J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2011年04月号

個人の成長と組織の改善は 対話とPDCALから

振り返りができないのは、
振り返るための材料=事実がないからではないか。
事実を記録し、見える化すれば、思いがけないところまで
人は成長し組織は変わる可能性がある――
そんな希望を、福井キヤノン事務機の変革の足跡に見る。

玉木 洋氏  代表取締役社長
岩瀬 裕之氏  専務取締役

1973年設立。キヤノン複合機をは
じめとする各種情報機器、コンピ
ュータ、通信機器の販売を行う。
複合機につながるネットワーク設
計や構築、パソコン等の情報セキ
ュリティ対策、ネットワークサポー
ト等のサービスと、これらを経営
課題解決のために活用するソリュ
ーションも提供。資本金:1000万
円、売上高:13億3000万円(2010
年6月実績)、社員数:54名(2011
年1月現在)

取材・文/和田東子、写真/本誌編集部

「事実」と「対話」がPDCALには不可欠

福井キヤノン事務機は、コピーやファックスなどのオフィス用事務機器販売からスタートした販売・保守会社である。インターネットやパソコンが本格的にオフィスに浸透していった1990年代後半には、業務転換の必要性を強く認識していた。当時の状況について岩瀬裕之専務取締役は次のように語る。「事務機器を売って保守点検などのサービスで稼ぐ。これが従来のビジネスモデルでした。しかしIT化が本格化し、お客様の業務課題を発見し解決するという、ソリューションの提供が求められるようになったのです。簡単にいえば『これ直して』ではなく、『これどうしたらいい?』と相談される存在になること。それが当時の我が社の課題でした」

そのため1998年には、玉木洋社長のトップダウンで経営改革がスタートした。そこで意識されたのが「PDCAL」の徹底だったという。

PDCALとはPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)→Learn(学習)のサイクルで業務を回すという考え方。一般にはAまでを考えるが、同社では「Learn」を追加している(図表1)。「PDCAは、同じことを繰り返すのではなく、クオリティアップしていくものでなくてはなりません。改善を繰り返し、改善限界が来ればやり方を変えるなどして“革新”していかなくては」(岩瀬氏)――そのためには、業務を通じて個人が学んだことを組織学習に結びつけていく学習フェーズが不可欠なのだ。

PDCALをうまく回すためのポイントは、「目的の共有」と「事実の見える化」、そして「対話」にある。経営理念について皆で話し合い、目的を腹に落とす機会を設け(同社ではチームで話す「Yume-Talk」という活動を行う)、さまざまなことを数値にして比較検討を可能にする。改善策の検討や実行状況の評価などもその数値をベースに考えていく。

しかしどんなに良い改善案でも、数値にして論理的に説明しただけでは人は動かない。大切なのは行動してもらうことだ。そのために必要なのが「対話」であり、対話を通じて、評価(Check)・改善(Action)・学習(Learn)をしっかり行うことがPDCALの要であり、「省察」(内省)であるというのが玉木氏の論である。

PDCALが機能する前提には、企業理念、戦略と部門、チーム、そして個人の目標が連鎖していること(目標連鎖)が不可欠だと玉木氏はいう。全社的な目標連鎖を実現する際にも重要なのが「対話」だ。対話は個人の意識と行動を組織の成果に結びつけるものであり、この仕組みを同社では「目標連鎖の仕組み」と定義している(図表2)。

営業チームが激変したPDCALの徹底

では「目標連鎖の仕組み」をベースに、具体的にはどのようにPDCALが回ってきたのかを見ていこう。最初に営業部門の取り組みを紹介する。

営業部門の改革は玉木氏が自ら陣頭指揮を執り、2010年1月から開始された。まず、4名からなる小さなチームをテストケースとして指名。このチームはリーマンショック以来の市場低迷の中で営業目標を達成できていないチームであり、改革は「このチームが成功するためにはどうすればよいのか」を4名で話し合うところからスタートした。

話し合いを元に業務改善目標を設定し、業務改善に必要な活動を明確化。その活動の内容を整理し、お客様とのやり取りの仕組みを改善する「顧客管理担当」、営業活動の管理を改善する「プロセス管理担当」など役割を設け、4名で分担した。さらに各人は自分の担当分野について必要な行動を考え、日々の営業活動の改善行動と並行して実施できるようプランニングする。

玉木氏は営業部門のPDCALの核として「目標連鎖シート」を導入した。このシートは各人の行動を記録し、振り返りを行い、次の行動目標を設定するために使用する。振り返りは月に1回、1名につき1時間の個人面談の形で実施された。

目標連鎖シートには「革新(成長)テーマ」「6カ月後の目標」「当月の実践項目」などを記入する。実践した行動は、次の6つの点で考えて記入し、面談前に玉木氏に提出する。

①創意工夫したこと

②協働したこと

③省察したこと

④改善したこと

⑤それからの成果

⑥課題

玉木氏はそのシートを確認し、コメントを記入して面談にのぞむ。

面談について玉木氏は、「各自の行動や思考のつながりを一つひとつ質問していきながら、本音を引き出す必要がある」と強調する。「質問のポイントは、うまくいかなかったことを確認し、なぜその行動をしたのか、その前にどういったことを考えたのかを引き出すこと。うまくいっていないことは、営業としてのストーリーが描けていないことが原因です」

一人ひとりの活動の“事実”は、チーム全体の活動を管理する「実践記録シート」に記入される。実践記録シートでは「財務」「お客様」「プロセス」「人材・組織」の4つの大項目のもとに各人の業務改善行動が整理され、チーム全体の連携が一目でわかるように工夫されている。

一人ひとりが自分の行動(Do)を振り返り、改善点を考え(Check)、再び行動して(Action)そこから学ぶ(Learn)――このサイクルを回せるよう支援するのが、面談での「対話」であり、面談を通じて、自分で考え自分で行動できる自立した人材が育成されるのだと玉木氏はいう。

この業務改革をスタートしてわずか3カ月後、上半期の目標達成率が54%だったこのチームは、下半期の目標達成率を124%にまで向上させた。2011年2月現在、玉木氏は別チームにも同様の改革をスタートさせている。

リーダー職不要で活発化改革改善ミーティング

皆が自立するPDCAL。ストーリーを追う対話を粘り強く行い、自走し始めたチームには、別の方法も必要だ。

オフィス事務機器の保守点検を行うサービス部門でも目標連鎖の仕組みが回っているが、やり方を変えている。従来サービス部門では、営業部門と同様リーダーとチームメンバーによる振り返りミーティングが行われていた。しかし現在はこれをあえて設定していない。このような振り返りは日々のマネジメントで十分消化できると考え、代わりに年代別のミーティングを開始したのだ。

このミーティングでは20代~30代前半、30代、40代などの年代別に集まり、職場の課題について話し合う。部門横断的なチームとなり、連携が進む効果がある。もう一つ見逃せないのは、このミーティングにリーダー(管理職)が出席しないことだ。サービス部門を取り仕切る岩瀬氏は語る。「リーダーが同席すると、どうしてもリーダーと部下の関係になり、自由な意見が出にくい。またリーダーの意見にメンバーが無意識に従おうとしてしまいます。リーダー不在のほうが、自分たちが自分たちの仕事をどうするかという主体性のある議論ができます。

リーダーは意見を求められたらいいますが、『これをやって』と頼まないこと、とルールを決め、メンバーたちが自ら考える場としています」

もちろん一足飛びに、リーダーが出席しなくとも活発な議論が成されるようになったわけではない。同社が10年以上にわたって改革に取り組み、振り返りを軸にした省察と改善活動を継続した結果である。チームメンバー一人ひとりがリーダーとの対話を通じて経験から有用な教訓を引き出し(概念化)、その教訓がチーム内で共有されることでチーム学習が進んできたのである。

サービス部門が変革「ダウンタイム60」

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:3,531文字

/

全文:7,061文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!