J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年11月号

連載 ID designer Yoshikoが行く 第77回 西粟倉村・森の学校 ―小さな村と「トビムシ」の挑戦

寺田 佳子(てらだ・よしこ)氏
ジェイ・キャスト執行役員、IDコンサルティング代表取締役、日本イーラーニングコンソーシアム理事、IT人材育成事業者協議会理事、eLP(eラーニングプロフェッショナル)研修委員会委員長、熊本大学大学院教授システム学講師、JICA─NET Instructional Design Seminar講師、ASTD(米国人材開発機構)会員。著書に『IT時代の教育プロ養成戦略』(共著、東信堂)など。http://instructionaldesign.blog97.fc2.com/

講演を終えた会場で、賑やかに名刺交換をしていた時のこと。ある方が名刺と一緒にさりげなく手にしていた『もの』に、私の目は釘づけになった。だって、シンプルで美しい模様、素朴で温かな手触り、かすかな森の香りをまとった、それはそれは魅力的な『もの』なんですもの。はしたなくも目が勝手に「ほしいっ☆」と輝いてしまったのも、むべなるかなである。

「実はこれ、間伐材でつくったiPhoneケースなんですよ」

と、説明してくださったのは株式会社トビムシの営業本部長、村上達也さん。なんと国産材のひのきを使い、熟練の職人が1枚の板から、一つひとつ削り出して製作したというから、すごい。大事に大事に生み出されたその無垢のケースは、都会のビルのセミナールームの片隅で、みんなの注目を一身に浴びて、ちょっとばかりはにかんでいるようにも見えた。

それにしても、トビムシというユニークな名前と、国産のひのきと、スタイリッシュなスマホのケースと。いったい何がどうしたら、この3つが結びつくのだろう? なぜこの素朴なケースに、こんなにも惹きつけられてしまうのだろう?

その答えは……。

東京からはるかに西の、小さな過疎の村にあったのだ。

百年の森構想

岡山県英田郡西粟倉村は、人口約1,600人、面積5,793ha、村の95%が森という緑の村である。2004 年に近隣市町村との合併を拒み、勇気を奮って独立自尊の道を選んだこの村が、ビジョンとして大きく掲げたのが、『心産業』。今までにない革新的なビジネスを、この小さな村から発信したい、いや、してみせるっ、という心意気を示した新しい言葉である。

しかし、このビジョンを実現するには「説得力のある戦略」と「思い切った戦術」が必要だ。

そこで村長が策定したのが、『百年の森構想』。「百年後も地域を支える豊かな森をつくろう」というスローガンだ。

過疎の村が自立するには、何はさておき、しっかりとした経済基盤を持たなくてはならない。それには、村に眠っている貴重なリソースを発掘し、経済価値の高いものに育てなくてはならない。

西粟倉の貴重なリソースといえば?

そう、西を向いても東を向いても目に入る森である。というか森しかない。だが、この森が元気いっぱいとは言いがたいから困った。

何しろ小規模な個人所有者によって細かく区切られているため、手入れがなかなか行き届かない。伸び放題の下草の間からひょろひょろと頼りない木が伸びる「瀕死の森」だったのである。だからこそ、「この森の再生なくして、村の再生はない」という覚悟を示したのだが、さあて、その森の再生戦略を成功させるには、どんな手を打ったらよいものか……。

そこに登場したのが、株式会社トビムシである。

地域商社が生んだイノベーション

トビムシって、森の落ち葉を食べてはフンを出す、ちょっとジミなあのムシである。しかし彼らの地道な活動が、実は微生物を活性化させて森を創る大きなエネルギーを生むという。つまり、ジミな仕事を黙々とこなし、大いに環境に貢献する、という小さくもなかなかデキたムシなのである。

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