J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年08月号

TOPIC 2 特別インタビュー:従業員エンゲージメントとタレントマネジメントの新潮流相互コミットメントで生まれる会社と従業員のエンゲージメント

これまで日本企業は、従業員満足を高め、企業へのロイヤルティを持たせることを重視してきた。しかし、グローバル規模で雇用の流動性が高まり、個人が自律的キャリアを求める中で、もはやそれだけでは十分ではない。そこでカギを握る概念が、「エンゲージメント」だ。今回はエンゲージメントに関する第一人者であるボブ・ケラー氏と、タレントマネジメントソリューションを提供するシルクロードテクノロジーのCMO、ウィリアム・エド・ヴァセリー氏に、従業員エンゲージメントについて聞いた。

ボブ・ケラー(Bob Kelleher)氏
The Employee Engagement Group(従業員エンゲージメントやリーダーシップに関する米国のコンサルティングファーム)の創設者であり、現CEO。従業員エンゲージメントやリーダーシップなどに関する講演、著作、コンサルティングなどを行う。
ウィリアム・エド・ヴァセリー(Wm. Edward Vesely)氏
クラウドベースのタレントマネジメントソリューションを提供するSilkRoad technology 社 (米国)の最高マーケティング責任者(CMO)。

取材・文・写真/石原野恵

グローバルで業績を生む従業員エンゲージメント

外国人従業員の採用、グローバル人材の育成といったニーズが高まる今、「エンゲージメント(Engagement)」に関する新しい定義が注目され始めている。

エンゲージメントの定義はさまざまあるが、25年にわたりエンゲージメントに関する調査研究、施策の策定・実施を行ってきたボブ・ケラー氏は、エンゲージメントを「企業が高パフォーマンスを生み出すために、従業員の潜在能力を引き出すこと」と定義している。「今日ほど、企業が従業員のエンゲージメントを高める必要性を問われている時代はありません。今いる従業員のモチベーションを高めるために、そして将来の従業員を雇用するために、企業が従業員のエンゲージメントを引き出すことが不可欠だと考えています」(ケラー氏、以下同)

この背景にあるのは、いうまでもなくグローバル化という大きなシフトチェンジである。「これまで企業がダイバーシティを促進するにあたって目的としていたのは、職場の平等性を保つことでした。しかし今求められているのは、イノベーションを促進するためのダイバーシティです。ダイバーシティの促進によって、多様な人のアイデアを取り込んでイノベーションを起こし、グローバルで活躍できる力を持つ。これが今企業に求められているのです」

もう1つの大きな変化に、テクノロジーの進歩がある。今や、誰もが簡単に世界中の別々の場所にいる人々とオンラインで交流することができる。こうした状況において、企業の人事・人材開発担当者は、従業員となる人的資源はどこにいるのかを広く見据えて活動していく必要があるだろう。「これは、人事・人材開発担当者にとってまたとない絶好のチャンスです。従来の人事・人材開発担当者の役割は、どちらかというと企業の発展を側面から支援することでしたが、これからは、人事のプロこそが先頭に立って、企業のグローバル化を牽引する役割を担っていくことができるからです」

実際に、プライスウォーターハウスクーパーズによる2011グローバルCEO調査の結果によれば、83%の役員が人材管理戦略を最大の懸案であると答えているという。その時に重視すべきポイントが、企業が従業員の潜在能力を引き出し、従業員がアイデアと物事を解決する能力を持って企業にコミットする相互関係、「エンゲージメント」なのである。

エンゲージメントは従業員満足ではない

エンゲージメントは、ともすると従業員満足(ES)と混同されやすいが、この2つには明確な違いがある。ケラー氏の定義ではこうだ。「ESとエンゲージメントの違いは、企業と従業員の相互のコミットメントがあるかという点です。ESというのは、会社が従業員に対して何かを与える――従業員の視点からいえば、給料や保険といった報酬を“GET”するという一方通行の関係です。一方エンゲージメントは、従業員と会社とのパートナーシップ。もちろん会社のほうから研修や昇進などの機会を“GET”することはありますが、同時に“GIVE”――従業員が会社に対して与えるものがなくてはなりません」

つまり、会社が社員の能力開発を行うのと同様に、従業員も会社の業績を上げるべく、自発的に努力する。相互のコミットメントが高まることで初めて、双方のパフォーマンスも高まっていくのだ(図表1)。

では、従業員が会社に対して忠実であれば――つまり、ロイヤルティがあれば良いかというとそうではない。グローバル化の文脈において、ロイヤルティはもはや事業を動かす促進力にはなり得ない。「 米国では、22歳の新卒社員は20ヵ月ごとに会社を変えているという調査結果があります。私が先日訪れた中国では、労働者は高い給与を求めて勤務先企業を次々と変えることが通常だと聞きました。雇用主に対して忠誠心を持つのではなく、自分自身に忠誠心を持つという形に、ロイヤルティは変化しているのです」

世界的にみて、雇用の流動化は今後ますます進展する。労働力の世代移行も重要な要因だ。「今後労働力の中心を担う若い世代は、従来とは異なる価値観を持っています。“仕事”の定義も変わっていくでしょう。こういった若者は、我々の世代ほどは企業へのロイヤルティに価値を置きません」

とはいえ、ロイヤルティもESも重要なことに変わりはない。特に日本企業にとって、自社への帰属意識は長らく重要視されてきた。しかしそれゆえに、中国や韓国などの現地採用の従業員が雇用主へのロイヤルティを持たないことに対して強く危機感を持ち、マネジメントに苦労するといった問題もあった。

また、業績に貢献できない従業員が忠誠心だけを持っていても、会社に良い影響は及ぼさず、むしろリスクになりかねない。ロイヤルティが重要であることに変わりはないものの、それだけでは十分ではないというのが実態なのだ。

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