J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

内定時からの英国研修で 企業理念を体感させる

「英国風PUB」というスタイルの飲食店を運営するハブ(HUB)。
2008年に、過去に行ってきた研修を整理し「ハブ大学」へと体系化させた。
内定者の英国研修や店長育成の研修などを通じて、英国PUBの文化ごと
日本に伝える店舗運営を担う、自律型人財の育成を行っている。


ハブ 代表取締役社長 太田 剛氏(おおた・つよし)
1961年兵庫県神戸市生まれ。大阪経済大学経営学部卒業後、英国風PUBという業態に惹かれ、1983
年旧ハブに入社。営業部長、取締役営業部長、2001年取締役営業統括本部長などを経て、2009年代
表取締役社長に就任する。「商売は人がすべて。人財育成をしっかりし、地域に根ざした店をつくる」
をモットーとしている。

ハブ
1980年設立(旧ハブ:ダイエーの100%子会社)。
ダイエー創業者中内㓛氏が渡英の際、英国PUB
文化に感動し、日本で広めたいとの思いからグ
ループ内で事業化を行う。その後の外食事業再
編等を経て、1998年に現在のハブが設立。2006
年大阪証券取引所ヘラクレスへと株式上場を果
たす。
売上高:56億2000万円、従業員数:151名(2010
年2月期)。

取材・構成/福田敦之、 写真/石原野恵

「英国PUB文化」を日本に根付かせるために

1980年にダイエーグループの外食事業として誕生したハブ。神戸の三宮に第1号店をオープンしたのち、親会社の再編を経て、現在、日本の外食産業に「英国風PUB」という新たなジャンルを確立するまでに成長した。

同社では、店舗運営を支えるスタッフを「人財」と呼び、企業内大学「ハブ大学」において研修を実施している。ハブ大学ができる以前も、同社は各種の人財育成施策を行ってきた。ハブ大学は、2008年にそれらを集約したものである。企業内大学があるということ自体、どうしても育成が現場偏重になりがちな飲食業には珍しいともいえるだろう。同社の人財育成について、代表取締役社長の太田剛氏は次のように語る。「英国風PUBをモデルとした当社の事業は、従来のように単にアルコールを提供して収益を上げるだけではなく、“文化”のある空間として、お客様にサービスを提供したいと思っています。そのためには、スタッフにも新たな視点が求められます。単に商売がうまいだけでなく、プラスαの何かを考えられる自律型人財の育成を行うことが必要なのです」(太田氏、以下同)

太田氏が同社に入社したのは1983年のこと。新卒として就職活動をする中でHUB三宮店を訪れ、「英国風PUB」を日本に導入したこの業態に、強い可能性を感じ、入社した。

しかし、その後ハブは親会社の事業再編により、順風満帆とはいえない時期を迎える。太田氏自身も「英国風PUBのスタイルは、本当に日本に受け入れられるのだろうか?」と問題意識を持っていた頃、当時の社長・金鹿研一氏(現・会長)から、「あなたはハブをどういう会社にしたいのか?」と問い掛けられた。その時、太田氏は入社を決意したHUB三宮店の光景が頭に浮かんだという。「やはり自分がやりたいのは、英国の文化に根差した、本当の“英国風PUB”です」と話し、太田氏は1995年、初の渡英を経験する。「 英国のPUBは、会社帰りに少し立ち寄ってリフレッシュしたり、友人と会話をしてコミュニケーションする場であり、1つの文化として生活に根付いていました。生活に密着した形で、人々に活力を与える場だったんです。このPUBの文化ごと、日本の土壌に改めて持ち込みたい――実際に現地で本場のスタイルに触れることで、想いを新たにすることができたのです」

帰国後、太田氏は現地での経験を金鹿氏に報告。金鹿氏をリーダーとして、現在の同社のスタイルに至るビジネスモデル確立に全社的に取り組むことになった。その過程において、人財育成についても徐々に仕組みを構築していったという。

本場の英国PUBを知る内定者英国研修

英国PUBの業態を文化ごと実現させる人財を育てるには、いくら口で説明しても伝わらない。「自分と同じように、当時のメンバーにも英国に行ってもらって1回本物を見せれば、自分たちがどういう方向に進むべきか、事業をどうすべきかを実感できるのだと明らかになってきました。そこで、入社前の時点でその経験をしてもらえれば、入社後のベクトル合わせができるのではと考えたんです」

こうして理念を体感してもらう意味での「百聞は一見に如かず」を実現するため、1998年から、内定者に本場英国PUBを視察してもらう「英国研修」が始まった。内定前に本場の経験をすることで、入社する4月1日の段階で、「私は何をしたらいいですか?」ではなく「私たちはこうしたい。たとえば、自分たちが見てきた英国のあのPUBではこうでした」という会話ができる。この違いが、後の成長に大きく影響してくるのだ。

この「英国研修」には、在職中の先輩社員も同行する。在職中の社員の場合、参加資格は成績優秀者へのインセンティブとして付与される。

内定者と先輩社員が同じ研修に参加することで、お互いにコミュニケーションを図ることができ、内定者が入社前に組織になじむことができることが重要なポイントだ。

“PUSH”ではなく“PULL”の教育を

同社のスタッフ・社員育成のもう1つの特徴は、整備された教育を行っていることだろう。一般的に外食産業では、とにかく現場で仕事を覚えてもらう育成の形が中心となる。店長の後姿を見て人を育てるスタイルにも、もちろん良い点はあるが、いい換えればそのやり方は店長の“自己流”でもある。つまり、店長次第でよくも悪くもなってしまうという側面があるのだ。「私も店長をしていた時、自分はこれでいいと思いながらも、不安は拭いきれませんでした。ですが、私自身、研修を受けて講師から話を聞いた時、自分のやり方が論理的に裏づけされたと感じたんです。その経験が、店でリーダーシップを発揮していくうえで大きな自信となりました」

こうした実感をもとに、先述した英国研修の他にも、専門技術やオペレーションを学ぶ研修などさまざまな形で研修や育成施策を実施していく。そして2008年、今まで行ってきた研修プログラムを「ハブ大学」へと集約。カリキュラムへと落とし込んでいく時に心がけたのは、現場のスキルなどの技術面と、知識・理論をしっかりと併せ持つものとすることだ。現場での経験に、知識と理論が加わることで、初めて人が育つと考えるためである。

手厚い教育の場を用意しつつも、あくまで重要視しているのは、この研修をベースに、社員一人ひとりが自ら「英国PUB」文化を体現するために何をすべきかを考えて動くことだという。「我々ができるのは、従業員に対して機会や場を設定するところまで。教育というのは基本的に“PUSH”ではなく“PULL”で行うものだと思うんです。押し付けて、勉強しろということではない。研修の後は、自主的に学ぶしかありません。そうでなければ、企業内大学も経営者の自己満足にしか過ぎませんから」

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