J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年09月号

CASE.3 日本航空 危機を乗り越える 新たな判断基準を策定し、 使命を再発見する「人間力」

経営破綻したJAL再建のため、会長として迎えられた、京セラ、KDDIを創業した稲盛和夫氏。稲盛氏といえば、アメーバ経営や、企業家を育てる「盛和塾」などで知られている、日本を代表するプロ経営者である。そのリーダーシップのもと、みごと就任2年目には過去最高益を記録、V字回復を実現する。稲盛氏が行った人間力を基盤にした意識変革に迫る。

野村 直史 氏 意識改革・人づくり推進部 部長

日本航空
2010年1月19日に会社更生法の適用を申請し、経営破綻。企業再生支援機構より3,500億円の出資を得て、稲盛和夫氏を会長に迎え経営再建に臨む。その後、驚異的な回復を見せ、2012年度には営業利益(連結)で過去最高の2,049億円を記録。設立:1951年8月、資本金:3,558億4,500万円、営業利益:1,952億円(連結、2013年度)、従業員数:9,405名、連結3万875名(2012年3月現在)

[取材・文]=中村 博昭 [写真]=日本航空提供、中村 博昭

●背景中からは見えない、機能不全

意識改革・人づくり推進部部長の野村直史氏は、会長に着任した稲盛和夫氏が日本航空(以下、JAL)を評して言われた言葉が忘れられない。「JALは慇懃無礼な会社だ」と。そして、自らの体験から、「JALの利用を避けている」という話もされたのだった。

2010年1月、JALは経営破綻し、株式も上場廃止。瀕死の状態となった。そこに事業再建のために招かれたのが、京セラ、KDDIを創業した稲盛氏だ。

稲盛氏はJAL会長に就任するや、社員の意識改革、部門別採算制度の導入などに着手。そこから業績はV字回復を見せ、2012年9月には2年7カ月ぶりに再上場を果たす。連結の営業利益も3期連続で大幅黒字と、奇跡の復活を遂げた。復活の陰で、JAL社員と稲盛氏の間にどんなやり取りがあったのだろうか。野村氏は当時の心境をこう語る。

「稲盛さんは、厳しいことをたくさんおっしゃっていました。慇懃無礼で官僚体質だ、採算意識がない、経営者意識も足りない……。それを最初から、その通りだと思った社員はいないはずです。一人ひとりは一生懸命やっているわけですし、自分が慇懃無礼なサービスをしているとは思ってないわけです。ですが、経営破綻という事実を突きつけられている。その再建の舵取りを任された新会長の言葉ですから、外からは、そう見えるということですよね。そのことに自ら気づくことさえできなかったわけですから、会社の状態はかなり深刻だったということだと思います」

当時のJALは、個々の社員という「点」では機能していた。だが、組織という「面」から見ると機能不全に陥っており、しかも誰も気がついていない。稲盛氏は、それを見抜き、ズバリと指摘したのだ。

●具体的な取り組み1 経営層の意識を変える

会長に就任した稲盛氏は、路線ごとの収支を把握するため、役員に直近の数字を出すように伝えた。しかし、数字はなかなか出ず、ようやく出ても数カ月前のもの。稲盛氏は、「いったいどんな経営をしてきたのか」と怒り心頭だったという。 最初は、稲盛氏の厳しい発言に反発を覚えていた社員たちも、一つ一つの指摘に応えられず、徐々にその真意を理解していくことになる。稲盛氏は、このような状況はリーダーの自覚不足が原因と言い、そこからリーダー教育に着手することになる。大西賢社長(当時。現会長)の意向で教育はトップ層から行うことになり、第1回は2010年6月、役員と部長を中心とした52名が集められた。

リーダー教育といっても、いまさらスキルやマネジメントの教育を行うわけではない。稲盛氏が常々言っていた「リーダーたるもの人格を高めなければならない」というマインド、稲盛氏の考え方を学ぶものである。

「プログラムの中心は、稲盛さんが掲げられている経営12カ条(図表1)です。これについて、稲盛さんから直接講話をしていただいて、その後5~6人で、自分に当てはめるとどうなるのか、どう解釈すればいいのか、といったグループディスカッションを行いました。経営12カ条に書かれていることは、決して理解が難しい内容ではありません。しかし、仕事で実践できているかと聞かれると、誰もが言葉に詰まってしまうのです」(野村氏以下、同じ)

稲盛氏は、経営者意識の必要性と、その前提として人格を高めることの重要性を説いた。稲盛氏は、「リーダーの一番の資質は、人格なのだ」と言い切るほど、人格を重視している。だが、ビジネスと人格は、どう関係するのか。リーダーの大きな役割は、ビジョンとミッションを明確に描くことである。それを実現するために日々の判断に人格が影響する。だから、リーダーは常に、謙虚で素直さや感謝の気持ちを持ち、人格を磨いて、自分の中に判断の基準を確立することが求められるのだ。

「私は事務局で参加していましたが、この時の稲盛さんの言葉には強さがありました。参加者の側にも『稲盛さんの強さを吸収して帰るのだ』という意欲が見えてきました。私自身もその時、生半可な気持ちではこのリーダーたちについていくことはできないと感じました」

研修の後は、“コンパ”と称して、稲盛氏を囲んで飲食をしながら議論する場が設けられた。ここで、稲盛氏と膝詰めで話すうちに、52名のベクトルが次第に合っていく。役員から始まったリーダー教育は、徐々に対象者を拡大して継続的に行われた。最終的に2年半で3,000名を超えるJALグループのリーダーが参加することになった。このリーダー教育における経営12カ条の徹底した議論は、単に会社の理念や方針を共有する意味だけでなく、稲盛氏の人間力に直接触れる貴重な機会となった。

●具体的な取り組み2「JALフィロソフィ」の策定

リーダー教育をスタートさせると同時に、全社員に向けた意識改革にも着手した。2010年8月からは、経営12カ条をもとにした社員向け行動指針である「JALフィロソフィ」(図表2)の策定を開始。これは全社員が持つべき意識・価値観・考え方である。

2011年1月に完成し、全社員に手帳が配付される。

「40項目のJALフィロソフィ一つ一つに解説文をつけています。できる限り平易な言葉で理解しやすい内容にしました」(野村氏)

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