OPINION3 ファシリテーションはビジネスパーソンの必須スキル 全体のまとまりと個の尊重を両立させる「変容型ファシリテーション」 小田 理一郎氏 チェンジ・エージェント 代表取締役

多様な人や組織が協働していくうえで、「ファシリテーション」への関心が高まっている。
ファシリテーターとして多くの実績を持つ小田理一郎氏は、ファシリテーションスキルを身につけることで、本人の人生も楽に、そして豊かになると話す。ファシリテーションの持つ力とは。
また、今、求められるという「変容型ファシリテーション」について、ポイントを聞いた。
[取材・文]=崎原 誠 [写真]=小田 理一郎氏提供
ファシリテーションの必要性が高まる理由
いま、なぜ、ファシリテーションが注目されているのか。「学習する組織」や「システム思考」「ダイアログ」を専門とし、ファシリテーターとしても多くの実績を持つチェンジ・エージェント代表取締役の小田理一郎氏は、その背景として、コラボレーションが求められる場面が増えたことを挙げる。
「戦後の経済成長があった時期は、経営者が『我が社の戦略はこう』と打ち出したら、皆でそれをやっていけば成功に近づくことができました。ところが現代は、VUCAの時代といわれるように、社会やビジネス環境が複雑化し、何か1つの戦略や考えを実施するということでは立ち行かないケースが増えています。1人の人が全体像をつかむのは難しく、正解がないなか、社内外の人たちと話し合い、答えを見いだしていくコラボレーションが必要になります」(小田氏、以下同)
しかし、立場や考え方の異なる人たちと協働していくのは、容易なことではない。そこで有効なのが、集団による問題解決や合意形成を促進する技術としてアメリカで生まれた「ファシリテーション」である。
「ファシリテーションの機能をもっとも端的に表した定義は、『集団による知的相互作用を促進する働き』です。集団が課題や解決方法などを見いだすのを容易にする(=facilitate)のが、ファシリテーションです」
会議などの場では、司会・進行役が論点を提示したり、質問を募ったり、誰が発言するかを仕切ったりする。小田氏によれば、これはファシリテーションではなく、「モデレーション」をしているにすぎない。
「モデレーションは、『コンテント』とよばれる議論の内容に焦点を当て、論理的な結論を出すことを目的とします。しかし、コンテントばかりに焦点を当てていると、メンバーに当事者意識やコミットメントが生まれません。その結果、意見があっても発言してくれなくなったり、反対意見は出さなかったのに、いざやるとなったら動いてくれないといった状況に陥りがちです。一方、ファシリテーションでは、集団として成果・結果を生み出す場で集団間に起こる『プロセス』も重視します。参加者間の関係性や場の質がどうなっているかを見立て、『コンテクスト』とよばれるメンバーの意図や背景などの文脈を共有しながら、場をデザインしていきます」
2つのモードを行き来する変容型ファシリテーション
それでは、どのようにファシリテーションを進めればよいのだろうか。小田氏は、2023年、アダム・カヘン氏の著書『共に変容するファシリテーション―― 5つの在り方で場を見極め、10の行動で流れを促す』(英治出版)の翻訳を手掛けた。同氏は、南アフリカのアパルトヘイト問題をはじめ、世界50カ国以上において、企業内・企業間のプロジェクトから民族紛争まで、対立する多様な人々の対話を支援し、解決に導いてきた伝説のファシリテーターである。

同書において、カヘン氏は、従来のファシリテーションには、全体のつながりやまとまりを重視する「垂直型ファシリテーション」と、個を尊重する「水平型ファシリテーション」があるとし(図1)、その双方を行き来するアプローチを「変容型ファシリテーション」と名付けた。