J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年12月号

OPINION 2 識者が振り返る経営戦略の20年 矛盾する経営戦略と人事戦略

これから経営型人事になることを求められる人事部にとって、経営と経営戦略を理解することは重要である。そこで、現在、ベストセラーとなっている『経営戦略全史』の著者である三谷宏治氏に経営と人事のこれまでと今後について聞いた。「経営戦略と人事戦略は、矛盾する関係にある」という三谷氏。その本意と、これからの人事のあるべき姿を紹介する。

三谷宏治(みたに こうじ)氏
K.I.T(. 金沢工業大学)虎ノ門大学院 主任教授
1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業。INSEAD MBA修了。ボストン コンサルティング グループの後、アクセンチュアに勤務。2003 ~ 06年はアクセンチュア戦略グループの統括を務める。現在は、社会人教育の他、大学・高校・中学・小学校での子ども・保護者・教員向け教育を中心に活動中。『経営戦略全史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『一瞬で大切なことを伝える技術』(かんき出版)など著書多数。

[取材・文]=木村美幸 [写真]=編集部

新たな勝ち方を見つけるために

──この20年間、日本企業をめぐる環境はどう変化したのでしょう。

三谷

まずは、日本企業の世界への影響力が非常に弱まったということがいえます。それにはいろいろな理由があるのでしょうが、中でも大きいのは、今までの勝ち方が通用しなくなり、それに代わる新しい勝ち方を身につけられなかったこと。

もう1つは、日本の市場の縮小です。日本企業の強さって、やっぱり1億人規模の母国市場に支えられていたんですよね。その市場が相対的に小さくなってしまったのですから仕方ありません。日本の厳しい顧客たちに鍛えられたおかげで、品質も上がり、コストも下がり、というように強くなったわけですが、残念ながら、もうそれだけでは支えられなくなってしまいました。

かつてのように「改善」を続ければどうにかなるわけではなく、試行錯誤をして、どんどん新しいことをやっていかなければならないということを思い知らされた20年、という言い方ができるかもしれません。

──マイケル・ポーターが、96年の論文『戦略とは何か』に書いたように、「日本企業には経営戦略がなかった」ということでしょうか。

三谷

いえいえ。特にこの10 年、追い詰められた結果とはいえ、新しい市場をつくるために戦略を見出した日本企業がいくつもあります。

かつては、1つの業種の成功パターンはたった1つでしたが、今では多様な成功パターンが生まれています。たとえばホームセンター。従来のホームセンターとは比べものにならないほど数多くの商品を並べ、遠くから人を呼べる、カインズホームのようなスーパーホームセンターが生まれましたよね。多品種化で商圏を広げることで、巨大店舗での商売が成立したということ。

その一方で、コメリという会社は、DIY用品(金物など)と園芸用品に特化した店舗を展開。周辺に暮らす兼業農家の人たちにとって非常に便利な店なので、商圏は狭いけれど、そこでのシェアはものすごく高いんです。数年前に1,000店舗を突破し、業界3位に躍り出ました。

さらに次には、ハンズマンという会社が超大型店舗におけるイノベーションを起こしました。2代目の大薗誠司社長が修行時代、駐車場で車の誘導をしていて、手ぶらで帰る人を何人も見かけ「お探しのものがありませんでしたか?」と尋ねたら、実はどれも店に置いているものばかりだったそうです。商品はあるのに、お客さんに提供できず大失敗、というわけです。そこで“商品が見つけやすい店”を徹底的に追究したのです。一般的なホームセンターではありえない高層吹抜け構造にして店全体を見渡せるようにし、天井を高くして棚の上部にはその下に何が並んでいるのかが一目でわかる案内パネルをつくりました。それでまた商圏が大幅に拡大しました。

──なるほど。試行錯誤によって新たな成功パターンを見出した好例といえそうですね。

三谷

はい。それとは別に、ユニクロと組むことを選んだ東レのような例もあります。素材メーカーはものすごく多くの企業と取引をしていますから、その中の一社だけと戦略的な提携をするというのは、いわば御法度なんです。もしかしたら、その一社以外の全取引先がそっぽを向いてしまうかもしれませんからね。現場の反発は大きかったはずです。トップダウンで提携を断行したのですが、結果的に大成功しました。

これは、マイケル・ポーターが言うところの“ハードチョイス”。こちらを選んだら、あちらがなくなるかもしれないけれど、それでもあえて選択する。これが戦略です。

──そういった新しい勝ち方を手に入れるために必要な人材とは、どのようなものでしょうか。

三谷

ハードチョイスの決断ができる人材と、試行錯誤すなわちイノベーションができる人材、この両方の人材が必要でしょうね。

ハードチョイスを行うのは、トップ層ですし、企業としてのスタンスにかかわることですから、人事がどこまで関与できるのかという問題はありますが、それでもハードチョイスができるリーダーの教育は可能でしょう。

もう1つはイノベーション。イノベーションには大小ありますが、最初はどれも小さなチームから生まれます。Facebookだって5人で始めていますから。ただ、そういう小さなチームを率いて、イノベーティブなことができるチームリーダーが、社内に1人2人ではなく、何十人も必要になりますから、一体どれだけ育てられるか、ということが非常に重要だと思います。

それを長年、自然にやってきたのがリクルートです。最初は、リクルートブックという巨大なビジネスを回すことで成功していたけれど、それが行き詰まった時に、新しいものをつくることを許した。自由にいろいろやらせてみたら、これが結構うまくいって、小さな成功がダダダダッと生まれ、それを全部足したら結果的にリクルートブックより大きくなっていた(笑)。まあ、リクルートの場合、多様な領域に挑戦できる情報誌というビジネス特性もあったのでしょうが、多くの人材に事業の起承転結を実地で経験させることができたわけです。

しかも、中堅社員に魅力的な退職パックを提示して早期リタイアを勧め、社員の新陳代謝が極めて激しい状況を意図的につくりました。すると優秀な人材もどんどん辞めていくのですが、それでいいんですよ。新しいやり方を生み出すには、過去の経験なんてどんどん役に立たなくなるので、成功を重ねた優秀なベテランより、若くてちょっと優秀なヤツのほうがいい。そう考えたのでしょう。

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