J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年09月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 夢を持ち失敗を恐れず 世界一に挑戦することで イノベーションが生まれる

120年以上の歴史を持つ老舗企業であるクボタ。農機を中心とした機械部門、パイプ・膜を中心とした水・環境部門、素形材を中心としたインフラ部門が社会の基盤を支えてきた堅実な企業といえる。歴史の長さはそれだけの財産を意味する一方で、グローバルに挑戦しなければならない今、過去の成功が変化の妨げにもなりかねない。そうした中、同社を変える原動力となっているのが、「夢」である。トップ自ら、「夢を見ているか?」、「世界一をめざしているか?」と社員に声をかけることで、会社全体が大きな夢に向けて前進するのだ。


クボタ 会長 兼 社長
益本 康男(Yasuo Masumoto)
生年月日 1947年4月21日
出身校 京都大学工学部精密工学科
主な経歴
1971年4月 久保田鉄工株式会社(現・クボタ)入社
2002年6月 取締役
2004年4月 常務取締役 ものづくり推進部担当
2004年6月 産業インフラ事業本部 購買部長
2005年1月 品質・ものづくり統括部 担当
2005年4月 産業インフラ事業本部 副本部長
2006年4月 専務取締役
2007年4月 東京本社担当 水・環境・インフラ事業 本部長
水・環境・インフラ事業 本部製造統括本部長
水・環境・インフラ事業 本部統括部長
東京本社事務所長
2008年4月 取締役副社長
2009年1月 代表取締役社長     
現在に至る
2011年1月 代表取締役会長     
現在に至る

クボタ
農業機械・エンジン・小型建機などの産業機械、ダクタイル鉄管・ポンプ・バルブ・水処理膜・鋼管・素形材などの水・環境・インフラ関連製品の製造・販売を行う。
資本金:840億円(2011年3月31日現在)、連結売上高:9337億円、単独売上高:5650億円(いずれも2011年3月期)、連結従業員数:2万5409名、単独従業員数:9647名(いずれも2011年3月31日現在)

インタビュアー/赤堀 たか子 写真/行友 重治

10年先の事業を語れる夢のある人材を育てる

――御社は、1890年創業の老舗企業です。120年以上の歴史の中で培われた社風は、どのようなものなのでしょうか?

益本

当社は、農機をはじめとする機械類、パイプ・ポンプを中心とした水道設備関連、膜・下水処理設備などの環境関連の分野を主力事業としています。「食料」、「水」、「環境」という、人間が生活していくうえで欠かせない社会基盤にかかわるビジネスを展開していることから、世間では、“堅実な会社”というイメージで語られることが多いようです。社員の自社に対する認識もこれと同様です。“派手さはないけれど、社会に必要なものを提供している”と思っている人が多いですね。しかも、これまでずっと業績も良かったわけですから、“社会の基盤を支えている堅実な会社”という認識を持っている人が大半ではないでしょうか。しかし、“手堅い会社”という認識ばかりが強くなると、どうしてもその上にあぐらをかいてしまいます。経営環境は速いスピードで変化しているにもかかわらず、“世の中に欠かせない事業をしているのだから、市場がなくなることはない”と思い込み、自分たちも変わる必要はないと錯覚してしまうのです。今、当社にとっての一番の課題は、こうした思い込みを変えることにあります。

――思い込みを変えるためには、どんなことが必要になりますか?

益本

まず、「夢を持たせること」だと思います。私は、社長就任以来、「新しいことにチャレンジすること」と「前例踏襲型の思考や行動を払拭すること」を訴え続けていますが、何かにチャレンジするためには、夢や目標が必要です。「こんな面白いビジネスがある。それをやってみたい」と思うことが、挑戦につながるのです。夢を持たせるための具体的な取り組みのひとつが、「技術開発戦略会議」です。この会議は、10年先を見据え、将来求められる技術開発の方向性について議論する場で、執行役員クラスで構成しています。実は、社長に就任した直後に、事業部長クラスに、「10年後にはどういう技術が必要になると思うか?」という議論をふっかけてみたところ、ほとんど答えが返ってきませんでした。みんな目先の仕事に追われ、その先まで見る余裕がなくなってしまっていたのですね。事業部長がそういう状況では、その部下が夢を語れるわけがありません。「こんな技術を開発したい」などと上司にいおうものなら、「この忙しい時に何をいっているんだ!」と一喝されてしまうのがおちでしょう。しかし、それでは、先細りになってしまいます。「技術開発戦略会議」は、2009年から始めましたが、「2年間かけて話し合ってもまとまらない」という声もあります。しかし、2年間議論する中で、見えてきたものが必ずあるはずです。私は、夢を現実のものにするためには、このような場で闊達に根気よく議論をすることが大切だと思っています。それに、簡単にまとめられるようなテーマであれば、逆に議論のしがいがなく面白くないでしょう。

――K’ei 塾という研修制度も「夢を持たせる」ための仕組みなのでしょうか?

益本

K’ei塾は、課題創出型人材を育成するために、若手中堅クラスを対象とした選抜教育制度です。この塾は、若手がいろいろな事業の可能性について考え、議論する場です。若い人たちは、普段は日常業務に追われ、将来の事業といった夢について語れる場はありません。ですから、あえて、それを語れる場をつくったのです。さらに、今年からは、K’ei塾の卒塾生を「技術開発戦略会議」に参加させるようにしています。10年後、当社を背負って立つ人材が、「技術開発戦略会議」に参加することで、将来の事業の形を若い視点も入れて議論ができればと思い、参加させることにしました。

多様な価値観をとり入れ、組織を活性化

――若手社員と社長ご自身が直接話をする場も設けられましたね。

益本

社長就任以来、課長になりたての30代半ばの人たちと直接話をする機会を設け、これまでに300人以上と話をしてきました。彼らは、10年後の会社を引っ張っていく立場にあります。そうした人たちに、「こういうことをやっていってほしい」という仕事の仕方や取り組み姿勢についてのヒントを与えることで、日常の業務に埋没してしまわないようにさせたかったのです。経営幹部の仕事というのは、人を育てることです。たとえば、売上高1兆円、営業利益1000億円という“塊”は、「あっちでトラクターが1台売れた」、「こっちで水道設備が一式売れた」といった積み重ねの結果であり、その過程で幹部層ができることはありません。したがって、幹部層がやるべきことは、意欲を持って働く人材を育てることにあるのです。意欲を持たせるためには、定型業務ばかりをさせていてはダメです。部下の視野を広げてやること、挑戦させることが大切です。そして、そのためには、「夢を見ているか?」と声をかけてやること、そして、役員自身も夢を見ることが大事です。役員が夢を見られなければ、部長や課長、まして一般社員が夢を見ることはできないのですから。逆に、役員が部長に、部長が課長に、それぞれ夢を語り、また、部下に夢を語らせられるようになれば、会社は面白くなると思いますね。

――人材育成の面では、「K-Wing」という女性社員の能力と意欲向上を図る活動も進めておられます。

益本

女性の感性を経営に反映させることで、新しい可能性が生まれると思います。しかし、現状では、管理監督はほとんどといっていいほど、男性が占めていて、女性が活躍する場があまりありませんでした。そこで、女性が活躍できるような会社にしたいと、「K-Wing」という女性のキャリア形成を支援する交流会を発足させました。女性の影響力を高めるためには、まとまった数が必要ですから、現在、意識的に女性の数を増やすようにしています。女性が増えるときっと会社の雰囲気も変わると思いますよ。女性に限らず、従来と異なる価値観をとり入れることは、組織の活性化を考えるうえで、重要です。たとえば、米国の現地法人の小売金融会社の社長はアメリカ人ですが、彼は、社長に就任して半年くらいした頃、「グループ企業も含めた融資のあり方も考えたい」という話を持ってきました。これには、驚くと同時に嬉しく思いましたね。既存の枠にとらわれずにダイナミックな発想ができる人材を得たわけですから。日本人がこの会社の社長だったら、こうした発想はできなかったでしょう。また、たとえ外国人であっても、クボタの生え抜きとして育っていたら、この発想が出てきたか、わかりません。企業の文化を教え込めば、組織としての一体感は高まりますが、逆にそれをしないことが、新しい道を切り拓くこともあるわけです。

――執行役員制度を導入されたのも、「前例踏襲型思考からの脱却」が目的なのでしょうか?

益本

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