストが空けば国籍を問わず手を挙げることができます。

――やる気と能力があれば、170カ国が活躍のステージとなる。

小出

その通りです。通常、人事異動は会社都合が優先されるもの。ですが当社では、お客様にご迷惑がかからない限り本人の希望を尊重します。一般的なFA制度に比べ、かなり徹底された仕組みだと思います。実際、国内外を問わず、人事異動者の7割が自ら希望して異動しています。

ただ、もちろんそこには競争もある。基本的に募集情報は社内公募欄と同時に、外部向けの人材採用欄にも掲載されます。自分の狙ったポストを獲得するには、社内と社外、両方の競争に勝ち残らなければならないわけです。

――非常に厳しい環境ですね。

小出

そうですね。しかし、自由でフェアな競争こそが会社を健全化し、風通しをよくすると信じています。

キーワードは「変化」。変化を恐れず、常にアンテナを立てて見極めることが、グローバルな働き方には不可欠なのです。

そもそもHPは変化を遂げながら成長を続けてきた会社です。創業以来、M&Aを繰り返しながら、その度に新たな付加価値を獲得し、そのDNAを進化させてきました。その姿勢は、今もこれからも変わりません。

もちろん、その一方で不変のカルチャーもあります。当然ながら、「HPWAY」は、不変のカルチャーです。ベースにあるのは、「顧客からの尊敬と信頼の獲得」「適正な利益」「市場でのリーダーシップ」「成長」「働く人へのコミットメント」「リーダーシップの発揮」「良き市民」の7 項目ですが、どんなに経営環境が厳しくとも、守り続けなければならない理念ばかりです。

そして私たち日本HPにも、外資系企業でありながらずっと保ち続けている日本的な側面があります。他の外資系企業に比べ、人を尊重する傾向が強いと思います。「メイド・イン・トーキョー」をスローガンとして、東京都昭島市に工場も持っています。地域貢献にも熱心です。いずれも尊重すべき文化ですね。

しかし、大切なのは、不変なものを守りながらも、変化に柔軟に対応していくこと。これは、個人においても同じです。

――自由な反面、競争の激しい職場ではその分、自律を求められますね。

小出

当然です。ひとたびマーケットに出たら、社名ではなく、自分のブランド、すなわち“自分の暖簾(のれん)”でどこまで勝負できるかが問われます。

そして、自分のブランドを築く一番の近道とは、お客様との信頼関係を築くことです。お客様のストレートなご指摘ほど勉強になるものはない。現場こそ修業の場なのです。

私も若い頃は、朝から晩までお客様先に出向いて働いていましたが、会社が教えてくれることは3割程度で、あとはお客様から教わったという思いが強い。こうした努力の積み重ねが、やがては自分のブランドになっていくのではないでしょうか。

ですから、新入社員には常々、「誰があなたたちの給料を払っているのかをいつも意識しなさい」と伝えています。お客様がHPの製品やサービスに対してお支払いくださるからこそ、自分たちの給料が出る。社員は上司にではなく、お客様に貢献することにこそ、意識を集中すべきなのです。

全社員がワンチームになる協働意識を高めるには

――自律的なグローバル人材を育てる一方、社員全員がワンチームになれる組織づくりを進めておられると聞いています。2011年6月には、都内7ヵ所あった拠点のうち、5ヵ所を江東区大島の新社屋に集め、従来からのフリーアドレス制をより拡大した職場環境を整備されました。

小出

本社屋のフロア面積は5500㎡ほど。サッカーコート1面くらいの規模に相当します。本社屋で働く7割程度の人たちは、基本的に自分のデスクのないフリーアドレスで作業し、広いフロアを自由に行き来しています。おかげで経理、ハードウエア開発など、部門ごとにバラバラだった人の動きに変化が生じ始めています。

物理上の壁を取り払ったワークプレイスで働いていると、不思議なものでメンタル面の壁も感じなくなっていく。セクションごとの精神構造上の壁をなくし、新しいものを創る機運を高めたいと考えています。

――セクショナリズムを乗り越えるとは、何が変わるということなのでしょうか?

小出

今のように変化のスピードの激しい時代においては、セクション単位の働き方では限界があります。

電話を例にすればわかりやすい。高度経済成長期には、安い黒電話を大量に造ればどんどん売れた。ところが今やさまざまな携帯端末、スマートフォンが出揃い、市場はまさに飽和状態。簡単には売れません。GDPも下手をすればマイナスになりかねない時代ですから、なおさらデマンドが生まれにくい。

こうした市場に適応するためには、効率性だけを重視していてはダメ。新しい需要を引き出すイノベーションが必要です。

とはいえ、一人の枠に閉じこもっていては、イノベーションは生まれようがありません。革新性とは、コラボレーションによってもたらされるものだからです。

―― 知と知の結びつきから、革新性や創造性が生じるのですね。

小出

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:3,049文字

/

全文:6,098文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!