J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年09月号

OPINION 1 「働く構え」とは何か ~動的な人材教育のすすめ~ スキルや思考法の研修以前にやっておくべき意識転換

新人・若手社員の育成に頭を抱えている企業が多い。以前のように厳しく叱責すると、パワハラで訴えられたり、あっさりと辞めてしまったりする。それを恐れて腫れ物に触るように接していたのでは、いつまでたっても一人前に育たない。インターネットやスマートフォンの発達により、コミュニケーション環境が激変している影響もありそうだ。今の若手社員に対しては、「働く構え」をまず示す必要があると主張する秋山進氏に話を聞いた。

秋山 進(あきやますすむ)氏

プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役。リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業から、外資、財団法人などさまざまな団体のCEO補佐、事業構造改革、経営理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、事業継続計画、コンプライアンス、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。麹町アカデミア代表取締役学頭。著書に『「一体感」が会社を潰す』(PHP研究所)『、社長の思いが伝わる「ビジョン検定」のすすめ』(共著:日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

[取材・文]=坂田 博史 [写真]=プリンシプル・コンサルティング・グループ提供

なぜ学生気分が抜けないのか

本来、若手を一括して語るのは難しいし、前途有望な素晴らしい人たちを個人的にもたくさん知っている。しかしながら、ここではあえて若手とひとくくりにして批判的に語ってみたいと思う。

私が若手の時代を過ごした四半世紀前は、スパルタ教育が当たり前だった。今、同じ教育をしたらブラック企業と呼ばれるかもしれない。新入社員に対して、企業がショック療法的なやや荒っぽい教育を行っていたのは、学生気分を払拭して、社会人としての意識に転換するのに有効だったからだ。「もう学生ではないんだ」ということを、身をもって体感してもらうことが、仕事のスキル教育を行う前段階で必要だったのである。

現在も、電話帳を前にかたっぱしからアポ取りをさせたり、見知らぬ人の名刺を多数集めてくるキャンペーンのようなことをやっている企業もある。ただ、以前ほどの真剣さや切迫感がない。所詮は“儀式”だと新人社員にバレている。先輩や上司も、あまり追いつめて辞められたり、訴えられたら困るので、おっかなびっくりの扱いである。そんなことから、多くの企業の若手社員は、学生時代の意識を完全に払拭しないまま、社会人として活動を始める。

先日、若手社員向けのイベントにパネラーとして参加したのだが、ちょっとした驚きがあった。1つは、若手社員の質問の内容だ。自分の悩みをあけすけに語って「ここで私はどうすればいいか?」と訊いてくるのである。以前なら、公の場では一般性を持たない質問は差し控えるものであった。「私は○○で悩んでいるのだが、これは20代の働く女性に特有のものなのですけど……」くらいのことは言わなくてはいけなかったのだ。さらに、「答えではなく、パネラーの考えを訊く」こと、が礼儀であった。しかしながら、このイベントでは、悩みに対して直截的でわかりやすい自分向けの答えを求める質問が延々と続いたのである。

もう1つ驚いたことは、それらの質問に対して、他のパネラーが違和感を持っていないことであった。個人の悩み相談室のような質問に、なんら驚くこともなく、一つひとつ真摯に答えている(素晴らしいとも言える)。私以外は皆30代の方たちだったのだが、極めて個人的な質問に、「そんなことくらい自分で考えろ!」と上手に突き放す文法を、先輩たちもまた持ち合わせていないのである。1人だけオジサンである私は途中から黙ってしまい、パネラーでありながら、話すことをやめてしまった(それはそれで問題ではある)。

この体験をいろいろなところで語ってみると、多くの方たちから、同様の意見をいただくことになった。一言で言うと、社会人としての基本文法の習得に時間がかかり過ぎているというのだ。10年前なら1年でそれなりの立ち居振る舞いができたのが、今では3年、下手をすると5年かかるという。昔の3年目の社員のレベルに、30歳になろうかという頃にやっとたどり着くのだ。これでは会社も個人も困る。

仕事の文法は、まず会社の基本ルールを習得するところから始まる。経験値の少ない若手社員にその良し悪しを判断する能力はないから、まずは仕事に没入し、ひたすら学ぶことが求められる。ところが困ったことに、現在はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などによって、学生時代の友人たちとのつながりを継続できる。以前ならば、就職した途端に、学生時代の友人とはいったん縁が切れるのが普通だった。そして、夜の飲み会も含めて、会社の文法に全面的に染まらざるを得なかったのである。それが今では、飲み会には付き合わないうえに、毎日、昔からの友人とやり取りをすることができる。会社の文法は常に他の文法との間で相対化され、新人の目線の高さにおいて、良し悪しの評価が行われる。現在は、必要以上に企業を悪者にしたてる風潮や、個人の権利を過度に主張する言説を目にする機会も多いから、仕事への没入を要求する言動はネガティブに見られやすい。とにかく四の五の言わずに仕事にのめり込み、その先に真の面白さを発見してもらうという、かつて得意であった展開に持ち込みにくいのである。

5つの「働く構え」

学生から社会人への意識転換を行うために、最初に習得してもらうべきことがある。それを私は「働く構え」と呼んでいる。仕事に主体的に取り組んでもらうための基本となるものである。では、「働く構え」とは何か。ここでは、特に重要と考える5つの構えを取り上げたいと思う。

まず、「もうお客様ではない」という意識を持ってもらうことである。卒業まではサービスを受ける側だったが、企業人はサービスを提供する側だ。消費者の立場から見て、自分の会社は消費者に選ばれる会社になろうとしているのか、そして自分もまたそのために努力しているのか。それらを常に意識させなければならない。

会社と個人の関係も同様である。あなたが社長だったら、あなたを本当に雇いたいか、ということである。選ぶ立場と選ばれる立場は全く逆である。選ばれるために、何をしなくてはならないのかということを、選ぶ側の視点でもって常に考える習慣をつけてもらわねばならない。

次に、「組織の中の個人である」という意識である。部活の加入率が下がっていると聞く。“帰宅部”は今や珍しくない。チームで活動した経験が少ないと、ワガママを言って好き勝手にやる人か、逆に言われたことしかやらない人になりがちである。組織と人のよい関係はそのいずれでもない。組織で活動するには、一人ひとりが自分の役割を果たすことが大事になるが、それだけでは不十分である。役割を超えて自分らしさを活かしたよい成果を出すことが組織の成果にもつながる。また、時には自分の意に沿わない役割を果たすことが求められることもある。組織的活動の経験の少ない若手社員にはこういった行動様式がなかなか理解できないようだが、あきらめることなく、組織で上手に働くイメージを掴んでもらう支援を行い続けなければならない。

3つめは「真剣勝負である」ということである。「あの人とは仕事をしたくありません」と平気で言う若手社員がいるが、会社は同好会ではない。成果を上げるためには、嫌いな人とも協働しなくてはならない。それが給料をもらっている者の義務なのだが、その意識は希薄だ。

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