J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年03月号

HOW TO 人事の付加価値を生む 研修のつくり方

年間プログラムを埋めるための、「研修をやるための研修」になっていないだろうか。そもそも研修は、何のために行い、人材開発の存在価値はどこにあるのか。企業の人材開発領域で経験を積み、現在はコンサルタント、ファシリテーターとして外部から企業のさまざまな研修、ワークショップにかかわる由佐氏に、人材開発部の存在意義も踏まえて、研修のつくり方を聞いた。

由佐 美加子(ゆさ みかこ)氏
国際基督教大学修士課程、米国ケースウェスタンリザーブ大学経営大学院組織開発修士課程卒業。野村総合研究所、リクルート、マースジャパンを経て独立。2013年から現職。これまで学んだリーダーシップ論や組織開発論、ホールシステムアプローチなどを活かして活動している。翻訳書に『U理論』(英治出版)がある。メール:yusa@cc-creators.com

[取材・文]=西川 敦子 [写真提供]=由佐 美加子 氏

1.目的を考える研修は、何のためにするのか

──改めて研修のつくり方を知りたいという要望があります。

由佐

「何で研修をするべきなのか」という初めの問いが欠けているのではないかと感じることが多々あります。「研修のための研修」になってしまっていることが問題です。そもそも研修はしないで済むならばそれに越したことはないと思っています。

「この忙しい時期に研修なんて」と迷惑がる社員も多いですよね。それなのに、わざわざコストをかけて、現場を離れて研修に参加してもらう。つまり、人材開発部は現場にそれだけの投資をする価値を認めてもらえるようなものを提供しなければなりません。現場に価値を認めてもらえる研修をすることが、研修の目的ですし、人材開発部が出すべき付加価値です。

──どうしたら、現場に価値を認めてもらえるでしょうか。

由佐

企業の人事として働いていた時に、どうしたら信用してもらえるか、価値を認めてもらえるのか、ずっと考え続けた時期がありますが、「現場では決してできない学びの体験」を提供することしかないのだと思います。「何が現場ではできないのか」と言うと、今の時代、ロジカルシンキングやその他のフレームワーク、簡単なコーチングスキルなどのハウツーを知りたければ、ネットや書籍で間に合います。こうしたスキルや知識を、研修のように場を設けて、わざわざ人を集めて学ぶ必要はもうありません。カギになるのは、「『場』、つまり人間が互いに学び合うという場を用意しないと、できないものは何か」という視点です。

──現場を離れることに意味がある、ということですね。

由佐

はい、日々現場で働いていれば、業務を回す力は伸びますよね。けれども、例えば、歯磨きの最中、「歯を磨く」行為をわざわざ意識することは少ないでしょう。それと同じように、日々の業務に慣れてしまうと、人はほとんど考えなくなります。やるべきことが習慣化するからです。効率的に作業をこなすためには必要ですが、これを続けているだけでは、さらなる成長は望めなくなります。「現場でできないこと」というのは、ここです。慣れた通常業務の中で、「全く違う視座を身につける」「新たな意識に変わる」というのは、難しいのです。ですが、人の成長や学びには、これが必要不可欠です。特に最近は分業化や組織のフラット化により、ジョブローテーションが難しくなりましたから、同じ部署やポジションで長い間同じ仕事をする社員も多い。そうすると、飛躍的に伸びる機会がますます望めなくなります。だからこそ研修で、「あの場があったから、今の自分はこのレベルの仕事ができているんだ」「あの場の気づきがあったから、今の自分がここにある」と思ってもらえる人を出すことに価値があります。

POINT

●「研修の価値をどう提供するのか」を問う。●研修をする目的は、「現場ではできないこと」を提供するため。●現場でできないこととは、「意識の変革」と「視座を高めること」。

人材開発部の価値で悩む

野村総合研究所を経て、リクルートに転職した後、事業企画職から人事部に異動になり、正直戸惑いました。常に数字があった事業企画と異なり、人材開発の仕事は目標も成果もなかなか目に見えません。誰かにほめられたり、感謝されるどころか、批判のほうが多いこともありました。「なくても困らない機能だ」「研修に何の意味があるのか」と悩むようになり、人材開発部の価値とは何か、を突き詰めて考えるようになりました。

現場の社員に、人事部があってよかった、と認めてもらうまでやろうと心に決め、実際に人の変化や成長を目の当たりにするようになってからは俄然、仕事が面白くなりました。自分の仕事を突き詰めれば、必ず価値の本質が明確になり、成果が形になります。今は、人材開発は「人の成長」という素晴らしい成果を生み出せる仕事だと思っています。

2.ネタを集める 現場のニーズを知る

──研修の価値は、現場ではできない「気づき」の提供ということですが、具体的には。

由佐

その時、その人に必要な「気づき」や「学び」は、その人のプロセス、そして仕事や職場によっても異なります。これを知るには、足を使って、一人ひとりから直接、ニーズを聞き出すしかありません。そう言うと、「わざわざ会うのはちょっと」と及び腰になる人材開発担当者の方も多いですが、どんな研修プログラムをつくるにしても、ニーズ把握は必要です。それがないと、人材開発部の思い込みで研修を提供することになり、現場にも迷惑がられるという悪循環が生まれてしまいます。好循環にするためにも、最も時間をかけるべきところなのです。

例えば、課長研修を行うなど参加者が決まっているなら、その参加者の上司と部下に課長についての話を聞きに行きます。「何を期待していて、何が課題なのか」といったことです。自分に本当に期待されていることは、わかっているようで知らないことが多いですから。その後で、対象者になる課長職の方々に「自分たちの成長のために必要なもののうち、何が満たされていて、何が不足しているのか」を聞きます。こうすることで現実感を持って必要なことがわかり、求められていることに応えられる研修プログラムを検討することができます(ちなみに、人事部長レベルであれば、役員とランチに行き、経営ニーズを聞いてみる)。

──どのように声をかければいいのか、迷う方も多いようです。

由佐

雑談ベースでいいと思います。ランチなら、時間も決まっていますし、誘われたほうも気楽に乗れるのではないでしょうか。ちょっとお茶でも、でもいいですし、とにかく、かしこまらないことです。こちらが固くなると現場は引いてしまいますから(笑)。そうならないように、個人として人事のプロフェッショナルは「人とつながる技」を持つことは大事だと思います。それには、まず自分が部署や肩書をなるべく意識しないで、相手に対する興味を持つことです。本当は人は、話を聞いてほしいと思っているもので、好奇心で質問をすると、大抵話してくれます。「最近、何を考えているのか知りたいので」「毎日仕事をする中で、今、どんなことがチャレンジだと思っていますか?」など、その人の悩みや課題、夢に関心を持っていることが伝わったら、少しずつ信頼関係を築くことができます。

もっとも、時間はかかります。ですが、個人としての信頼関係ができると、現場から相談が持ち込まれるようになります。人材開発部のメンバー全員がそういうつながりを持てるようになれば、それが現場の人と組織の求めていることに対するサービスを生み出す組織力になり、現場から頼られる「部門」になります。そうなれば、しめたものです。自動的に何をテーマに研修をすればいいのかがわかるようになるからです。そこまでいくには、2~3年はかかると思いますが、現場のニーズはヒアリングから、と肝に銘じてほしいです。

POINT

●現場の話を聞く(=ニーズ把握)ことに研修構築の労力の7割を割く●現場から、相談が上がってくるまで続ける

人間関係にこそ介入する

組織における人間関係の構築も人材開発部の大切なミッションです。現場から寄せられる相談の多くは、上司と部下間の関係性や個人のパフォーマンスに関することです。そこに介入するのは正直大変ですし、中には、理解しがたいと思われる人物もいるでしょう。ですが、相手に関心を持って、相手のことを知りたい、と思えたなら、彼・彼女の抱える問題に立ち向かえます。

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