J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年07月号

ID designer Yoshiko が行く 第73回 世界遺産は人も育てる語り部たちの熊野古道


寺田 佳子(てらだ・よしこ)氏
ジェイ・キャスト執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラーニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、eLP(eラーニングプロフェッショナル)研修委員会委員長、熊本大学大学院教授システム学講師、JICA─NET Instructional Design Seminar講師、ASTD(米国人材開発機構)会員。著書に『IT時代の教育プロ養成戦略』(共著、東信堂)など。http://instructionaldesign.blog97.fc2.com/

富士山が世界遺産に内定(?)してからというもの、ちょっとした世界遺産ブームである。地元は官民あげてお祭り騒ぎだが、登録されることより、実は登録した後の維持管理が大変なのだとか。

世界的な遺産を愛でるのも守るのもヒトである。ならば世界遺産を守る人材にはどんな知識やスキルや価値観が必要なのか?

これはインストラクショナルデザイナーとしては見逃せないトレンディな課題であるとうまい言い訳を思いつき、行ってきました「熊野古道」。富士山よりひと足早く登録された世界遺産の先輩である。

那智・熊野へは初めての旅。聞けば日本書紀にも登場するいにしえの「信仰の山」である。やはりそれなりの心構えと、万全の体調で臨まなければ世界遺産に失礼であろうと考えたが、はて誰に指導を仰げばいいのやら? そんな俗世の迷いを払拭するプロフェッショナルが、熊野・那智ガイドの会の語り部さんである。

というわけで、早速お願いしたのが語り部歴8年のベテラン、吉川昌子さん。事前に電話で、

る恐る質問したところ、

「ズックがいいねぇ~」

と、のどかなフィードバック。

ズックを履いて山道をゆく……。そんな自分の姿を想像しただけでふっと頬がほころび、心はすでに森林浴の気分になったのだから、さすがプロである。

絶妙な間合いと語り

そして迎えた当日。熊野古道を歩くガイドさんならきっと日に焼けた体育会系の方だと想像していたが、さにあらず。大門坂で待っていた吉川さんは、帽子につけた八咫烏(やたがらす)のワッペンが可愛い、笑顔の柔らかな小柄な女性であった。

さて、大門坂から那智大社、そして那智の滝までの道を歩くこと約2時間余り。「800 年前に頼朝が築いた石畳」も残る山道はデコボコで苔むしており、ふだん平らな道しか歩いていないヤワな私には予想以上の難行苦行だ。

すると語り部吉川さん、さすがの観察力で私の窮状を見抜き、息切れしそうになるとさりげなく珍しい道端の花を説明しながら小休止、足もとがおぼつかなくなると仏様の描かれた絵巻物を広げて歴史談話のィーブレイク、という具合。その絶妙のタイミングと語りは、900 年前の白河上皇の雅な行幸でも、800年前の頼朝の勇ましい行列でも、はたまた300年前の吉宗の華麗な一行でも、きっとこんな瞬間があったに違いないと感じさせる、至れり尽くせりの気配りなのである。

その「語り」に導かれて、那智大社と青岸渡寺(せいがんとじ)にお参りし、延命長寿の湧水をいただき、無事、那智の滝に到着。心洗われる絶景を目の当たりにした時、感動のせいか、はたまた筋肉痛のせいか、背中は汗びっしょりで、杖を持つ手はプルプルと震えていたものである。

聞けば吉川さんは那智で生まれ育ったそうで、

「子どもの頃は世界遺産になるなんて思いもしなかったから、ここらの子はほら、釘でこんな落書きしたりしながらこの道を駆けて学校に行ったもんよ」と、石畳に刻まれた古い落書きを指さしながらおっとりと語る。しかし観光客でにぎわう滝の前にたばこの空き箱が落ちているのを見るや、目にも止まらぬ素早さでそれを拾い上げてバッグにしまう。さすが世界遺産を守るプロ、緩急の使い分けが見事である。

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