J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年09月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 グローバル化の成功には崖っぷち経験が不可欠だった

創業1919年という、ポンプメーカーのパイオニア、酉島製作所。国内では上水道施設や下水処理場、排水機場向けなどを中心に多種多様なポンプを、さらに海外では海水淡水化プラントや発電所などにハイテクポンプを提供している。
世界100カ国以上で自社製品を販売し、15カ国に拠点を広げるなど、目覚ましいグローバル展開を遂げている同社。だが専門性の高いハイテク機械だけに、その途上には予想もつかない苦労があった──。
「人材は増やせなかった。だから質を上げることで勝負した」と語る原田耕太郎代表取締役社長に、その経験を聞いた。

原田 耕太郎(Kotaro Harada)氏
生年月日 1961年10月2日
出身校 早稲田大学商学部、英国バース大学経営大学院 (MBA取得)
主な経歴
1984年 4月 大和銀行 入行
1997年 6月 大和銀行 退社、酉島製作所 入社
1999年6月 取締役
2001年 6月 常務取締役 営業本部長
2004年 6月 代表取締役 専務営業本部長
2006年 6月 代表取締役社長

酉島製作所
1919年に設立された、老舗ポンプメーカー。2003年以来、果敢にグローバル展開を果たし、2013年には米国の回転機器メーカーFEDCO社の株式を50%取得している。資本金:15億9300万円、連結売上高:459億8500万円(2014年3月期)、連結従業員数:1472名(2014年3月31日現在)

インタビュー・文/西川 敦子 写真/直江 竜也、酉島製作所提供

ハイテクポンプを世界へ

――この10年間で酉島製作所のポンプは世界100カ国以上で使用され、海外売上比率は60%を超えました。リマンショック、東日本大震災、原発事故などの試練が続いた中、飛躍的なグローバル化に成功した理由とは。

原田

2003年にTGT(トリシマ・グロバル・チーム)という特別チームを発足させ、以来、海外展開を本格的に加速させてきました。具体的には、信頼できる海外のパートナーを見つけ、アライアンス、M&Aで生産とサービスの現地化を図ってきました。現在では欧州をはじめ、中近東、中国、インド、豪州、米国と、世界中にネットワークを広げています。

振り返れば、この10年間は革新の時代でもありましたが、同時に厳しい時代でもありました。そこには、ポンプメーカーという立場ならではの事情も働いていたかもしれません。

――特殊な機械だけに、業界事情も独特なのではないでしょうか。

原田

ポンプは社会基盤に欠かすことのできない機械です。上下水道、発電所、排水施設、工場、農業用水施設、海水淡水化プラント――いずれもポンプが不可欠です。その働きは外から見えませんが、ひとたび停止、故障すれば一大事です。人体で言えばまさに心臓と同じですね。ところが、競合先はさほど多くありません。高水準の安全性やエネルギー効率などが求められるうえ、大型機の場合は1台1台受注生産でつくらなければならず、開発製造に手間のかかる機械だからです。まず、設置する施設によって仕様がまるで違います。例えば、高槻市内の当社本社工場から水を送る場合、JR高槻駅までと新大阪駅までとでは、必要な水の量や圧力が違いますよね。距離も地形の傾斜も異なるのですから、ポンプの大きさも変わりますし、発熱量や騒音を最小限に抑えるためのシステムも異なります。もともと市場規模がさほど大きくないことに加えて、こうした事情や景気後退の影響から、大手はすでに軒並み撤退しています。

――グローバル化のきっかけは。

原田

国内のインフラ整備はほぼ完了しているため、1998年度に約1800億円あった公共事業の市場規模は2010年度には約600億円に落ち込みました。業界そのものが縮小しており2003年にTGTを発足し世界に打って出ようと決意したのは、「このままでは未来がない」という切羽詰まった思いがあったからです。ただ、業績が苦しくなってもリストラをするつもりはありませんでした。当社は1940年代に大規模な人員削減を行っており、その時の痛み、反省から「二度とリストラはしない」と社是にも誓っているからです。また、専業メーカーですから、人員を削ればその分、生産力は落ち、部門間の連携、技術の伝承にも支障が生まれます。

ならば、海外に市場を求めようと。「同じ失敗なら後退するより前向きで行こう」と考えました。

――2003年にはトリシマベトナム、ヨーロッパオフィス、さらにトリシマUSAを設立しています。

原田

はい。ですが、海外進出は容易ではありませんでした。国内でも受注生産が難しいポンプを、気候も水質もまるで違う海外向けに製造しようというのですから。日本企業ならではの問題もありました。例えば日本のメーカーにはお客様の期待にとことん応え、よいものを納期通りに提供するのが当たり前、という文化があります。しかし、他国ではこれが裏目に出る可能性もある。ただ先方の要求に応えるだけでは、先述したような厳しい自然条件を克服できません。文化の差も課題でした。

さらに、グロバル化を進めるといってもむやみに人を増やせるわけではないので、人材の質を上げることで対応するしかありませんでした。とはいえ、急増した仕事を根性で乗り越えようと頑張っても限界があります。相次ぐ問題発生に、社員はだんだん疲弊していってしまいました。その結果、また仕事が増え、さらに忙しくなるという負のサイクルに陥ってしまったのです。人材の質を上げるどころの話ではありません。崖っぷちまで追い詰められ、腹をくくって取り組んだのが当社独自の「トリシマ・イノベーション・システム

TIS)」、そして「7:3のルル」でした。

混乱の解決策は「標準化」

――TIS、7:3のルールとは。

原田

まず「TIS」とは、2つの面の標準化を進めるシステムです。1つは、受注・設計・調達・製造・出荷、そしてサービスに至る「プロセスの標準化」です。BOM(部品表)連携を行い、それぞれの部門が参照、利用します。そして部門間の情報連携を促し、バリューチェーン(価値連鎖)を拡大します。情報を一元管理することで品質、価格、納期の大きな改善を図れることから、自動車などの製造工程ではすでに広く導入されています。これと並行し「製品の標準化」を徹底して推進、エンジニアリング・プロセスの合理化をめざします。もともと

当社が得意とするのは、発電所などで用いられる大型で特殊な高圧ポンプや海水淡水化プラントですが、汎用ポンプについても大型ポンプの製造技術を活かして標準化すれば、より生産性、品質、安全性を高めることができます。これまでは、お客様のご要望に応じてさまざまな製品をつくっていました。例えば、同じ部署にいるAさん、Bさん、Cさんというエンジニアが、それぞれ似て非なるものを設計していたとします。すると部品も似て非なるものを用意しなければならない。国内の協力会社はそこを飲み込んでくれます。が、新興国の業者はなかなか対応してくれません。

そこで、製品のプラットフォームを標準化、共通化し、胸を張ってお客様にお勧めできる「トリシマのスタンダード」をつくれば、生産効率が格段に上がります。コストも抑えられるでしょう。もちろん、国や地域などによってローカライズすることは重要ですから、基礎の部分に関しては摺り合わせ、そのうえにオプション部分を付け足さなければなりません。

その「プラットフォーム:オプション」の理想比率が「7:3」。この7の部分を磨くことで酉島は世界のスタンダードになれると信じています。

――大型高圧ポンプの技術を活かした省エネ型小型汎用ポンプは、さまざまな施設で導入されています。

原田

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