J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年10月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 ダイナミックに柔軟に体制を変えてコラボするサッカー型組織をめざす

高度にネットワークされたプロフェッショナルの集団――従来の階層型組織とはかけ離れた企業風土を持つシスコシステム。コラボレーション・アーキテクチャーの構築、企業カルチャーの浸透により、高い価値を顧客にもたらす仕組みを生み出した。その強みの源泉は、「企業風土づくり」にあったという平井康文代表執行役員社長に、その思いを聞いた。

平井 康文(Yasufumi Hirai)氏
生年月日 1960年11月17日出身校
九州大学理学部数学科主
な経歴
1983年4月 日本IBM 入社。米IBM出向、日本IBM社長補佐、理事・ソフトウェア事業部長、米IBMソフトウェア・グループバイスプレジデントなどを歴任
2003年3月 マイクロソフト入社取締役エンタープライズビジネス担当、常務執行役、執行役専務を歴任
2008年2月 シスコシステムズ入社。副社長エンタープライズ&コマーシャル事業担当
2010年8月 代表執行役員社長就任。
現在に至る

シスコシステムズ合同会社
米国シスコシステムズの日本法人で、1992年設立(米国本社は1984 年創業)。ネットワーク システム、ソリューションの販売や関連サービスの提供を行う。
資本金:4億5000万円、従業員数:1300 名(2012年2月現在)

ンタビュアー/西川敦子
Interview by Atsuko Nishikawa
写真/武島 亨
Photo by Toru Takeshima

これからの企業はサッカー型組織であるべき

――貴社は企業カルチャーの浸透や独特の組織づくりによって人材を育成し、スピーディな組織マネジメントを実現していると伺っています。まず、どんな人材づくりを目標としているかについてお聞かせください。

平井

最初にお断りしておきますが、弊社では「人材教育」を「人財共育」と捉え、トップ、リーダー、一般社員がともに育ち、育て合う企業でありたいと考えています。

これを前提としたうえで、日本の産業界において今、求められている人財とは、グローバル人財、そしてダイバーシティ人財でしょう。弊社の場合ももちろん同じです。

さらにこれらに加え、求められる要件として5つの単語で始まるコンピテンシーモデルを定義しています。

それは、C―コラボレーション(Collaboration)、L―学習(Learn)、E―実行(Execution)、A―加速(Accelerate)、そしてD―破壊(Disrupt)。これらは全世界におけるシスコの“ リーダーシップコンピテンシー”であり、「C-LEAD」と呼ばれています。採用面接、業績評価、幹部候補の育成と、あらゆるシーンで活用されます。

まず「Collaboration」ですが、事業環境が変化、拡大していく今の時代、「俺が、俺が」といった個人プレーでは満足な仕事はできません。単なるコミュニケーション(対話)を重ねるだけでもダメ。その次のステージ、つまりさまざまな人との協業、協調が必要です。

そして、切磋琢磨しながら自ら学び、周囲に学ばせる精神、向上心(Learn)も大切です。また、計画を単なる計画に終わらせず実行(Execution)し、戦略を加速する力(Accelerate)がなければなりません。

最後に破壊(Disrupt)ですが、これは「現状を打破する力」を指します。人はとかく安全地帯に安住しがちなもの。しかし、それではイノベーションは生まれてこない。常に「アウト・オブ・ボックスシンキング」―― 自分の小さな箱から外に出る思考でステップアップしていかなければなりません。

――「コラボレーション」が最初なのですね。どんなコラボレートをしていく組織づくりを実践しておられますか。

平井

我々がめざすのは「サッカー型組織」です。野球では、先攻と後攻が交互に入れ替わりますよね。スリーアウトになって初めて攻守が交代する。しかも、ベンチにいる監督のサインに従って動きます。その意味で、野球はいわば非同期通信型スポーツといっていいかもしれない。

しかも、メンバーはそれぞれ役割を担っており、役割を超えてチームに貢献することはない。たとえば、キャッチャーがライトフライを捕りにいくことは、まずあり得ません。

一方、サッカーはあの広いピッチの中で11人の選手が、ダイナミックにフォーメーションを変えながらボールをつなぎ、攻撃を行います。ゴールキーパーがシュートすることさえある。そして、いったんボールを奪われたら、今度はすぐ守備に回る。このダイナミックなコラボレーション、そしてリアルタイム性こそがサッカーの特徴といえるでしょう。

これからの時代は、階層構造型の組織、「コマンド&コントロール」で動く組織ではなく、サッカーのように、全員が自律的、かつ臨機応変に協働できる組織こそが望ましいと思います。

弊社の「バーチャルチーム」などは、まさにサッカー型組織の真骨頂といえます。アカウントマネジャー、担当SE、サービス営業などのプロフェッショナル人材が、高度にネットワーク化されたチームで協働し、部門や地域、国を越えたコラボレーションを実現します。

そこでは、ポジションにかかわらず誰もが自由に発言、議論し、そして挑戦できる。個人が持つ知識と経験をみんなで共有することで、自由で新しい発想、お互いを高め合う環境が生まれてくるのです。

――組織本位ではなく、あくまで顧客や事業本位にチームを編成するわけですね。少人数でも大きな価値を生み出せそうです。

平井

柔軟な組織づくりのため、弊社では役職を「役割」と捉えます。

たとえば私は残念ながら提案書を作れません。システムに障害が発生した際、機器を交換することもできません。ただ、皆が困った事態に遭遇した時、物事を判断することが私のできることであり、役割であると考えています。

つまり、私たちシスコシステムズの社員は全員、それぞれ異なる機能を担った平等な関係なのです。

したがって、弊社の組織図はピラミッド型の階層構造を成していません。しばらく前に、トップを一番下にし、次に社員が、てっぺんには顧客を配置した逆ピラミッド構造が良いとされたことがありましたが、当社の組織構造はそれとも違う。

現在は、私を中央に、役員が周りを取り囲む円形の組織図を作っています。将来は球の状態にしたいですね。あらゆる立体の中で表面積が最も大きい球になれば、それだけお客様と接する機会が多くなる。もちろんこれは、比喩のうえでの話ですが。

実は同じことを提唱している学者がいることを後で知りました。カナダのマギル大学経営大学院教授、ヘンリー・ミンツバーグ氏です。

彼は「右脳による経営」を提唱し、「頂点も底辺もない円形組織」を提案しています。その円形組織を発展させたものが「アドホクラシー型組織」だそうです。ビューロクラシー型の組織のように硬直化したものではなく、刻々と変化する状況や目的に応じ、臨機応変、かつ流動的に対応できる組織を指します。

実際、弊社のワークスタイルは、このアドホクラシー型に近いでしょう。トップから下りてきた方針や施策に従うのではなく、お客様に近い現場が自ら判断し、周囲を巻き込んでプロジェクトを進めるのですから。

「なんだかイケテル」が強さの証

―― 従来型の日本企業―― つまり、野球型組織では、上司、部下の関係が最小単位であり、組織の基本でした。サッカー型組織でベースとなるのはどんな関係でしょうか?

平井

フラットな組織においては、“横の関係”がモノをいいます。平等な立場でお互いを理解し共感し合うところから、コラボレーションが生まれるのです。弊社ではこうした関係を「シブリングエンパシー(Sibling Empathy)」と呼んでいるのですが。「兄弟姉妹の間柄における共感」といえばいいでしょうか。

もちろん、シブリングエンパシーは一朝一夕に生まれません。上司と部下の関係は簡単に構築できますよね。指示する側、される側という役割、立場がはっきりしていますから。

しかし、横の関係はそうはいかない。さまざまな組織間の壁、立場の違いによるしがらみを乗り越えなければなりません。お互いの価値観がよほどしっかり共有されていなければ、現実として、コラボレーションは難しいと思います。

そこでシスコでは、8つの文章からなる「シスコカルチャー」を定めてカードにまとめ、全社員に社員証と一緒に身につけてもらっています。これは、私たちの価値観のベースとなり、道しるべにもなるものです。

ただ当然ながら、配布して身につけてもらうだけでは何の意味もありません。価値観を共有するだけでなく、共感し、共鳴するところまでいかなければ、立場の違いを超えて同じゴールをめざすことはできない。ですから、弊社ではシスコカルチャーの意味をじっくり議論し合う場を設けるようにしました。

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