J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年03月号

調査レポート:JMA「日本企業の経営課題」 経営課題の本質は「人材の強化」 新しいものを生み出す実行力をいかにして育むか

日本能率協会(JMA)は2013年11月、「日本企業の経営課題調査」の結果を発表した。この調査は、毎年行っているもので35回目となる今回は662社から回答を得た。本稿では調査結果を紹介しながら、今回のテーマである「戦略と実行の推進」を踏まえ、人と組織を中心とした実行力の強化にフォーカスし考察する。

日本能率協会 理事 JMAマネジメント研究所長
柴野 睦裕(しばの むつひろ)氏
経営コンサルティング企業を経て、1982年に日本能率協会入職。教育事業プログラムディレクター、産業振興事業プロジェクトマネジャーを経て、2003年産業振興本部長。2010年経営・人材ユニット長。2006年からは理事も務める。2012年より現職。

JMAマネジメント研究所 主管
大和 佐智子(やまと さちこ)氏
民間シンクタンクを経て、1985年に日本能率協会入職。管理者向け通信教育テキストの編集、経営関連書籍の編集部、1995年から雑誌編集、1999~2011年まで経営誌の編集長を務める。2012年から現職。

「人材」と「新事業」が上位不動の課題

日本の産業界では、アベノミクスによる円高是正効果もあり、自動車関連産業をはじめとする海外事業比率が高い大手製造業が先導する形で収益改善の裾野が広がってきている。業績も、概ね半数近くの企業がリーマンショック前の水準までに回復させている。一方で、中小企業やサービス業を中心とした、国内市場の縮小や消費税アップなどによるマイナス影響を受けやすい国内事業に軸足を置く企業では厳しい経営状況に喘ぐところが多く、業績回復はまだら模様という現状もうかがえた。グローバリゼーションの進展による世界的な社会・経済のパラダイム転換期の中、日本企業は新たな成長戦略を描き、価値ある事業のスピーディーな創出に注力している。今回の調査を通じても、今まさに次のステージに上がるための経営全般の見直しが行われていることが感じられた。それでは具体的に、日本企業の経営課題認識はどのように変化しているのか。また、経営目標を達成するための課題に対してどのような施策を講じているのだろうか。経営課題認識の結果(図1)を見ると、前年との比較で大きくポイントと順位を上げた課題が「現場力の強化」「品質向上」「高コスト体質の改善」「企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し」である。日本企業の強みとされてきた“現場力”と“品質”に対する課題認識が高まった。また、「高コスト体質の改善」「企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し」は、グローバル競争力の強化や企業の体力強化・体質改善への意思の表れと捉えられる。ちなみに、「グローバル化(グローバル経営)」が2012年と比較してポイント・順位とも下げる結果となったが、大手企業のみの結果分析では4位にランクされ重要度は変わらないため、「グローバル化」の他にも足元に多くの課題を抱える中堅・中小企業の認識が反映された結果と解釈している。経営課題認識の5年間の推移(図2)を見ると、まず1位が「売り上げ・シェア拡大」から「収益性向上」に変化した。売り上げ増大に注力することから、原価低減やコスト削減努力により収益確保へと関心が移った結果と言える。また、不動の3位と4位がそれぞれ「人材の強化」と「新製品・新サービス・新事業の開発」。イノベーションとそれを支える人材強化が重要な経営課題として認識され続けているわけだが、見方を変えれば、課題が解消されない悩ましい状況が続いているとも捉えられる。その他、図1・2から上位にランクされた経営課題を列挙すると、「財務体質強化」「顧客満足度の向上」「技術力・研究開発力の強化」「事業基盤の強化・再編(M&A・アライアンス・既存事業の選択と集中)」となる。なお、これらの課題の中で大手企業の中期的(3年後)な経営課題認識を検証したところ、1位が「人材の強化」、2位が「事業基盤の強化・再編」であったことを補足しておく。大手企業は、熾烈なグローバル競争の中、事業ポートフォリオの見直しによる収益構造改革や、M&Aなどの社外の経営資源獲得によるスピードを重視した成長戦略を経営課題として強く認識している。こうした結果から、大手企業はグローバル経済のリスク要因を、中堅・中小企業は国内経済のそれを注視しながら、競争力強化や企業の体力強化・体質改善などのさまざまな課題に取り組んでいるが、その中で最も重要な決め手となる課題が「人材の強化」との共通認識にあることが確認できる。将来が見えにくく、市場ニーズや競争相手も多様化している現状において、経営戦略は個別性が高く、常に見直しが必要な時代である。戦略以上に重要なことは、いかに実行して目標とする成果を獲得しえるか──すなわち、実行力の要である「人材の強化」こそ、各企業に共通した本質的な経営課題であると言えよう。

経営課題の核心は「人的資本の蓄積の停滞」

日本企業は、長く続いた経済の停滞とデフレマインドの蔓延、経済のグローバリゼーションやデジタル化の進展による製品のコモディティ化、それらがもたらす価格競争の熾烈化などによって苦しい戦いを強いられ続けている。こうした状況下で、コスト削減努力や、債務圧縮などによる財務体質の強化などによって資本強化に努めてきたために、短期的な利益確保に注力せざるを得なかった企業が多い。悪化した財務体質改善を行う間に、非正規雇用が増え、従業員の年齢構成が歪むことは避けられず、社内の人的資本の蓄積の停滞による現場力低下の問題に悩む企業が増える結果となった。このような背景認識を踏まえながら、組織・人事領域の経営課題の調査結果(図3)を見ていくと、回答企業全体(以下、全体)の1位は「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」であり、この課題は過去5年の本調査結果でもダントツの1位である。企業規模別では、中堅・中小企業で半数以上が1位に挙げている。その主な要因としては、バブル期の大量採用とバブル崩壊以降の採用抑制による企業内人口ピラミッドの歪みを根本原因とする量的不足と質的不適応の両面がある。以下、2位・3位は回答企業全体と中堅・中小企業の課題は同様で、それぞれ「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」「次世代経営層の発掘・育成」となった。回答企業全体で前年比が5ポイント以上増えた課題は、「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」(7.9%増)、「グローバル経営人材の育成・登用」(5.8%増)、「高齢者対応・ベテラン社員の活性化」(5.5%増)、「若手社員・優秀人材のリテンション」(5.9%増)であり、対処すべき人事問題の多様化が表れている。一方、大手企業の課題は中堅・中小企業とは大きく違う結果となった。1位が「グローバル経営人材の育成・登用」、2位「事業展開に応じた機動的人材配置」、3位「管理職層(ミドル)のマネジメント能力向上」、同率3位「次世代経営層の発掘・育成」、5位「人事・評価・処遇制度の見直し・定着」である。経営や事業のグローバル展開のスピードに、適任の人材、特に経営・管理人材のストックが追いついていない悩みが浮き彫りになった。また、誌面の関係でデータは割愛するが、研究・開発領域、生産領域、営業・マーケティング領域における不足人材を尋ねた回答結果を要約すると、「グローバル事業を牽引できるリーダー、経営幹部候補者、プロジェクトマネジメントリーダー、イノベーションリーダー、優秀なミドルマネジャー、海外現地ローカル人材」が不足しており、「経営革新やグローバル事業展開に柔軟に対応できる人材配置が困難な状況にある」ことがわかった。基幹人材不足という深刻な課題である。失われた20年で、日本企業の新しいものを生み出すための人的資本の蓄積が停滞した結果と言えよう。

戦略を実行する力

目先にとらわれず基本に立ち返り、本質的に優れた製品・サービスを生み出し続ける経営姿勢、また、これらを生み出す「実行力」の強化が今、求められているわけだが、本調査では、『経営戦略を実行するうえで重要な要素』についての認識も尋ねた。その結果、「経営に筋が通っていて社員が進むべき目標が明確であり、社員のモチベーションは高く全体最適の視点で働いている」状態が理想的であることが確認できた。それでは実際に企業の「組織の傾向」はどうか。図4の上2項目──「実利につながることへの関心が高く、理念的・抽象的なことに対する関心は低い」「短期的な目標達成への関心が高く、中長期的なテーマに対する関心は低い」傾向にある企業が多い結果となった。短期的利益の確保に汲々としている状態では、戦略を実行する力が高いとは言えまい。合わせて「経営スタンス」についての調査結果(図5)も紹介したい。昨今のような成熟した社会では、「世界レベルでの共生をベースとした理念」のもとで企業価値を構築していくことが求められており、こうした潮流の中、経営スタンスも大きく変化させていこうとする意思が表れている。“経済価値重視”から“社会価値重視”(「社会との共存共栄を目指す経営」「社会の課題解決を強く意識した経営」「従業員の幸せを優先する経営」)へと経営スタンスを転換していこうという企業が増えることが確認できた。まさに新しい時代の潮流に沿った変化であり、経営理念やビジョン、戦略のあり方に大きな影響を与えるものである。こうした現状や潮流を捉えたうえで、企業はどうすべきなのか。出発点は、トップが経営理念と価値観を明確にし、それらの社内浸透を図ること。そして、理念や価値観を浸透させるためには社員と組織を結ぶエンゲージメントを高めることだが、そのためには、ウェイ・マネジメントが有効性が実証されている。トップダウン型の押しつけではダメで、ポイントは社員の納得感が得られるようなコンセンサスづくりの妙にある。経営側が労と時間を惜しまず働きかけ、社員一人ひとりが主体的に考え行動を変えるよう、さまざまな仕掛けをつくることが必要である。それでは企業の組織改革への取り組みはどうか。データは割愛するが、近々具体的な活動を始める予定の企業を含め、8割弱の企業が組織改革に取り組んでおり、その狙いは、1位「優秀な人材の確保・育成・活用」、2位「ムダの排除(重複、不要機能の削減)」、3位「変化に対応する発想力・実行力の強化」、4位「役員・社員の意識改革」であった。人の革新に期待するところが大きいことがわかるが、2位の「ムダの排除」も注目される。

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