J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2012年11月号

Opinion 1 明るい職場をつくることが管理職を救う!

管理職が疲弊しているといわれて久しいが、何が管理職を疲弊させるのか。そして、管理職を元気にさせるために何ができるのか。『はじめての課長の教科書』の著者であり、企業人でもある酒井氏に聞いた。

酒井 穣(さかい・じょう)氏
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。TiasNimbasビジネス・スクール経営学修士号(MBA)首席取得。商社勤務後、オランダの精密機械メーカーに転職、オランダに移住する。2006年、ベンチャー企業J3 TrustB.V.を創業し、最高財務責任者(CFO)としての活動を開始。2009年、フリービットに参画するため帰国。特定非営利活動法人NPOカタリバ理事。沖縄県キャリア形成支援プログラム協議会員。著書に『はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。近著に『きみたちはどう迷うか』(大和書房)。

[取材・文] = 木村美幸 [写真] = 本誌編集部

中間管理職のつらい立場とは

現場情報と経営情報の両方が集まるポジションにいて、現場に対して具体的な決断を下す中間管理職※1。機能として極めて重要であり、組織の要といっても良いだろう。

その彼・彼女らの立ち位置を政治的な視点で眺めると、“利害が真っ向から対立している紛争地域の中心部”とも表せる。なぜなら、部下である一般従業員は報酬の向上を願い、上司である経営陣は常日頃から人件費の抑制を望んでいるのだから。中間管理職は、まさに両者の間で板挟みになっている格好で、その結果、彼・彼女らは2つの役割を果たさざるを得ない。

1つめは経営陣の代弁者。“自分はもっと高く評価されるべきだ”と考え、報酬の向上を求める部下に対して、その人の業務における問題点を指摘し、「だから、このような評価になるのだ」と説明しなければならない。

収益の低下で給与の原資自体が減っている企業であれば、個人的には成果を上げている部下に対し、本来よりもずっと低い評価を与えなければならないケースだってあるだろう。

もう1つ中間管理職に求められるのは、部下の保護者のような役回り。“もっと少ない人数で仕事ができるはずだ”と人員の削減を求める経営サイドに対して、現状のメンバー数が必要である理由を主張しなければならない。これは、自分の人事権を持つ上司に逆らうことを意味するのだから、精神的には非常にきつい。

部下に多くの仕事を割り振らなければならない一方で、残業禁止を伝えなければならないなど、良心の呵責を覚える人も多いだろう。

これら2つの役割に加え、さらに中間管理職の人たちを圧迫しているのは、一般従業員からは成長の機会を、経営からは高い目標設定を求められていること……考えてみてほしい。一般従業員はまだ自分は成長や教育が必要な存在だと主張しながら、より高い報酬をほしがり、経営は高い目標をクリアしてほしいといいつつ、人件費は抑えたいと望む。このような矛盾に満ちた要求を両者から突きつけられる中間管理職が、いかに厳しい役どころであるか、きっとご理解いただけるだろう。しかもこうした状況は、中間管理職が自身の力で打開することは事実上不可能だ※2。

事態を劇的に好転させるポジティブ・サイクル

そして誰もが知る通り、中間管理職の人たちは、ほぼ例外なく忙しい。それにもかかわらず、なかなか成果が上がらず、山積みになっている仕事を前に疲弊し切っている。

この、忙しくしているのに成果が上がらない状態を、“busy idleness(ビジー・アイドルネス)”と命名したのは組織戦略論の権威であるスマントラ・ゴシャールだ。彼とリーダーシップ研究の専門家であるハイケ・ブルックは多くの企業でマネジャーを調査し、マネジャーのタイプを“集中力”と“エネルギー”という2軸によって4つに分類している(図表1-1:集中-エネルギーマトリックス)。物事を“達成する人(ThePurposeful)”とは、集中力とエネルギーが共に高い人。彼らの調査によれば、残念ながらわずか10%しか存在しない。そして集中力はあるのにエネルギーが不足している“傍観者(TheDetached)”は20%、集中力もエネルギーもなく、全てを先伸ばしにする“ダメな人(The Procrastinators)”が30%となっている。

そして残る40%が、エネルギーが高く、集中力が不足している“ムダに忙しい人(The Frenzied)”だ。日本人は、このタイプが圧倒的に多いはずだ。典型的なのが、夜遅くまで仕事する元気があるのに、ちっとも成果が出ない人。この“ムダに忙しい人”から脱して“達成する人”になるために必要なのは、いうまでもなく集中力。

とにかく達成したい仕事だけに集中し、それを成し遂げることだ。すると「達成」をきっかけに、その職場は明るくなる。

明るい職場。この一見、ビジネスの成果とは無関係に見えるものが、実はあらゆる業務フローの円滑化に絶大な効果をもたらすため、結果的に中間管理職の多くの問題を解決してくれる、というのが私の見解だ。

それを裏づけてくれるのが、ポジティブ心理学と呼ばれる分野で広く知られる、バーバラ・フレドリクソンの「拡張-形成理論」。図表1-2の「明るい職場のポジティブ・サイクル」は、その理論をベースに私の解釈を加えたものだ。ここに書かれている「行動の拡張」を理解していただくために、まずは質問をしよう。

プロフィギュアスケーターの荒川静香さんは、スケートを始めた子ども時代から、トリノオリンピックで金メダルを取るまでに何回転んだか? なんと2万回という。一般のスケート選手は、こんなにたくさん転んではいない。なぜなら、自分の跳べるジャンプしか跳ばないから。荒川さんは金メダルを取るためには何が必要かを知っていて、それに向かってチャレンジしたからこそ、2万回も転んだのだ。彼女のように転ぶことこそが“行動の拡張”。転びながらチャレンジを繰り返すことで、人間は成長していく。

ただし、行動の拡張は明るい職場でなければ起こらない。なぜなら、メンバー同士が良好な関係にある職場に比べ、明るさのないギスギスした職場ではチームメイトの失敗に対する許容度が圧倒的に低くなってしまうから。職場の明るさというのは、そこに所属する人間たちの成長に極めて深くかかわっている。

失敗が許されない職場だと、行動の拡張が起こらないので、メンバーの成長がなく、職場の雰囲気はずっと暗いまま……。

反対に明るい職場をつくれば、行動の拡張が起こってメンバーみんなが成長する。するとますます職場は明るくなり、明るい職場は行動の拡張を促す……と、ポジティブなサイクルは自動的にぐるぐる回り続ける。

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