J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年08月号

人材教育最前線 プロフェッショナル編 提言できる人事が個人、組織と社会を変えていく

企業コンサルタントから転身し、人事として日本企業の成長を後押しするAIG富士生命保険の人事部長、古川明日香氏。コンサルタントとしての経験があるからこそ見えてくる現場が抱える課題や、「人事」という組織そのものの問題を、経営者と現場の双方の目線から探る。自身の付加価値を追求し、「提言する人事」として、同社で確立しようとしている新たな育成体制は、単なる研修プログラムや仕組みではない。社員一人ひとりの成長のタイミングを捉え、タイムリーに教育の機会を提案する古川氏ならではのものである。

人事部長
古川 明日香(Asuka Furukawa)氏
シティバンク、マーサージャパン、ダノンジャパンを経て、2013 年AIG富士生命保険入社。マーサージャパン時代は組織・人事コンサルタントとして多くの国内外企業の人事戦略をサポート。2011年、「日本の人事を内側から変えたい」という想いからダノンジャパンに就職。企業内人事として現在に至る。

AIG富士生命保険
1996年、富士火災海上保険の子会社「富士生命保険」として設立。2010年に親会社である富士火災海上保険がAIGグループ入りしたことに伴い、同社もAIGグループの1社となる。2013年AIG富士生命保険に社名を変更。
資本金:130億円、保険料等収入1106億4900万円(2014年3月期)、従業員数:524名(2014年3月末現在)

取材・文・写真/髙橋 真弓

人事を内側から変えたい

古川氏が人事の道をスタートさせたのは2011年、前職のダノンジャパンからである。大学卒業後、外資系金融機関に就職。その後、大手外資系の組織・人事コンサルティング会社で10年間、クライアント企業の課題解決に取り組んだ。そんな古川氏がコンサルタントを辞め、あえて企業内部の人事に転向しようと考えたのは、「日本の人事を内側から変えたい」という気持ちがあったからだという。「もともとのめり込む性格もあって、クライアントの課題を解決するために、時にはぶつかったりしながら一緒になって解決していくのが好きでした。課題を根本から解決し、変革を起こすにはクライアント自身が変わっていく必要があります。ですが、契約やプロジェクトが終了し、クライアントから『後は自分でやります』と言われれば、その後のフォローはさせてもらえません。最後まで見届けることができないまま別のプロジェクトに配置されてしまい、『本当にその会社のためになったのか』と、いつも何か、もどかしいものを感じていました。それならどっぷり企業の中に入り込み、自分で舵取りをしながら変革を起こしていく立場になりたい。そして、もしかしたら変革を起こせない1つの要因に、人事の組織そのものがあるのではないかとも考えたのです」そんな古川氏にとって、人事へと進むきっかけの1つでもあり、今でも深く印象に残る出来事がある。グローバル化をめざし取り組んでいたクライアント企業の経営者に、ある日呼び出され、ひどく怒られたのだ。「そもそも経営者の気持ちがよくわかっていなかったことが原因でした。私の直接のクライアントは社長ではなく、その下の役員層でしたが、社長は役員層がやっていることにフラストレーションを感じていて、それを第三者である私にぶつけられたのです」外部にいると日々の生々しい事象はキャッチし切れず、抽象度の高い情報しか得られない。どんなにクライアントの中に入り込んでいても、経営者から社員まで全ての人とかかわることはできず、外部の人間にはどうしても見せてもらえないものもある。限定的な情報で物事を判断して決めざるを得ない。また、物事を変える時、その組織にとってちょうどいいタイミングというものがあると古川氏は言う。例えば、人が多く流出してしまったタイミングで将来的なタレントマネジメントの必要性を訴える。「今、人材育成にコミットさせるモードになりそうだ」など、提案が一番心に刺さる時期や機会は、内部にいるからこそつかめるという。「外からではそうしたタイミングがわからないので、提案書を持って一生懸命プレゼンしても、全く相手に響かないことがあります。昔は、提案の中身が悪かったからだと思っていましたし、確かにそれも一因かもしれませんが、重要なのは“相手が喉が渇いた時に、水を与えることができるか”なのです」

提言・提案できる人事

結局、外部にいては経営者の視点に立つことも、タイムリーな提案も限界がある──。そうした想いを幾度となく経験し、人事へと転身することを決めた古川氏には、「あるべき人事像」がある。例えば、この会社が将来勝ち続けていくためにどうしたらいいのか、社長の目線で「経営を語れる人事」がその1つだ。クライアント企業の社長に怒られたことをきっかけに、経営の視点が持てる人間になりたいと思っていたが、それは人事にも不可欠な要素だと考えている。「『〇〇部署で1人辞めたから補充してください』と言われ、『はい』と言って採用する人事は経営の視点を持てていない。『この部署には会社の成長のために将来こんな力をつけてほしい』という経営視点に立てば、成長に必要な即戦力を採用するのか、または中で教育していくのか、もしくは組織を構築し直したり、役割分担を見直したほうがいいのではないかなど、3年後、5年後を見据えて全体最適の観点から提言していく必要があるのです」経営者がどのような目線を持ち、どんなことで悩むのかを知るためには、経営に関する本やコラムなどをよく読んでいると古川氏。さらに、セミナーなどで知り合った経営者に直接会いに行くこともあるという。お互いの問題意識の中に接点があれば意見交換をし、知識や刺激をもらう。そして何より「人に興味がある人事」でありたいと古川氏は続ける。「私自身、ダノンジャパンに入るまで、自分の会社の人事との接点はほとんどありませんでした。クライアントである人事部門のコンサルタントをしながら、自分の会社の人事が何をしているかさっぱりわからない状態でした。ビジネス(現場)の側に人事が来ないんです。『入社と退職時に挨拶する』『たまに研修の案内をくれる』程度の存在で、ビジネスの側からしてみると人事は部屋にこもって事務的な作業をやっているだけのように見え、付加価値が感じられない。人事にとっては現場の社員がクライアントであるはずなのに、ビジネスに興味がないのかと思われてしまう。ビジネスに興味があるということは、裏返せば人に興味があるということ。社員が生き生きと働いているかというところに関心があれば、人事からビジネスに近づいていくはずです」古川氏は時に、人事には関係がない現場のミーティングにも参加する。その中で、発言やものの見方から社員を知っていくという。仕事はできるのにプレゼンが苦手という社員がいれば、トレーニングの機会があった時に、「このプレゼンのコースを受ければ絶対伸びる」と提案できる。「『こういう研修があります。誰か受けませんか』という人事では価値がありません。ですが、コンサルテーションできる人事がいれば、会社は確実に強くなるのです。日々現場を歩いていると社内の課題も見えてきます。元気がない人が多いなとか、こういう問題が裏にあるのかもしれないとか、解消するにはこの人と話をしたらいいかなとか……。人事は近寄りがたい、人事の人にどう近づいたらいいかわからない、といった社員は多いでしょう。だから人事から入り込んで、気軽に話せるような関係を築いています。

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