J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年04月号

船上での仕事を陸上で振り返る 若手が育つ江戸前漁師の学び

都会の真ん中にある千葉県船橋港で伝統的な旋網漁を行う大傳丸。この船の乗組員14人中12人
が、実は漁業とは無縁の世界から漁師を志してやってきた“転職組”。「仕事は見て盗め」では育
たない今の若者に、漁師の技はどう伝えられているのでしょうか。


中原 淳氏( Nakahara Jun)
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。
「大人の学びを科学する」をテーマに研究を
行う。共著に『リフレクティブ・マネジャー』
(光文社)など多数。
Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/
Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上佐保子、写真/真嶋和隆、イラスト/カワチレン

未経験可、漁師募集

今回、やってきたのは千葉県船橋港。ここはすぐ近くに湾岸高速が走り、四方をコンクリートの建物に囲まれた一角にある小さな漁港です。

意外なことに、この船橋漁港は、スズキの水揚げ高日本一。他にもコハダ、サヨリ、イシモチ、アジ、ボラなどの魚が獲れます。脂の乗りもよく、鮮度がいいことから、市場でも人気が高いといいます。「『東京湾の魚は水質汚染で食べられない』と思っている方が多いかもしれませんが、それは間違い。東京湾はとても豊かな漁場です」

そう話すのは旋網船団大傳丸を率いる船主兼漁労長の大野和彦さん。船橋で江戸前漁業の伝統を受け継ぐ網元の3代目です。

日本の漁業は今、高齢化と後継者不足に悩まされています。船橋港でも、全盛期の昭和30年代に18あった巻網船団が現在は3つだけになり、3000人以上いた漁師は、現在は100人余になりました。それも60歳以上が過半数を占めています。

漁師は世襲されるのが一般的。漁業組合や漁業権の問題があり、漁業に縁のない人が入りにくい世界です。これが漁師の高齢化と後継者不足に拍車をかけています。

大野さんも大学で貿易やマーケティングを学び、卒業後は漁師ではなく、商社で働こうと考えていました。ところが、大好きだった祖父から、死に際に「頼んだぞ」といい残され、船に乗ることを決意することに。当時「最年少大卒漁師」としてマスコミにも取り上げられたそうですが、「この現代社会に、漁師でいいのか、と不安で、船上で経営学の教材テープを聞いたり、日経新聞を読んだりして、親父からよく怒られた」といいます。

そんな大野さんもやがて漁師の仕事に喜びを見出すようになり、船橋の巻網漁の伝統を残していきたい、と考えるようになりました。

しかし、すぐに人材不足という壁にぶつかります。そこで大野さんは、それまでの口コミに頼った求人ではなく、求人誌に広告を載せることを思いつきます。しかも「月給25万円以上、経験不問」とし、寮や労災、雇用保険まで整備しました。この大胆な試みにより、漁業と無縁な世界から漁師を志す若者が全国から集まるようになったわけです。

旋網漁船での若手の育ち方

応募してきた人は面接後、体験乗船し、問題なければ3カ月の試用期間を経て採用します。とはいえ最初は威勢のいい若者も、実際に残るのは「10人に1人くらい」とのこと。

出漁は夜9時頃。夜を徹して働き、それが明け方まで続きます。船橋の旋網漁は2艘の網船で半円を描くように投網して魚群を囲いこみ、網を巾着のように絞り込んで引き揚げる漁法です。そして、水揚げされた魚は近くで待機している運搬船に積み込まれます。

こうした中、まず新人は船に引き上げた網を次の投網に備えてきれいにたぐって畳む「網たぐり」から仕事を覚えます。網は直径300m、全周約940mもあり重労働です。2年目からは網の端の「アバ(浮き)たぐり」や「ブチ(おもり)たぐり」を覚え、その後は、網を引き揚げる機械の操作などを経て、操船など、より技術と経験が必要な、責任ある仕事を任されるようになります。

いつ出漁し、どの漁場に向かうのか、何の魚をどの程度獲るのか、といった意思決定や、投網のタイミングを指示するのは、船のトップである漁労長の仕事です。

振り返りと「理論漁師学」講座

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